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- ECB政策理事会-利上げを決定、しかし追加利上げ余地は小さい
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1.結果の概要:10会合連続の利上げを決定
【金融政策決定内容】
・0.25%ポイントの利上げを決定(9/20から、主要3金利すべて引き上げ)
・3つの主要な政策金利は、これが十分に長い期間続けば、インフレ率が目標に速やかに回帰するために重要な貢献をする水準に到達したと考えている
【記者会見での発言(趣旨)】
・PEPP再投資やAPP売却については議論していない
・政策金利の水準と期間のうち、焦点はより期間に移行している
・スタッフ見通しは実質成長率を23年0.7%、24年1.0%、25年1.5%と予想(下方修正)
(前回6月は23年0.9%、24年1.5%、25年1.6%)
・インフレ率を23年5.6%、24年3.2%、25年2.1%と予想(23-24年を上方修正)
(前回6月は23年5.4%、24年3.0%、25年2.2%)
・コアインフレ率を23年5.1%、24年2.9%、25年2.2%と予想(24-25年を下方修正)
(前回6月は23年5.1%、24年3.0%、25年2.3%)
2.金融政策の評価:今後の利上げ余地が小さいことを示唆
前回7月の会合以降、理事会関係者が今回の決定に関する示唆を与えなかったこともあり、市場は利上げと据え置きの双方の予想が見られたが、利上げが決定された。
一方で、声明文では「3つの主要な政策金利は、これが十分に長い期間続けば、インフレ率が目標への回帰を速やかに達成する水準に到達したと考えている」として今後の利上げ余地が小さいことが示唆された。ラガルド総裁自身も、政策金利の焦点が、金利水準からその水準を維持する期間に移っていると発言している。
金融政策が、3つの反応関数((1)最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、(2)基調的なインフレ動向、(3)金融政策の伝達状況)をもとに「データ次第」で運営されるという原則は変わっていないが、今後のインフレ動向が概ね今回提示された見通しに沿ったものであるならば、追加利上げに踏み切る可能性はかなり小さいと考えられる。
なお、今回提示された見通しは、前回6月からやや見直された(総合インフレ率で上方修正、コアインフレ率で下方修正)ものの、目標を超えるインフレ率が長期化する予想に変化はない(四半期ベースで総合インフレ率が2%目標まで低下するのは25年7-9月期、コアインフレ率は25年末でも2%を上回る1)。
先行きの不確実性は依然として高いと見られるため、引き続き今後のデータが注目されるが、見通しで提示されたようにインフレ低下スピードが遅い場合、「利上げ」ではなく、「高金利を維持する期間」が長期化して利下げ転換が後倒しになると見られる(ただし、ラガルド総裁は今回の会合では「期間」について具体的に議論していないと述べている)。
1 なお、政策金利経路の前提は明かされていない(具体化されていない)が、3か月EURIBORの前提で23年3.4%、24年3.7%、25年3.1%となっている(見通し作成時点の市場予測をもとにしている)。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- インフレ率は低下を続けているが、依然として高すぎる状況が長期間続くと予想される
- 理事会は、インフレ率を中期的な2%目標に速やかに(timely manner)戻すことを確実にすると決意している
- 目標への進捗をより強固にするために、本日、3つの主要な政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した
- 本日の理事会の金利引き上げは、理事会の最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的なインフレ率、金融伝達の強さへの評価を反映したものである
- 9月のECBスタッフの経済見通しは、ユーロ圏のインフレ率は23年5.6%、24年3.2%、25年2.1%である
- 23年および24年は上方修正、25年は下方修正した
- 23年および24年の上方修正は主にエネルギー価格の経路が上振れたことによる
- 基調的なインフレ圧力は引き続き高い一方、多くの指標は緩和し始めている
- ECBスタッフはエネルギーと食料品を除くインフレ率について、23年5.1%、24年2.9%、25年2.2%に若干下方修正した
- 理事会の過去の利上げは引き続き強力に伝達されている
- 金融環境はさらにタイト化しており、需要もさらに抑制され、インフレ率を目標に戻すための重要な要因になっている
- 金融引き締めの域内需要への影響が強まり、域外貿易環境が弱まっているため、ECBスタッフは経済成長見通しを大幅に引き下げた
