2023年09月13日

生活習慣病リスクを高める量の飲酒をはじめた人の生活習慣と環境の変化~生活習慣や仕事量、家族構成に変化

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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生活習慣病リスクを高める量の飲酒をする人の割合は、男性では横ばいで推移しているが女性では近年上昇している。しかし、企業や自治体による健康維持・増進政策において、適量の飲酒を勧める取組みは少なく、食習慣の見直しの一つとして適量の飲酒を啓蒙することに留まっていることが多い。また、生活習慣病リスクを高める量の飲酒をする人の特徴や生活習慣などの情報も少ない。

女性の飲酒機会や飲酒量の増加の背景に、働く女性が増えたことが指摘されている。そこで、前稿では、ニッセイ基礎研究所が被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)を対象に行ったインターネット調査の結果を使って、リスクを高める量の飲酒を行っている人の生活習慣などの特徴を男女別に分析した。本稿では、前年にはリスクを高める量の飲酒を行っていなかったのに翌年にはリスクを高める量の飲酒を行うようになった人の生活習慣や生活環境の特徴を男女別に分析することで、過度な飲酒に移行するきっかけを知る一助としたい。

1――はじめに

1――はじめに

前々稿「生活習慣病のリスクを高める量の飲酒は男性で横ばい、女性で悪化1」で、リスクが高まるほどの飲酒をする人の割合が女性では長期的に上昇トレンドであることを紹介した。日本では、生活習慣病リスクを高める飲酒量の目安として、男性は「1日当たりの純アルコール摂取量が40g以上」、女性は「1日当たりの純アルコール摂取量が20g以上」としている2。本稿でもこれに従い、以下では、男女それぞれ基準を超える飲酒を、「リスクを高める飲酒」と表記することとする。

リスクを高める飲酒が健康に及ぼす悪影響については、依存症などのリスクだけでなく、アルコール性肝障害、膵炎等の臓器障害、高血圧、心血管障害、がん等とも深く関連することが知られている3。近年、企業等では健康経営の取組みが熱心に行われているが、2018年度から開始した日本健康会議による「健康スコアリングレポート」でも飲酒に関する調査の実施は任意となっている。さらに、この「スコアリングレポート」や、経済産業省による「健康経営度調査」で、飲酒実態を調査する場合も女性の適量が男性よりも少ないことを踏まえたものにはなっておらず、男性の基準が使われている。

女性におけるリスクを高める飲酒増加の背景に、働く女性が増えたことが指摘されていることから4、前稿「生活習慣病リスクを高める量の飲酒をする人の生活習慣・生活環境~男女とも食生活と関連。男性は服薬や持病、女性は同居家族と関連5」では、ニッセイ基礎研究所が被用者を対象に行っている調査を使って、リスクを高める飲酒をしている人の特徴を男女別に分析した。その結果、リスクを高める飲酒をしている人の特徴として、生活習慣や家族の状況があげられた。具体的には、男女で「就寝前の2時間以内に夕食をとることが週に3回以上ある」「朝食を抜くことが週に3回以上ある」、男性で「食生活が乱れがちだ」といった食生活との関連があげられた。また、男女とも「現在タバコを習慣的に吸っている」や「1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施」があげられた。体力に自信がある人でもリスクを高める飲酒をする傾向があることを踏まえると、日々の飲酒量が生活習慣病リスクを高めるほどの量だという認識が低い可能性がある。男性では、循環器系の持病がある人や服薬している人でリスクを高める飲酒をする傾向があったが、女性はそういった傾向が見られなかった。しかし、女性では、家族の状況との関係があり、既婚者(配偶者・パートナーあり)、離別者、あるいは独居である人でリスクを高める飲酒をする傾向があり、女性は家族の生活状況の影響を受けている可能性が考えられた。

つづいて本稿では、2022年調査と2023年調査の両方を回答し、2022年調査ではリスクを高める飲酒はしていなかった3,817人(男性2,284人、女性1,533人)のデータを使って、翌2023年調査では、リスクを高める飲酒をしていた人の生活習慣、および生活環境がこの1年間でどのように変化しているかを分析する。
 
