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2023年09月07日
金融システムにおけるサイバーカスケード問題-シリコンバレーバンクの破綻事例から預金者行動について考える
基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.318]
03-3512-1848
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2023年3月10日のSVB( シリコンバレーバンク)の破綻は、インターネットと金融システムとの深いつながりについて考えさせられる出来事だったと言える。米FRSの報告書によると、3月9日に400億ドル以上の預金がSVBから引き出され、さらに10日には1,000億ドルもの預金が流出する可能性があった。これらの合計はSVBの預金残高の約85%に相当する。2008年のリーマンショック時には破綻したワコビアは8日間で約100億ドル、ワシントン・ミューチュアルは16日間で190億ドルの預金流出があったと推定されているが、これまでの金融機関の破綻事例と比較しても、SVB破綻における預金流出の規模やスピードは想定外に大きく速かったことが分かる。金融リスクの観点で見れば、金融システムに内在しているリスクが従来よりも格段に大きくなっているのである。
SVB破綻の際に大規模かつ急速に預金が流出した背景として、高速インターネット網の整備に伴う金融技術革新により、オンラインバンキングやオンライン証券を利用する人が増加した点が挙げられる。さらにモバイル回線も広域化・高度化したことで、金融サービスを受ける場所にも縛られなくなり、営業店舗やATMに行く必要性も徐々になくなってきている。「金融機関が破綻しそうだ」というニュースをキャッチすれば、従来はわざわざ金融機関の営業店舗まで足を運んで、預金を全額引き出す必要があったのだが、今はどこにいてもオンラインで別の銀行に送金することが可能になっている。実際にSVB破綻前後の短期間に大手の金融機関に預金を移す動きがみられた。
さらに、金利上昇などに起因して資金繰りに厳しさを増していたハイテク企業やベンチャーキャピタルが多額の預金を預けていたこと、ソーシャルメディアのネガティブな情報なども複合的に影響を与えたと指摘されている。この点は、短期間に流出した預金規模を「預金者一人あたりの預金残高」と「預金者数」に分解して考えてみると分かりやすい。
ハイテク企業やベンチャーキャピタルが多額の預金を預けていたという事情は「預金者一人あたりの預金残高」の分布に偏りがあったということである。つまり、預金を引き出そうとする預金者数が少なくても、これらの預金者の引き出す預金額が金融機関の経営に影響を与える程度に大きければ、短期間に流出する預金額は大きくなる。預金に限らずだが、大規模な資金を提供している主体が資金を引き出せば、資金繰りの悪化を通じてその企業の信用力は急激に悪化する。このような破綻事例は金融機関に限ったものではなく、これまでの企業の破綻事例においてしばしば見られる。
今回のSVB破綻において、特に悩ましい問題として浮上してきているのがソーシャルメディアの問題である。真偽は別として、今回のようにある金融機関の信用力が悪化しているとする情報が一気に拡散すれば、それだけ預金を引き出そうとする預金者が増えるため、後者の「預金者数」が大きくなるのである。
さらに筆者がこの問題を増幅していると考えているのが、行動ファイナンスの分野で指摘される人々の非合理的な行動である。例えば、時間的な制約があると合理的な判断をするのが難しくなるとされている。つまり、預金者が短時間に重大な決断を迫られた場合に合理的な判断を行うことは難しく、「たくさんの人が『あの銀行が破綻しそうだ』と言っているから、預金を引き出した方がよい」といったヒューリスティックな判断に基づいて意思決定を行ってしまうのである。
ヒューリスティックな判断を行う際に用いる情報をソーシャルメディアに求めた場合、インターネット上で生じる「サイバーカスケード」と呼ばれる現象の影響が懸念される。総務省の情報通信白書(令和元年度版)では、「ネット上の情報収集において、インターネットの持つ、同じ思考や主義を持つ者同士をつなげやすいという特徴から、『集団極性化』を引き起こしやすくなる『サイバーカスケード』現象がある」と解説されている。ここで、集団極性化とは、「例えば集団で討議を行うと討議後に人々の意見が特定方向に先鋭化するような事象」を意味している。人々がインターネット上のある一つの意見に流されていき、それが最終的には大きな流れとなる状態を「サイバーカスケード」と呼んでいる。
