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- 東京の人口密集地帯での浸水のリスクについて知ろう
2023年09月05日
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1――東京での広域浸水の場合、250万人が被災する恐れ
近年、気候変動を背景に台風、洪水などの自然災害の脅威が増している。現在では脱炭素化による気候変動の抑制とともに、激しさを増す自然災害自体への対策の重要性が高まっており、国や自治体は災害への対策を進めている。
こうした自然災害は、決して他人事ではなく多くの人々が暮らす首都圏においても大規模な水害が発生し、多数の人が被災するリスクが指摘されている。
2019年、江戸川区は水害ハザードマップを公表、表紙に載せた「ここ(江戸川区内)にいてはダメです」というインパクトのある文言が話題となった(図表1)1。
同資料では、東京東部の江戸川区、江東区、墨田区、葛飾区、足立区などは海抜が低く、荒川などの河川が氾濫した場合、広範囲での水害が発生する恐れがあると指摘している。また、荒川洪水などの水害が発生した場合、(1)250万人が浸水、(2)最大10m以上の深い浸水、(3)1~2週間以上浸水が続く大規模な被害が想定されるとしている。
こうした自然災害は、決して他人事ではなく多くの人々が暮らす首都圏においても大規模な水害が発生し、多数の人が被災するリスクが指摘されている。
2019年、江戸川区は水害ハザードマップを公表、表紙に載せた「ここ(江戸川区内)にいてはダメです」というインパクトのある文言が話題となった(図表1)1。
同資料では、東京東部の江戸川区、江東区、墨田区、葛飾区、足立区などは海抜が低く、荒川などの河川が氾濫した場合、広範囲での水害が発生する恐れがあると指摘している。また、荒川洪水などの水害が発生した場合、(1)250万人が浸水、(2)最大10m以上の深い浸水、(3)1~2週間以上浸水が続く大規模な被害が想定されるとしている。
1 江戸川区(2019)、日経クロステック(2019)
2――浸水は広範囲にわたり、避難が困難となる恐れ
江戸川区は区内の大部分や周辺の区の浸水が想定されることから、東京西部、千葉方面など浸水のおそれがない他の地域への避難を促している。
しかし、荒川氾濫を想定した場合、場所によっては浸水が想定されない地域までは長い距離があることや、多数の人々が一斉に避難した場合、混乱や渋滞が起こる可能性もあることから遠方への避難は困難となる恐れがある。
図表2は国土交通省が公表する荒川が氾濫した場合の東京周辺での想定浸水深度を示している。これを見ると、浸水が想定される地域は広範囲にわたっており、浸水の恐れのない地域までは数キロメートル以上の距離がある場所もある。
また、広域での浸水が発生した消防機関などの救助人員は限られていることから、250万人という多数の人々を全て救助することは困難となり、災害発生時には現実には自力での避難を余儀なくされる恐れがある。
しかし、荒川氾濫を想定した場合、場所によっては浸水が想定されない地域までは長い距離があることや、多数の人々が一斉に避難した場合、混乱や渋滞が起こる可能性もあることから遠方への避難は困難となる恐れがある。
図表2は国土交通省が公表する荒川が氾濫した場合の東京周辺での想定浸水深度を示している。これを見ると、浸水が想定される地域は広範囲にわたっており、浸水の恐れのない地域までは数キロメートル以上の距離がある場所もある。
また、広域での浸水が発生した消防機関などの救助人員は限られていることから、250万人という多数の人々を全て救助することは困難となり、災害発生時には現実には自力での避難を余儀なくされる恐れがある。
災害時の避難は水平避難と垂直避難に大きく分けることができる。水平避難は河川の氾濫や土砂災害などの災害発生時に今いる場所を離れて安全な場所まで移動することを指す。垂直避難は今いる自宅やすぐ近くの建物でより安全な上の階などに避難することを指す。垂直避難は安全な場所までの水平避難が困難な場合などに行われる。
江戸川区が公表した資料では、東京西部や千葉などへの広域避難を呼びかけると同時に、広域避難が困難な場合には垂直避難を行えるように日頃から備えることを勧めている。
