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サステナビリティに関わる意識と消費行動(1)-SDGsは認知度7割だが、価格よりサステナビリティ優先は1割未満

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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3――サステナビリティに(も)関わる消費行動~女性やシニアで積極的、価格よりサステナ優先は少数
つまり、多くの消費者にエコバッグの持参や詰め替え製品の購入などプラスチックごみが出にくい行動が浸透しつつある一方で、価格よりもサステナビリティを優先して製品を選ぶ消費者はごく少数派である。この背景には、現在のところ、再生素材を用いたことで割高になる製品も多いため、物価高が続き、実質賃金がマイナスを推移する中では(2023年6月の現金給与総額は前年比▲1.6%、厚生労働省「毎月勤労統計」)消費者の低価格志向が高まりがちであること、また、価格を優先したとしても、無駄なモノを買わずにできるだけ必要なモノだけを買う、モノを大切に長く使う、リサイクルするといった行動でも持続可能な社会づくりに貢献できるという側面もあるだろう。
なお、約1年半前に実施した調査と比較しても、上位にあがる項目や各項目の選択割合に大きな変化はない。
6 サステナビリティに「(も)」としている理由は節約効果もあるためである。
性年別に見ても、首位は「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」である。
男女を比べると、「電気自動車などのエコカーを選んだり、エコドライブを実践している」(男性11.6%、女性8.9%、男性が女性より+2.7%pt)や「新品を買うより、シェアリングサービスを利用する」(同2.8%、同2.0%、同+0.8%pt)を除けば、いずれも女性が男性を上回る。また、男性では「特にしていることはない」(同14.2%、同5.0%、同+9.2%pt)が多い。
女性では「外出の際はマイボトルを持参するようにしている」(男性22.1%、女性46.7%、女性が男性を+24.6%pt)や「洗剤やシャンプーなどは詰め替えできる製品や量り売りのものを買うようにしている」(同39.2%、同62.7%、同+23.4%pt)、「買い物の時はエコバックを持参するようにしている」(同62.6%、同84.9%、同+22.3%pt)などで男性を大幅に上回る。一方で、女性でも価格よりもサステナビリティを優先した行動は1割に満たない。
つまり、女性の方が男性よりサステナビリティを意識した消費生活を送っており、前節で女性では日常生活に関わるサステナビリティについてのキーワードの認知度が高い傾向一致する。ただし、現在のところ、女性でも価格よりもサステナビリティを優先して製品を買う消費者はごく僅かである。
年代による違いを見ると、全体的に年齢が高いほど選択割合は上がり、20・30歳代では「特にしていることはない」が約2割を占める(20歳代:19.8%、30歳代:16.1%)。また、60歳以上では「リサイクル可能なゴミを分別して出している」や「洗剤やシャンプーなどは詰め替えできる製品や量り売りのものを買うようにしている」、「長く使える製品を買うようにしている」、「地元の食材を買うようにしている」、「節電や省エネルギー効果の高い家電製品を買うようにしている」などで20・30歳代を大幅に上回る。
なお、価格よりもサステナビリティを優先した行動は高年齢ほど多い傾向があり、全体では1割に満たないが、70~74歳では「安価でも生産時に人権問題のある製品は買わない」(19.5%、全体より+11.4%pt)と「安価でも社会環境に悪影響のある製品は買わない」(17.7%、同+10.2%pt)で約2割を占めて全体を1割以上、上回る。
よって、前節と同様、Z世代などの若者よりもシニアの方がサステナビリティを意識した消費生活を送っている。ただし、当調査で調査対象とした70~74歳はインターネット調査のモニターであるため、同年代の中でITリテラシーが高く、世の中への興味関心も高い層が多く含まれている可能性をある程度、考慮する必要があるだろう。
なお、総務省「令和4年通信利用動向調査」によると、70~74歳の過去1年間でインターネットを利用したことのある割合は69.1%、また、過去1年間にインターネットで利用した内容で半数を超えるのは「電子メールの送受信」(72.0%)、「情報検索(天気情報、ニュースサイト、地図・交通情報などの利用)」(65.6%)、「SNS(無料通話機能を含む)の利用」(60.1%)にとどまる。
