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意識したい『座り過ぎ』の問題-健康リスクを下げて、生産性を上げる
総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
1――「座り過ぎ」は万病の元
しかし、最近の研究では、「座り過ぎ」は飲酒や喫煙と同じくらい健康を損なうリスクがあると報告されている。豪シドニー大学van der Ploeg氏らの研究(2012)1によれば、1日11時間以上座る人の総死亡リスクは、4時間未満の人と比べて40%ほど高いとされる。また、米ジョージア州アトランタ・米国癌協会・行動疫学研究グループPatel氏らの調査(2018)2では、1日6時間以上座る人の総死亡リスクは3時間未満の人に比べて19%ほど高く、循環器系疾患、癌、糖尿病、腎臓病、自殺、慢性閉塞性肺疾患、嚥下性肺炎、肝臓、消化性潰瘍などの消化器系疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、神経系疾患、筋骨格系疾患などの死亡リスクを高めるという。さらに、米カリフォルニア大学・ロサンゼルス校・セメル神経科学・ヒト行動研究所Siddarth氏らの研究(2018)3では、座る時間が長くなることで記憶形成に関わる脳領域の厚みは薄くなり、認知能力を低下させる危険性があることも指摘されている。そして、これらの影響は強度の高い運動をしても相殺されない。
日本はこの問題に対して、特に敏感になることが必要である。豪シドニー大学のBauman氏らが世界20カ国の成人を対象として実施した調査(2011)4によると、日本は世界で最も「平日の総座位時間」が長い国の1つであることが分かった (図表1)。日本の総座位時間は420分/日であるのに対して、世界20カ国の平均は300分/日。日本は、世界平均より2時間も長く座っていることになる。
1 van der Ploeg HP, Chey T, Korda RJ, Banks E, Bauman A. Sitting time and all-cause mortality risk in 222 497 Australian adults. Arch Intern Med. 2012 Mar 26;172(6):494-500.
2 Patel AV, Maliniak ML, Rees-Punia E, Matthews CE, Gapstur SM. Prolonged Leisure Time Spent Sitting in Relation to Cause-Specific Mortality in a Large US Cohort. Am J Epidemiol. 2018 Oct 1;187(10):2151-2158.
3 Siddarth P, Burggren AC, Eyre HA, Small GW, Merrill DA. Sedentary behavior associated with reduced medial temporal lobe thickness in middle-aged and older adults. PLoS One. 2018 Apr 12;13(4):e0195549.
4 Bauman A, Ainsworth BE, Sallis JF, Hagströmer M, Craig CL, Bull FC, Pratt M, Venugopal K, Chau J, Sjöström M; IPS Group. The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med. 2011 Aug;41(2):228-35.
2――「座る→立つ・歩く」の働き方改革
まず、お勧めすることは、自分の健康リスクを知ることである。平均的な就業日における総座位時間を実際に計測してみることだ。豪シドニー大学van der Ploeg氏らの研究では、総座位時間が8時間/日を越えたところで総死亡リスクは顕著に上がっている。この時間を1つの目安としてみると良いだろう。ただし、座っている時間は、自分が思う以上に長い可能性があることには留意が必要だ。日本企業12社を対象とした九州大学本田氏らの研究(2014)5では、労働者の主観的な座位時間は8.4時間であったのに対して、装置を用いた客観的な記録では8.8時間になったという。この傾向は、女性よりも男性、若者よりも高齢者、独身よりも既婚者といった属性で観察されている。
次に、取り組むべきことは、座っている時間をできるだけ短くすることである。複数の研究から、30分から1時間に一度立ち上がるだけでも、疲労レベルの大幅な低下、腰痛の軽減、代謝改善による肥満防止、健康リスクの低減などに効果があるとされる6。図表2は、筆者が思いつく職場で直ぐできる取組みの1例である。短い時間であっても立ち上がってみることが大切だ。
5 Honda T, Chen S, Kishimoto H, Narazaki K, Kumagai S. Identifying associations between sedentary time and cardio-metabolic risk factors in working adults using objective and subjective measures: a cross-sectional analysis. BMC Public Health. 2014 Dec 19;14:1307.
6 Thorp AA, Kingwell BA, Owen N, Dunstan DW. Breaking up workplace sitting time with intermittent standing bouts improves fatigue and musculoskeletal discomfort in overweight/obese office workers. Occup Environ Med. 2014 Nov;71(11):765-71.
Healy GN, Dunstan DW, Salmon J, Cerin E, Shaw JE, Zimmet PZ, Owen N. Breaks in sedentary time: beneficial associations with metabolic risk. Diabetes Care. 2008 Apr;31(4):661-6.
7 Oppezzo M, Schwartz DL. Give your ideas some legs: the positive effect of walking on creative thinking. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2014 Jul;40(4):1142-52.
3――指針改定に向けて検討が進む
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年04月02日「研究員の眼」)
03-3512-1790
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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