2023年09月07日

パワーカップル世帯の動向(3)金融意識と消費傾向-金融・経済への関心高く、旅行や教育、趣味などの消費に積極的

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~4割が金融資産4千万円以上を保有するパワーカップル、金融に関わる意識は?

前稿ではニッセイ基礎研究所の調査1を用いて、パワーカップルのライフステージや職業、金融資産などの生活基盤の状況について捉えた。その結果、「小学生の子を持つ30・40代」や「DINKSの40・50代」、「独立子を持つ50・60代」、「子ども2人以上」、「大企業勤務の正規雇用者夫婦」、「4割は4千万円以上の金融資産保有」など、マーケティングにおけるペルソナを設定可能な要素をいくつか捉えることができた。

本稿では、パワーカップルの金融に関わる意識や日頃の情報源、消費傾向などについて捉えていく。なお、当社の分析では原則として、パワーカップルの定義を「共働き夫婦で夫婦ともに年収700万円以上」としているが、前稿と本稿ではデータの制約上、「共働き夫婦で妻の年収700万円以上、世帯年収1,000万円以上2」とし、妻の収入階級による違いに注目している。

また、分析に用いるデータは、パワーカップルの分析を主目的に設計した調査ではないため、特に本稿については断片的な情報を集めたような印象を受けるかもしれない。一方で近年、パワーカップルは様々な消費領域で存在感を示しているにもかかわらず、その特徴についての報告は少ないため、興味関心のある方に少しでも貢献できればと考えている。
 
1 ニッセイ基礎研究所「令和4年度生命保険マーケット調査」、調査時期は2022年11月17日~12月2日、調査対象は20~69歳、インターネット調査、有効回答数7,359(本稿の分析対象は969)、株式会社日経リサーチのモニターを利用。
2 データの制約上、世帯年収の設定上限が1,000万円までのため、本来の定義より低く抑えられている。

2――金融に関わる意識

2――金融に関わる意識~普段から預貯金の金利水準を意識、金融・経済の仕組みに関心ありが6割以上

まず、金融に関わる意識について見ると、全体では「現在の預貯金の金利水準を普段から意識している」(46.6%)や「株式・債券などの投資リスクについて理解している」(46.5%)、「金融や経済の仕組みに普段から関心がある」(45.1%)、「よい金融商品・サービスの利用を積極的に考える」(41.4%)で、そう思う割合が4割を超えて比較的多い(図表1)。

一方、パワーカップルを含む妻の年収700万円以上(かつ世帯年収1,000万円以上)では「生命保険や損害保険についてはひと通りの知識がある」(41.5%)を除く全ての項目で、そう思う割合は半数を超える。特に「現在の預貯金の金利水準を普段から意識している」(69.8%、全体より+23.2%pt)や「金融や経済の仕組みに普段から関心がある」(64.2%、同+19.1%pt)、「預貯金や保険、投資の消費者保護の仕組みを知っている」(62.3%、同+27.7%pt)、「よい金融商品・サービスの利用を積極的に考える」(62.3%、同+20.9%pt)では、そう思う割合は6割を超え、共働き妻全体を約2割上回る。

なお、妻の年収700万円未満では全ての設問において、そう思う割合は半数を下回る。よって、パワーカップル妻では、一般的な共働き妻と比べて金融や経済に関わる興味・関心が際立って高く、一定程度の株式・債券などの金融商品についての知識を保有している様子が見てとれる。
図表1 共働き妻の年収階級別に見た金融に関わる意識(そう思う割合=「そう思う」+「ややそう思う」)

3――日常における情報源

3――日常における情報源~「テレビ」と「新聞」が4割で並ぶが、能動的に情報を得る手段が多い傾向

次に、日常生活における情報源について見ると(22の選択肢で複数回答)、全体で圧倒的多いのは「テレビ番組」(60.6%)であり、次いで「(インターネットの)ポータル・ニュースサイト」(42.4%)、「新聞(一般紙)」(26.7%)、「家族や友人・知人」(25.6%)、「(インターネットの)ブログ・SNS」(20.2%)までが2割を超えて続く(図表2)。

