2023年09月13日

英国雇用関連統計(23年8月)-失業率は悪化傾向だが、賃金上昇圧力も依然強い

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率は4.3%まで上昇

9月12日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【8月】
失業保険申請件数1前月(155.02万件)から0.09万件増の155.11万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同4.0%)から横ばいだった。
給与所得者数2前月(3014.00万人)から0.1万人減の3013.91万人となった。
増減数は前月(▲0.4万人)から減少幅が縮小し、市場予想3(+3.0万人)を下回った。

【7月(23年5-7月の3か月平均)】
失業率は4.3%で前月(4.2%)から上昇、市場予想(4.3%)と一致した(図表1)。
就業者は3288.2万人で3か月前の3308.9万人から20.7万人減少した。
増減数は前月(▲6.6万人)から減少幅が拡大し、市場予想(▲19.5万人)も下回った。
週平均賃金は、前年同期比8.5%で前月(8.4%)から上昇、市場予想(8.2%)も上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:賃金上昇率は依然として高い

まず、8月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は23年6-8月の平均で98.9万件となり22年3-5月平均(130.2万件)をピークに減少傾向が続き(図表3)、100万人を割り込んだ。産業別には、飲食・居住、専門サービス、事務サービスといったサービス業の減少が目立った。単月求人数も8月に93.7万件となり、減少傾向にある4

給与所得者データでは、8月の給与所得者数(速報値)が前月差で▲0.1万人だった。7月分のデータが改定され前月差マイナスとなったため(+9.7万人→▲0.4万人)、2か月連続で減少したことになる(図表4)。8月の給与額(中央値)は前年同月比6.7%で7月(7.6%)から減速している。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
7月までのデータ(労働力調査)では、失業率が4.3%にやや上昇した。就業者の減少が続く一方で失業者と非労働力人口がともに増加した。労働参加率は5-7月期で63.5%まで低下し(コロナ禍直前ピークは64.4%、コロナ禍後のピークは63.7%)、今期は特に若年層の労働参加率の低下が目立つ(図表5)。
(図表5)英国の非労働人口の増減(コロナ禍前比)/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は、31.6時間(前年同期差▲0.2時間)、フルタイム労働者で36.4時間(同±0.0時間)となった(前掲図表2)。週当たり総労働時間は、2-4月期に一時的にコロナ禍前ピーク(19年8-10月)を上回ったが就業者数の減少と労働時間の伸び悩みを受けて、コロナ禍前比▲1.5%まで低下した。賃金は、名目賃金が23年5-7月期の前年同期比で8.5%、実質賃金は1.2%と上昇が継続した。NHS職員や公務員への一時金支払が上昇率を押し上げたが、ボーナスを除く定期賃金伸び率も前年同期比7.8%とデータ公表以来最も高い伸び率で横ばい推移している。実質の定期賃金上昇率は前年同期比0.6%だった。

処遇改善を求めたストライキは、7月は件数ベースで663件、労働損失日数で28.1万日と再び増加している(図表6)。件数・損失日数ともに公的部門を中心に活動が増加した。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年09月13日「経済・金融フラッシュ」)

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