1 村松容子「生活習慣病のリスクを高める量の飲酒者は男性で横ばい、女性で増加~適正飲酒に向けて、酒類にアルコール量の表記が進む。健康日本21(第三次)でも女性を中心に引き続き取り組み実施予定。」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年8月28日)
2 WHOのガイドラインでは、アルコール関連問題リスク上昇の閾値は男性で40g/日、女性で20g/日となっている。国による「健康日本21(第二次)」でも、がん、高血圧、脳出血、脂質異常症などの発症リスクが、1日平均飲酒量に伴いほぼ直線的に上昇することと、脳梗塞や虚血性心疾患については、飲酒量との関係が直線的に上昇しているとは言えないが、その場合でも男性では44g/日(日本酒2合/日)程度以上の飲酒(純アルコール摂取)、女性では22g/日(日本酒1合/日)程度以上の飲酒で、非飲酒者や機会飲酒者(たまにしか酒を飲まない者)に比べて危険性が高くなることから、摂取量の目安としてのわかりやすさを考慮して、「1日当たりの純アルコール摂取量が40g以上」、女性は「1日当たりの純アルコール摂取量が20g以上」としている。
3 厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」より(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html
4 厚生労働省e-ヘルスネット「女性の飲酒と健康」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-04-003.html
5 村松容子「生活習慣病リスクを高める量の飲酒をする人の生活習慣・生活環境~男女とも食生活と関連。男性は服薬や持病、女性は同居家族と関連」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年9月5日)

2――使用したデータと分析方法

2――使用したデータと分析方法

1|使用したデータ
本分析では、ニッセイ基礎研究所が定期的に行っている「被用者の働き方と健康に関する調査」に、2022年と2023年の2年にわたって回答した4,063人を対象とした。この調査は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象とするインターネット調査で、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収している。2022年調査は2022年3月に実施しており、回収数は5,653たった。2023年調査は2023年3月に実施しており、回収数は5,747だった。

2022年調査と2023年調査の両方を回答した人のリスクを高める飲酒習慣の変化は図表1のとおりである。全体の90.3%(3,691人)が2022年、2023年のいずれもリスクを高める飲酒はなかった。3.1%(126人)が2022年にはリスクを高める飲酒をしていなかったが2023年にはしており、2.8%(112人)が2022年にはリスクを高める飲酒をしていたが2023年にはしていなかった。3.3%(134人)が2022年、2023年のいずれもリスクを高める飲酒をしていた。

男女を比較すると、男性の方がこの2回の調査の間で過度飲酒習慣に変化があった人が多く、女性の方が2022年、2023年いずれもリスクを高める飲酒をしていない人が多かった。44歳以下と45歳以上を比較すると、44歳以下で2022年、2023年いずれもリスクを高める飲酒をしていない人が多く、45歳以上で2022年、2023年いずれもリスクを高める飲酒をしている人が多かった。

2022年にリスクを高める飲酒をしていたが、2023年にリスクを高める飲酒をしていないと回答した割合をみると、男性は49.3%に対し、女性は35.7%に留まったことから、一度リスクを高める飲酒をすると男性よりも女性の方が翌年もリスクを高める飲酒をし続けていた。
図表1 2022年と2023年の飲酒習慣の変化
2|分析方法
2022年にはリスクを高める飲酒習慣がなかった3,817人(男性2,284人、女性1,533人)について、2023年にリスクを高める飲酒習慣があったかどうかを被説明変数として、どういった要素がリスクを高める飲酒に移行することに関連しているかを線形確率モデルで推計した。説明変数は、前稿「リスクを高める飲酒をする人の生活習慣・生活環境」の結果を参考にして、性、年齢、新たにあてはまる生活習慣、生活習慣や生活環境に関連すると考えられる1年間の出来事、および体力の自己評価が改善したこととした。具体的には図表2のとおりである。
図表2 使用した変数
新たに独居になったかどうかと新たにあてはまる生活習慣等は、2022年調査では「あてはまらない」と回答していた人が2023年調査では「あてはまる」と回答した場合を1とするダミー変数である。1年間の出来事は、2023年調査において、「この1年間に経験した」と回答した場合を1とするダミー変数である。体力の自己評価の改善は、自分の体力について「体力がある方だ」~「体力がない方だ」の4段階で自己評価してもらい、2022年調査よりも2023年調査の方が評価が高い場合を1とするダミー変数とした。

(2023年09月13日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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