一方、妻の年収700万円以上(かつ世帯年収1,000万円以上)では、上位は全体と同様だが、全体と比べて「新聞(一般紙)」(35.8%、全体より+9.1%pt)や「雑誌・書籍」(11.3%、同+6.0%pt)、「個別企業サイト」(11.3%、同+4.8%pt)、「メールマガジン」(7.5%、同+4.2%pt)、「新聞(専門紙・業界紙)」(5.7%、同+3.9%pt)が多く、「テレビ番組」(37.7%、同-22.9%pt)や「家族や友人・知人」(11.3%、同-14.3%pt)、「ポータル・ニュースサイト」(32.1%、同-10.3%pt)、「ブログ・SNS」(11.3%、同-8.9%pt)が少ない傾向がある。なお、妻の年収が高いほど「テレビ番組」や「ポータル・ニュースサイト」、「家族や友人・知人」、「ブログ・SNS」が少ない傾向がある。

つまり、パワーカップル妻では、一般的な共働き妻と同様に日常的な情報源として最も利用しているのは「テレビ番組」だが、「新聞(一般紙)」も同程度に利用していること、また、「テレビ番組」などの受動的に情報を得る手段よりも「新聞(一般紙)」や「雑誌・書籍」、「個別企業サイト」などの能動的な手段の利用が多いことが特徴的である。前節で見たように、パワーカップル妻は金融や経済に関わる興味・関心が高いが、このことが接する情報源の特徴にもあらわれているのだろう。
図表2 共働き妻の年収階級別に見た日常生活における情報源(複数選択)

4――お金をかけていきたいもの

4――お金をかけていきたいもの~全体的にモノよりコト消費、パワーカップルは旅行や教育、趣味など

日常生活において今後(も)お金をかけていきたいものについて見ると(27の選択肢で複数回答)全体で最も多いのは「国内旅行」(39.6%)であり、次いで「貯蓄」(30.0%)、「外食・グルメ」(23.0%)、「健康・リラックス」(22.3%)、「子どもの教育」(20.5%)までが2割を超えて続く(図表3)。

一方、妻の年収700万円以上(かつ世帯年収1,000万円以上)で最多は「国内旅行」・「海外旅行」(どちらも28.3%)であり、次いで「子どもの教育」・「自分の趣味」(どちらも18.9%)、「貯蓄」(17.0%)、「健康・リラックス」・「投資」(どちらも15.1%)までが約2割を占めて続く。また、全体と比べて「海外旅行」(全体より+14.5%pt)や「自分の趣味」(同+4.6%pt)が多く、「国内旅行」(同-11.3%pt)や「貯蓄」(同-13.0%pt)、「外食・グルメ」(同-9.8%pt)、「健康・リラックス」(同-7.2%pt)が少ない。

つまり、お金をかけたいものについて見ると、妻の年収によらず、上位には家具や家電、自動車などのモノよりも旅行や外食などのサービス(コト)があがり、近年、消費者全体の変化としても見られるように、モノ消費よりもコト消費志向が高い様子がうかがえる。

なお、パワーカップル妻では、約半数の選択肢で共働き妻全体の選択割合を下回ることを不思議に感じる方もいるだろう(16位以下は表記省略)。これは、経済的余裕から、既に日常的にお金をかけることができているために、あらためてお金をかけたいとの意識が強くない、という解釈もできるのではないだろうか。一方で「海外旅行」の選択割合は全体を大幅に上回るが、従来から強い需要がありながらも、新型コロナ禍で抑制していた状況が表出しているのと考えられる。

一方で、パワーカップル妻に注目すると、旅行に次いで「子どもの教育」や「自分の趣味」が多いことは特徴的であると言える。「子どもの教育」が上位にあがる背景には、前稿で見た通り、パワーカップルには「小学生の子を持つ30・40代」が多く、一般的な共働き世帯と比べて子どもの人数もやや多いこと、また、自分自身も習い事や高等教育など充分な教育を受けてきた親が多いことがあげられる。また、「自分の趣味」については、そもそもパワーカップルは経済的余裕があるために嗜好性の高い消費にもお金をかけやすいが、「DINKSの40・50代」や「独立子を持つ50・60代」といった、子育てにかかる出費がなく、自分の娯楽のためにお金をかけられる層が多い影響があげられる。
図表3 共働き妻の年収階級別に見た今後(も)お金をかけていきたいもの(複数選択)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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【パワーカップル世帯の動向(3)金融意識と消費傾向-金融・経済への関心高く、旅行や教育、趣味などの消費に積極的】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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