2023年09月14日

就労者の疲労、頭痛、肩こり、腰痛と座位時間~座位時間が5時間を超えると頭痛、肩こりが増加。立ち仕事で腰痛が増加。

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

就労者の肩こり、腰痛などの筋骨格系の症状は、メンタル面の不調と並んで、プレゼンティーズムに影響を与える要因の1つとして課題となっている1。ニッセイ基礎研究所が、被用者を対象に行った調査においても、慢性的な肩こりや慢性的な腰痛は、仕事に影響を及ぼす自覚症状の上位にあげられた2。デスクワーク等、長時間同じ姿勢をとり続けることは、肩こりや首こり、腰痛といった症状を引き起こす要因となるとされている3。特に、肩こりについては、仕事中、座位中心で歩かない人や、相対的に筋肉量が少ないと思われる女性で症状が出やすい等、働き方や体型等との関連についても分析されている4。また、最近では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークの増加で、肩こり、腰痛等の症状が増えたといった報告も多い5,6,7

本稿では、長時間同じ姿勢をとり続けている人では、座位時間も長い傾向があると考え、被用者を対象に行ったアンケート調査を使って、肩こりや腰痛、頭痛等の慢性的な疲労や痛みを感じている人の働き方の特徴を、特に座位時間や体型に注目して分析した。
 
1 Nagata T, Mori K, et al; Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers, J Occup Environ Med. 2018 May; 60(5): p273-p280.
2 乾愛「働く女性の自覚症状(健康問題)-4 人に 1 人が「慢性的な肩こり」を自覚、「精神的なストレス」が仕事へ最も影響、月経関連症状は 1 割未満-」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年8月29日)乾愛「働く男性の自覚症状(健康問題)-就労男性は「ストレスを感じる」が、自覚症状、 仕事へ最も影響する症状ともに高い割合に-」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年8月31日)
3 スポーツ庁 DEPORTARE「お医者さんに聞いてみた~With コロナ時代に見直すスポーツの効能#03テレワークで肩こり・腰痛が増加」(https://sports.go.jp/tag/life/post-49.html
4 加藤剛平他「勤労者の肩こり症状に関連する因子の検討」日本職業・災害医学会会誌 第67巻第2号、87-94(2019年)
5 Tezuka, M, Nagata T, et al: Association Between Abrupt Change to Teleworking and Physical Symptoms During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Emergency Declaration in Japan. J Occup Environ Med. 64(1): p 1-5, January 2022
6 第一三共ヘルスケア「テレワークによる体の不調「テレワーク不調」に関する調査」(2020年9月24日)
7 オムロンヘルスケア株式会社「【テレワークとなった働き世代1,000人へ緊急アンケート】 新型コロナウイルスによる、働き方・暮らしの変化により 「肩こり」「精神的ストレス」などの身体的不調を実感」(2020年4月28日)

2――使用したデータと分析方法

2――使用したデータと分析方法

1|分析に使用した調査
分析には、2023年3月にニッセイ基礎研究所が行った「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果を使った。この調査は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象とするインターネット調査で、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収した。回収数は5,747(男性3,458、女性2,289)だった。本稿では、このうち、必要な質問に回答した4,788人(男性2,828人、女性1,960人)を対象とした。
2|分析方法と使用した変数
調査では、男性には23個、女性には24個の症状をあげて、その中から直近3か月間に経験した具合の悪い所(自覚症状)のうち、仕事に影響を与えたものを、影響があった順に最大2つ答えてもらっている。本分析では、座位時間と関連がある可能性がある慢性的な症状の中で、回答数が多い「慢性的な疲労」「慢性的な頭痛」「慢性的な肩こり」「慢性的な腰痛」を回答した人の仕事内容や働き方や職場環境、生活の特徴を、特に座位時間に注目して分析する。

