2023年09月08日

Z世代を1000文字くらいで語りたい(番外編)-なぜ高齢層ほどヤフオク!を好むのか

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――メルカリを好むZ世代

前回のレポート1では、Z世代のデジタルネイティブの側面、特にフリマアプリにおける消費文化について取り上げた。Z世代の中には、欲しいモノがあったらまずフリマアプリをチェックするという購買行動が身についている者が多く、特に「欲しいけれどもそこまでは欲しくないモノ」や「即時的でその瞬間だけ必要なモノ」に対する消費欲求に対して、フリマアプリは安価で購入できるという点、飽きたり必要が無くなったらすぐ売りに出せるという点が、消費決定の際の重要なファクターとなっていると論じた。情報があふれる中で消費したいと思う興味対象も多いからこそ、流動的に変化する自身の消費欲求をムリなく充足する助けとなるサービスを積極的に活用するのだろう。

また、SMBCコンシューマーファイナンス「10代の金銭感覚についての意識調査20222」によれば、10代の18.9%がフリマアプリで収益を得ており、46.4%が「得ていないが得たい」と考えているという。自身の興味やそのモノに対する所有の必要性が無くなると、それらを手放し収益を得ることで、次の興味を充足するための費用に充てるというサイクルが定着しつつあると言えるだろう。前回のレポートで紹介したテーマパークで購入したカチューシャがテーマパーク内でフリマアプリに出品されている事例は多くの読者から反響を得た。

新しく生まれる興味に対してすぐにでも消費したいからこそ、そのための資金を捻出する必要があり、彼らにとっては、もちろん自身の所有物がいくらで売れるのか、という事も大事ではあるが併せて、早く売れることも重要なのである。人によってはフリマアプリでの収益を当てにし、生活費を捻出したり、売れる見込みを過信して次の消費の予定を立てたりもする。自転車操業的な側面も垣間見ることもできるし、一つ一つの消費行動のみならず日々の行動そのものも現在志向で、行き当たりばったりな側面も擁していると言えるだろう。だからこそ、すぐにでも売ってしまいたいが故に出品から間もなくして金額を下げ、売れることを優先する出品者がしばしば見られるのである。
 
1 廣瀨涼(2023)「Z世代を1000文字くらいで語りたい(8)-テーマパークに着いたらまずすること」基礎研レポート 2023/08/16 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75856?site=nli
2 SMBCコンシューマーファイナンス「10代の金銭感覚についての意識調査2022」2022/08/25
https://www.smbc-cf.com/news/datas/news_20220825_.pdf

2――ヤフオク!を好む40代以降

2――ヤフオク!を好む40代以降

さて、図1は前回も紹介した博報堂生活総合研究所「消費1万人調査(実施期間:2019年5月28日~6月1日)3」のフリマアプリの利用率である。若年層の利用率が圧倒的に高いという事を前回のレポートで紹介した訳だが、今回は同調査のインターネットオークションの利用率をみてもらいたい。フリマアプリの利用率と異なり、若年層ほど利用率は低く、40代以降の利用率は高くなっている。
図1 年代別フリマアプリ・インターネットオークション利用率
また株式会社ロイヤリティマーケティングの「フリマアプリに関する調査(実施期間:2021年11月26日~12月3日)4」をみると、メルカリ、ヤフオク!それぞれの利用率がわかるが、男女とも若年層ほどメルカリの利用率が高く、高齢層ほどヤフオクの利用率が高い。彼らはなぜフリマアプリではなくインターネットオークションを使うのだろうか。
図2 メルカリ・ヤフオク!の年代別利用率
 
3 博報堂生活総合研究所「消費1万人調査」2019/07/16 https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2019/07/20190716.pdf
4 株式会社ロイヤリティ マーケティング「25,000人に聞いたフリマアプリの利用実態」2022/01/27
https://biz.loyalty.co.jp/report/019/

3――ヤフオク!という消費文化に慣れ親しんだ世代 

3――ヤフオク!という消費文化に慣れ親しんだ世代 

日本向けYahoo!オークション(現:ヤフオク!)は1999年に、メルカリは2013年にサービスを開始している。メルカリが台頭し始めるまでの十数年間、消費者と消費者の間に間接的に業者が仲介し、実質消費者間で取引が行われる「CtoC (Consumer to Consumer)」市場5においては、Yahoo!オークション一強状態であった。Yahoo!オークションが登場した当時、2023年時点で40代は20代前後、50代は30代前後、60代は40代前後であった。当時は質屋やせいぜいブックオフのような中古本・中古家電販売のチェーンでしかセカンドハンド商品を買う事が出来なかったが、インターネットを通じて、他人のコレクターズアイテムを小売りを介さずに購入できるという宝探しのような感覚でインターネットオークションに参加できるようになり、現在の40代以降を中心に、新しい消費文化を生むきっかけとなった。併せて、今ほどインタ-ネットショッピングサイトは充実しておらず、欲しいモノをインターネット上で見つけようとする際に、セカンドハンド品探索に限らず、まず初めにYahoo!オークションにアクセスしていた人は多かったはずだ。