ただし、垂直避難を行った場合でも様々な問題が生じる恐れがある。図表2を見ると、例えば北千住や浮間舟渡周辺などでは5.0m以上10.0m未満と比較的深い浸水が想定される場所もあり、2階建て(屋根の高さで7m~9m)程度の家屋での垂直避難では浸水から逃れられない可能性がある。
また、1~2週間以上浸水が続くことが想定される場合もあり、垂直避難での生活が長引いた場合、避難生活に様々な問題が生じてくることが予想される。江戸川区は、汚物などのゴミがたまり続けることや、電気が使えない場合エアコンや携帯電話などが使えなくなるといった衛生的・精神的負担を指摘している(図表3)。
このようなことから自宅・通勤、家族の通学先での浸水想定などをあらかじめ確認し安全な避難所などへの避難計画をたてておくことや、災害への備えを準備しておくことが必要だろう。
江戸川区が公表した資料では、東京西部や千葉などへの広域避難を呼びかけると同時に、広域避難が困難な場合には垂直避難を行えるように日頃から備えることを勧めている。
ただし、垂直避難を行った場合でも様々な問題が生じる恐れがある。図表2を見ると、例えば北千住や浮間舟渡周辺などでは5.0m以上10.0m未満と比較的深い浸水が想定される場所もあり、2階建て(屋根の高さで7m~9m)程度の家屋での垂直避難では浸水から逃れられない可能性がある。
また、1~2週間以上浸水が続くことが想定される場合もあり、垂直避難での生活が長引いた場合、避難生活に様々な問題が生じてくることが予想される。江戸川区は、汚物などのゴミがたまり続けることや、電気が使えない場合エアコンや携帯電話などが使えなくなるといった衛生的・精神的負担を指摘している(図表3)。
このようなことから自宅・通勤、家族の通学先での浸水想定などをあらかじめ確認し安全な避難所などへの避難計画をたてておくことや、災害への備えを準備しておくことが必要だろう。
3――必要となる避難行動要支援者(災害弱者)の避難支援
ここまでで、浸水想定や避難計画、全ての人々の救助が難しくなる可能性について説明したが、お年寄りや障害者、小さな子供など自力での避難が難しい人々(避難行動要支援者、災害弱者)もいる。
図表4は東京都内の保育所の分布と荒川氾濫による浸水想定地域を示している。これを見ると、東京都内の保育所2811箇所のうち、662箇所が浸水の恐れのある場所に立地していることが示されている。このうち、298箇所の保育所では3~5mの浸水、47箇所の保育所では5~10mの浸水が想定され、仮に2階程度の低層の建物では浸水からは逃れられず、児童を他の建物などに避難させることが必要となる可能性がある(図表5)。
また、多くの保育所では0~5歳の乳幼児を保育しているが1歳以下程度では自身の歩行での避難は難しく、おんぶ紐で背負っての避難などが必要となる。東日本大震災での岩手県と宮城県の保育所の避難事例では、避難所までの坂道などでは保育士だけによる避難は難しく近隣住民の支援が必要となった2。
図表4は東京都内の保育所の分布と荒川氾濫による浸水想定地域を示している。これを見ると、東京都内の保育所2811箇所のうち、662箇所が浸水の恐れのある場所に立地していることが示されている。このうち、298箇所の保育所では3~5mの浸水、47箇所の保育所では5~10mの浸水が想定され、仮に2階程度の低層の建物では浸水からは逃れられず、児童を他の建物などに避難させることが必要となる可能性がある(図表5)。
また、多くの保育所では0~5歳の乳幼児を保育しているが1歳以下程度では自身の歩行での避難は難しく、おんぶ紐で背負っての避難などが必要となる。東日本大震災での岩手県と宮城県の保育所の避難事例では、避難所までの坂道などでは保育士だけによる避難は難しく近隣住民の支援が必要となった2。
(2023年09月05日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
原田 哲志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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