2023年09月05日

東京の人口密集地帯での浸水のリスクについて知ろう

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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4――策定が遅れる高齢者や障害者の個別避難計画

避難行動要支援者の避難については、高齢者や障害者の避難手順を決めておく「個別避難計画」の策定が2021年から努力義務となったが、多くの自治体では策定が遅れている3。内閣府と消防庁の調査によれば、33.0%の自治体が個別避難計画の策定について未着手となっている(図表6)4。また、個別避難計画に基づいた訓練を実施中と回答したのは、15.3%にとどまっており、災害発生時に円滑な避難が行えない恐れがある(図表7)。

近年の災害でも高齢者の犠牲は大きな割合を占めている。内閣府の調査によれば、2019年の台風19号で亡くなった84名のうち、65歳以上の高齢者が65%を占めていた5。高齢者や障害者の避難には、現在でも課題が残されている。
図表6 個別避難計画の策定状況/図表7 個別避難計画を活用した訓練の実施状況
 
3 日本経済新聞(2022)
4 内閣府・消防庁(2022)
5 内閣府(2020)

5――おわりに

5――おわりに

ここまでで述べたように東京では荒川氾濫などの水害が発生した場合、広域での浸水により多数の人々が被災する恐れがある。多数の人々が自力での避難を余儀なくされる恐れがある他、お年寄りや小さな子供など自力での避難が難しい人々もいる。

気候変動により自然災害が激甚化する中では、長い時間がかかる気候変動の抑制策だけでなく、既に進行しつつある激甚化する自然災害への対応策を早急に行う必要がある。

一人一人が災害への備えを行う必要があるが、個人での対応には限界がある。個人の努力とともに政府や地方行政による洪水や高潮、津波といった災害に強い街づくりや自力での避難が難しい人々への支援が重要となっている。

【参考文献】
江戸川区(2019)、「江戸川区水害ハザードマップ」、2019年5月
 
日経クロステック(2019)、「『ここにいてはダメ』と言い切った江戸川区の水害ハザードマップの真意」、2019年6月7日
 
鳥羽康代・中野晋・三上卓(2015)、「津波浸水エリアに立地する保育所での避難確保に関する実態調査」、土木学会論文集B2(海岸工学)Vol.71
 
日本経済新聞(2022)、「災害弱者の避難計画、策定進まず 自治体の3割が未着手」、2022年9月12日
 
内閣府・消防庁(2022)、「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」、2022年6月28日
 
内閣府(2020)、「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難のあり方について(最終とりまとめ)」、2020年12月24日
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2023年09月05日「基礎研レポート」)

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