一方、選択割合は5%前後で低いものの、「新品を買うより、中古品を買う」(20歳代6.7%、30歳代7.1%)や「新品を買うより、シェアリングサービスを利用する」(20歳代3.9%、30歳代2.9%)などの二次流通品やシェアリングサービスの利用については、高年齢層よりもデジタルネイティブ世代である若い年代の方がやや多くなっている。
職業や世帯年収別に見ても、首位は「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」である。
職業による違いについては、サステナビリティに(も)関わる消費行動と同様、その職業の性年代分布による影響が大きく、男性の多い「民間正規」では全体的に割合が低く、女性や高齢層の多い「無職・その他」や「民間非正規(パート等)」ではマイボトルやエコバッグの持参、詰め替え製品の購入をはじめ全体的に割合が高い傾向がある(図表5)。
また、世帯年収については、サステナビリティに(も)関わる消費行動ほど大きな違いは見られないが、「節電や省エネルギー効果の高い家電製品を買うようにしている」や「外出の際はマイボトルを持参するようにしている」、「フェアトレード製品を買うようにしている」は世帯年収800万円以上で多い傾向がある。なお、価格よりもサステナビリティを優先した行動は高年収ほど多い傾向があるが、世帯年収1,000万円以上でも「価格が多少高くても、環境や社会問題に積極的に取り組む企業の製品を買うようにしている」(9.8%、全体より+5.5%pt)は1割程度である。
4――現在のところ、価格よりサステナビリティ優先の消費者は少数派、企業等は丁寧な属性把握が必要
なお、キーワードの認知状況で上位にあがり、理解度も高かった「ヤングケアラー」は、現在、中高生のクラスに1~2人は存在する状況であり、昨年来、政策として支援策が強化されている。本来、勉強や部活動などに集中できる時期に家事や介護、育児などの負担の大きな状況は、心身の発達や人間関係、進路などに影響を及ぼす。将来を担う世代の生活環境の改善は、持続可能な社会を維持する上で非常に重要な課題であり、今後、高齢化や核家族化が一層、進行する中で、ヤングケアラーの早期発見やサポートが強く求められる。
また、キーワードの認知状況について1年半前と比べると、新型コロナウイルス感染症の5類引き下げ以降、消費者意識が外へ向かうことで、サステナビリティへの関心が僅かながら弱まりつつも、内容についての理解は深まっている傾向もうかがえた。属性別には、男性では企業活動、女性では日常生活に関わるキーワードの認知度が高く、年齢は高いほど、世帯年収は高いほど全体的に認知度が高い傾向があった。
サステナビリティに(も)関わる消費行動については、エコバッグの持参や詰め替え製品の購入などプラスチックごみが出にくい行動は浸透しつつある一方、現在のところ、価格よりもサステナビリティを優先して製品を選ぶ消費者は1割に満たなかった。物価高が続く中では低価格志向は高まりがちであり、他の行動(モノを長く使う、リサイクルなど)でも貢献できるという側面もあるのだろう。属性別には、男性より女性で、また、高年齢ほど積極的に取り組む傾向があり、70~74歳では価格よりサステナビリティを優先する行動が約2割を占めた(ただし、ネットモニターであることを考慮する必要あり)。また、世帯年収については、認知度で見られたほど大きな違いはないが、省エネ家電の購入などは高年収層で多い傾向があった。
なお、よく世間ではZ世代のサステナブル意識の高さが取り上げられるようだが、当調査では、Z世代などの若者より、シニアの方がサステナビリティに関わるキーワードを理解しており、日頃の取り組みでも積極的な傾向が見られた。
企業や自治体のサステナビリティに関わる広報活動などを眺めると、「サステナブル意識が高いZ世代をターゲットとしている」ような印象を受ける。しかし、当調査に基づけば、この理解は必ずしも正しいものではなく、「Z世代は昔の若者と比べればサステナブル意識が高いが、現時点を比べれば年齢が高いほどサステナブル意識は高い」という理解が妥当だ。
将来的には、すべての消費者にとってサステナビリティという観点が重要になっていくのだろうが、サステナビリティより価格を優先する消費者が大半である現在では、消費者の特徴を丁寧に捉えて訴求をしていく必要がある。
(2023年09月15日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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