「慢性的な疲労」「慢性的な頭痛」「慢性的な肩こり」「慢性的な腰痛」と、座位時間をそれぞれ図表1に示す。仕事に影響を与えていると回答した割合は、「慢性的な肩こり」が7.9%(標準偏差0.27)で4つの症状の中で最も高く、ついで「慢性的な疲労(7.2%、標準偏差0.26))」「慢性的な腰痛(5.5%、同0.23)」「慢性的な頭痛(3.0%、同0.17)」が続いた。
図表1 「慢性的な疲労」「慢性的な頭痛」「慢性的な肩こり」「慢性的な腰痛」が仕事に影響を与えていると回答した割合(一人最大2つの症状を回答。N=4,788 )
続いて、座位時間の分布を図表2に示す。全体では、「5~8時間未満」が29.7%で最も高く、次いで「3~5時間未満(21.2%))」、「10時間以上(17.0%))」「8~10時間未満(16.3%))」「3時間未満(15.7%))」の順だった。
図表2 座位時間の分布(N=4,788 )
以下では、それぞれの自覚症状について仕事に影響を与えているかどうかを被説明変数とし、座位時間のほか、性、年齢、仕事の内容、就労時間(調査前月の残業時間数、自分の病気やケガによる休暇日数、自分の病気やケガ以外の理由による休暇日数)、運動習慣の有無(運動習慣がある場合を1とする)、睡眠で休養がとれているか(休養がとれている場合を1とする)、体型(肥満、またはやせ8にあてはまる場合を1とする)、職場環境として職場の物理的環境に対する評価、従業員の健康増進に対する勤務先の取り組み状況の評価を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。本人年収と所定労働時間(1日あたりの所定労働時間、週あたりの所定労働日数)、勤務先の規模は調整変数として投入した。回帰分析に使用した変数の概要を図表3に示す。
図表3 使用したその他の主な変数の概要
 
8 自己申告による。肥満とやせの両方を回答することはできない。

3――分析結果

3――分析結果

4つの症状それぞれについて、仕事に影響があると回答した人を被説明変数とするロジスティック回帰分析の結果を図表4に示す。
1|ロジスティック回帰の結果
(1) 慢性の疲労
症状別に関連がある変数をみると、「慢性の疲労」が仕事に影響を与えていると回答している人については、男女差、年齢による差、座位時間による差はなく、仕事の内容が「医療福祉、教育関係の専門職9」「接客サービス業」、前月の残業時間が多い、自身のケガや病気による休暇日数が多い、睡眠で十分に休養がとれていない、肥満、またはやせている、職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)がよくない、勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方ではないといった特徴があった。
 
9 例えば、「医療福祉、教育関係の専門職」の慢性の疲労に対するオッズ(発生しない確率(1-p)に対する発生する確率(p))と、「事務職」の慢性疲労に対するオッズを比較すると、「医療福祉、教育関係の専門職」のオッズが1.72倍となり、「医療福祉、教育関係の専門職」の方が「事務職」と比べて、慢性の疲労を感じていると解釈できる。ロジスティック回帰やオッズ比の詳細は、金明中「統計分析を理解しよう-ロジスティック回帰分析の概要」ニッセイ基礎研究所 研究員の眼(2019年7月19日)等をご参照下さい。
(2)慢性の頭痛
「慢性の頭痛」が仕事に影響を与えていると回答している人では、女性、座位時間が5時間以上、仕事内容が「医療福祉、教育関係の専門職」、ケガや病気による休暇日数が多い、やせているといった特徴があった。
図表4 ロジスティック回帰結果(信頼区間90%)
(3)慢性の肩こり
「慢性の肩こり」が仕事に影響を与えていると回答している人では、女性、座位時間が5時間以上、前月の残業時間が長い、やせているといった特徴があった。
(4)慢性の腰痛
「慢性の腰痛」が仕事に影響を与えていると回答している人では、男女の差はないが高年齢、座位時間が3時間以上と比べて3時間未満で立ち仕事が多い10、仕事の内容が「医療福祉、教育関係の専門職」「生産、技能職」、前月の残業時間が多い、肥満である、勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方ではないといった特徴があった。
図表4 ロジスティック回帰結果(信頼区間90%)続き
 
10 立ち仕事は、腰部から臀部にかけてある中殿筋(ちゅうでんきん)という筋肉に負荷がかかりやすく、血流が悪化し凝り固まると、だるさや痛みなどを生じる。立ち姿勢も前かがみや骨盤に歪みが生じた状態、猫背や反り腰などで長時間立位を継続すると腰痛が生じやすいとされる。
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