SVBのリスク管理体制そのものに問題があったことは破綻後に様々指摘のあるところではあるが、数日前まで(表面上は)健全な銀行であった金融機関から「預金をすべて引き出す」といったある意味極端な判断に集団的に至る過程については、今後さらに詳しく分析していく必要性があると思われる。
SVB破綻の際に大規模かつ急速に預金が流出した背景として、高速インターネット網の整備に伴う金融技術革新により、オンラインバンキングやオンライン証券を利用する人が増加した点が挙げられる。さらにモバイル回線も広域化・高度化したことで、金融サービスを受ける場所にも縛られなくなり、営業店舗やATMに行く必要性も徐々になくなってきている。「金融機関が破綻しそうだ」というニュースをキャッチすれば、従来はわざわざ金融機関の営業店舗まで足を運んで、預金を全額引き出す必要があったのだが、今はどこにいてもオンラインで別の銀行に送金することが可能になっている。実際にSVB破綻前後の短期間に大手の金融機関に預金を移す動きがみられた。
さらに、金利上昇などに起因して資金繰りに厳しさを増していたハイテク企業やベンチャーキャピタルが多額の預金を預けていたこと、ソーシャルメディアのネガティブな情報なども複合的に影響を与えたと指摘されている。この点は、短期間に流出した預金規模を「預金者一人あたりの預金残高」と「預金者数」に分解して考えてみると分かりやすい。
ハイテク企業やベンチャーキャピタルが多額の預金を預けていたという事情は「預金者一人あたりの預金残高」の分布に偏りがあったということである。つまり、預金を引き出そうとする預金者数が少なくても、これらの預金者の引き出す預金額が金融機関の経営に影響を与える程度に大きければ、短期間に流出する預金額は大きくなる。預金に限らずだが、大規模な資金を提供している主体が資金を引き出せば、資金繰りの悪化を通じてその企業の信用力は急激に悪化する。このような破綻事例は金融機関に限ったものではなく、これまでの企業の破綻事例においてしばしば見られる。
今回のSVB破綻において、特に悩ましい問題として浮上してきているのがソーシャルメディアの問題である。真偽は別として、今回のようにある金融機関の信用力が悪化しているとする情報が一気に拡散すれば、それだけ預金を引き出そうとする預金者が増えるため、後者の「預金者数」が大きくなるのである。
さらに筆者がこの問題を増幅していると考えているのが、行動ファイナンスの分野で指摘される人々の非合理的な行動である。例えば、時間的な制約があると合理的な判断をするのが難しくなるとされている。つまり、預金者が短時間に重大な決断を迫られた場合に合理的な判断を行うことは難しく、「たくさんの人が『あの銀行が破綻しそうだ』と言っているから、預金を引き出した方がよい」といったヒューリスティックな判断に基づいて意思決定を行ってしまうのである。
ヒューリスティックな判断を行う際に用いる情報をソーシャルメディアに求めた場合、インターネット上で生じる「サイバーカスケード」と呼ばれる現象の影響が懸念される。総務省の情報通信白書(令和元年度版)では、「ネット上の情報収集において、インターネットの持つ、同じ思考や主義を持つ者同士をつなげやすいという特徴から、『集団極性化』を引き起こしやすくなる『サイバーカスケード』現象がある」と解説されている。ここで、集団極性化とは、「例えば集団で討議を行うと討議後に人々の意見が特定方向に先鋭化するような事象」を意味している。人々がインターネット上のある一つの意見に流されていき、それが最終的には大きな流れとなる状態を「サイバーカスケード」と呼んでいる。
SVBのリスク管理体制そのものに問題があったことは破綻後に様々指摘のあるところではあるが、数日前まで(表面上は)健全な銀行であった金融機関から「預金をすべて引き出す」といったある意味極端な判断に集団的に至る過程については、今後さらに詳しく分析していく必要性があると思われる。
(2023年09月07日「基礎研マンスリー」)
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