- ユーロ圏の成長率は23年0.7%、24年1.0%、25年1.5%と予想する
- 9月のECBスタッフの経済見通しは、ユーロ圏のインフレ率は23年5.6%、24年3.2%、25年2.1%である
- 現在の評価に基づき、理事会は3つの主要な政策金利が、これが十分に長い期間続けば、インフレ率が目標に速やかに回帰するために重要な貢献をする水準に到達したと考えている
- 理事会の将来の決定について、政策金利が必要とされる期間にわたり十分に制限的な水準に設定されるよう保証する
- 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
- 特に、理事会の金利決定は、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.50%
- 限界貸出ファシリティ金利:4.75%
- 預金ファシリティ金利:4.00%
- 9月20日から適用
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- (23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースで削減すること、7月にAPPの償還再投資を停止することの説明は削除)
- PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 経済は引き続き、今後数か月は停滞するだろう
- 今年上半期は概ね停滞しており、最近の指標は7-9月期も弱含んでいることを示唆している
- ユーロ圏の輸出需要の低下と金融引き締めの影響が、住宅・設備投資を抑制し、成長が鈍化している
- サービス部門は、これまでのところ堅調だったが、現在は軟化が見られる
- 時間の経過とともに、インフレ率が低下、賃金は上昇、労働市場も強いため、実質所得は上昇すると見られ、経済活動の勢いは上向くだろう
- 労働市場はこれまでのところ、経済活動が低迷しているにも関わらず堅調さを維持している
- 失業率は7月に6.4%の歴史的な低水準に留まっている
- 雇用者数は、4-6月期に0.2%成長し、伸びの勢いは鈍化している。
- サービス部門は22年中盤以降、雇用成長の主要な原動力となってきたが、現在の成長は弱まっている
- エネルギー危機の解消に伴い、政府は引き続き関連する支援策を終了させるべきである
- これは中期的なインフレ圧力が加速し、さらに強力な金融政策で対応することを避けるために重要である
- 財政支援策は、我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させるよう計画されるべきである
- ユーロ圏のグリーン移行を支援しつつ生産余力を強化させる、次世代EUプログラムの完全な実行によっても支えられている政策は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するだろう、
- EUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革は年末までに迅速に完了され、また資本市場同盟へ向けた進展も加速されるべきである
(インフレ)
- インフレ率は7月に5.3%に低下したが、8月の速報値は同じ水準にとどまった
- この低下の中断は7月に比較してエネルギー価格が上昇したことによる
- 食料インフレは3月のピークから低下したが、8月は依然として10%近い高さとなっている
- 今後数か月は、22年秋の記録的な価格急騰により前年比伸び率が低下するため、インフレ率の低下要因となるだろう
- エネルギーと食料品を除くインフレ率は7月の5.5%から8月には5.3%に低下した
- 財インフレは、供給環境の改善やこれまでのエネルギー価格の下落、供給網の上流における物価高圧力の緩和、需要の低下を受けて、7月の5.5%から8月には4.8%に低下した
- サービスインフレは5.5%にやや低下したが、休暇や旅行での支出の強さや、高い賃金上昇率を受けて、高い伸び率が維持されている
- 4-6月期の労働コストの域内インフレへの寄与は、部分的には生産性の低下を要因にして、上昇する一方、利益の寄与は22年初以降では初めて低下した。
- 需給がより均衡し、過去のエネルギー価格の上昇が解消するにつれ、多くの基調的なインフレ指標は低下を始めている
- 同時に域内のインフレ圧力は引き続き強い
- 長期のインフレ期待に関する多くの指標は、現在は2%付近にある。
- しかし、いくつかの指標は上昇しており、引き続き注視が必要である
(2023年09月15日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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