ヤフー株式会社の2006年4月25日のプレスリリース6によれば「Yahoo!オークション」の1日の出品数(同時開催オークション数)が、2006年4月22日に初めて1,000万件を突破している。その当時の月間ページビュー数は70億8,667万PV(2006年3月)、1日平均ページビュー数は2億2,860万PV(2006年3月)、1日平均新規出品数は72.2万件(2006年1月~3月)であったという。総務省「通信利用動向調査」によれば2006年の全体のインターネット利用率は72.6%であり、今ほどインターネットが普及していないことを考慮すると、これらの数字からも当時のヤフオク!の勢いが見て取れる。

40代以降の世代においてヤフオク!(インターネットオークション)は慣れ親しんだプラットホームであり、そこから離れ、同じようなサービスであるメルカリを始めとした他のフリマアプリにスイッチするというのは、一からその仕様を学び直す必要があり、負担が大きい。ましてや、スマートフォンでの閲覧に特化したメルカリとパソコンで閲覧することが当然だったヤフオク!とではユーザビリティも大きく異なり、ロイヤリティの強いユーザーほどヤフオク!を好むだろう。

次に考えられるのが、出品から販売までのタイムラグへの経済的余裕度である。前述した通り、若者においては消費できる自由なお金に限度がある一方で、飽くなき消費欲求が沸き出てくるため、少しでも早く出品物を販売し、収益を得たいと考える傾向がある。一方で若者と比べれば経済的な余裕のある40代以降の世代においては、目先のすぐに入ってくる収益よりも、正しい価値で出品物が落札されることを望む傾向がある。もちろんヤフオク!もフリマサイト同様に即決での取引も可能ではあるが、オークション形式で出品されているものが大半で、最低落札価格まで達しない限り落札できないルールも存在する。また多くの出品物が複数日の落札期間を設けており、ヤフオク!ユーザーは出品して即収益を得るというよりも、自身が希望している金額以上で且つ、少しでも高く販売したい人向けのシステムとなっている。売れなければ買い手がつくまで値段を下げていき、即時的に収益化を求める若者の出品に対するスタンスの真逆ともいえる。

また、メルカリでは「これがこの値段で買えるの!?(逆もまた然り)」と驚くような金額で出品されているモノも多い。売り手が値段を決めることができるからこそ、その価値を理解していないと正しい市場価値で販売できる機会を損失することとなる。一方オークションサイトにおいては、その価値を分かっている落札希望者たちが金額を競り上げていき、ある意味落札価格は市場で評価された市場価値ともいえる。特にコレクションアイテムにおいては、出品物が自分が思っている以上の市場価値を宿している可能性もある。年齢が上がるほどアンティーク商品やレトロ商品、ヴィンテージ商品など、長い年月保有していることで価値が上昇する類のモノを所有しており、そのような出品物とヤフオク!のようなオークションサイトとの相性がいいともいえるだろう7
 
5 廣瀨涼(2021)「不正転売について考えてみた」基礎研レポート 2021/12/08 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69571?site=nli
6 「Yahoo!オークション、 出品数(同時開催オークション数)が1,000万件を突破」2006/04/25 https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2006/04/25a/
7 実際に価値が変動しやすいトレーディングカード市場などでは、市場参考価格や時価、相場、としてヤフオク!での過去の取引が参照されることも多く、そこでの取引価格や出品価格を基にメルカリでの販売価格を決定する者もいる。

4――まとめ

4――まとめ

本コラムでは、メルカリの匿名性が女性消費者から支持を受けている点やそれぞれのサービスで独自のクーポン発行やポイントサービスがある点、ヤフオク!で言えばYahoo!IDとの連携によって生まれるシナジー効果がある点、現在は両者とも匿名で取引できるが以前まではヤフオク!においては個人情報を開示する必要があった点など、一般的に言われているメルカリとヤフオク!の違いは触れずに、なぜ年代によって大きな差が生まれているのか、という点に着目したが筆者が言いたいのは、冒頭で述べた通り今の40代以降にとってヤフオク!は彼らの消費文化に大きな影響を与えた存在であり、サービス開始から20年以上経ち、他のサービスが台頭してきた今でも高いロイヤリティを持っている消費者がいるという事実である。このことから、現在メルカリを駆使し、流動的に興味対象を消費していくという消費文化の下育まれていくZ世代の消費に対する価値観や行動は、今後彼らが成長しても影響を与え続ける可能性が十分にあることを示唆している。筆者自身単にレッテル付けをするような世代論はナンセンスであると考えているが、市場や社会的変化の影響を受けた価値観や消費行動が世代間で異なる点は注目すべきであると考えている。これは以前より筆者が唱えているコンテンツ世代間マーケティング8,9や博報堂生活総合研究所が提唱する「消齢化10」にも通じる点があり、「いつ」、「なにを」、「どの世代」が消費していたのか意識することがマーケティングをする上で益々重要になっていくと考えられるからである。
 
8 同じコンテンツでも世代間で消費された時期、消費のされ方が異なるため、その差異を意識したプロモーションを行うべきという考え方
9 コンテンツ世代間マーケティングに関しては、「「こち亀の両さん」は老人なのか-新しいシニアマーケティング・世代間マーケティングを考える」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67117?site=nli をはじめとした過去の筆者のレポートを参照されたい。
10 生活者の意識や好み、価値観などについて、年代/年齢による違いが小さくなる現象
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年09月08日「基礎研レター」)

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