2023年08月31日

原油価格変動のグローバル株式市場への影響

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――ウクライナ侵攻や世界的なインフレを背景に原油価格の変動が続く

ロシアによるウクライナ侵攻などを背景に原油価格の変動が続いている。原油価格の変動はエネルギー需給などを通じて世界各国の株式市場と関連している。本稿では世界の株式市場への原油価格の影響について見ていきたい。

図表1はグローバル株式指数(MSCI ACWI)と原油価格(WTI原油先物)の推移を示している。これを見ると、原油価格は2019年12月に新型コロナウイルス感染症が中国で発生してから翌2020年4月末には18.8ドル/バレルまで下落した。その後は、世界的なインフレやロシアによるウクライナ侵攻により2022年5月末には114.7ドルまで上昇、その後は世界経済の減速懸念などにより下落基調が続いた。

一方でグローバル株式指数は、新型コロナウイルス感染症の発生により下落した後、世界的なインフレや上昇に転じ、2021年末には1410.9ポイントに達した。その後は地政学リスクの高まりなどにより軟調となったが、足元では、米国経済の回復期待などにより上昇に転じている。

一般的に景気拡大期には株価の上昇とともにエネルギー需要の高まりにより原油価格は上昇し、両者のリターンは連動する傾向がある。図表1の期間のMSCI ACWIとWTI原油先物のリターンの相関係数は0.43と両者は概ね正の相関関係を持っていることが分かる。
図表1 原油価格とグローバル株式指数の推移

2――世界の原油取引の流れ

2――世界の原油取引の流れ

世界の株式市場への原油価格への影響は原油の貿易が背景となっている。原油輸出国についておおよそのイメージはあるだろうが、実際にはどの国がどれだけ原油を輸出・輸入しているのだろうか。図表2、3は国連貿易開発会議(United Nations Conference on Trade and Development: UNCTAD)が公表する世界の国々の原油輸出・輸入金額を示している。これを見ると、原油を輸出する主要な国はサウジアラビアやアラブ首長国連邦、ロシアなどとなっている。一方で主な輸入国は中国、米国、インド、日本などとなっている。

2000年代後半、米国はシェールと呼ばれる種類の岩石の層に含まれている石油や天然ガスを掘削する新しい技術の開発と商業化(シェール革命と呼ばれる)により原油産出量の大幅な増加に成功した1。シェール革命以前は中東の産油国が主な原油輸出国だったが、新たな石油資源の開発により米国やカナダは原油輸出を行うようになった。この結果、従来は中東やロシアなどに限られていた原油輸出国に新たな国々が加わり、世界の石油取引の構造を変化させた。ただし、米国については原油生産国であると同時に消費国でもあるため、同国の原油輸入は輸出を上回っていることに注意したい。

主要な原油輸入国の輸入先シェアについて見ると、中国はサウジアラビア17.7%、ロシア15.9%などとなっている。インドはイラク22.6%、サウジアラビア19.7%などとなっている。日本については、中東への依存度が現在でも大きく、日本の輸入に占める割合はサウジアラビア39.7%、アラブ首長国連邦37.8%などと中東諸国に依存している状況となっている。
図表2 世界の原油取引の流れ(2022年 純輸出金額)
図表3 主要な原油輸出国・輸入国(2022年)
 
1 経済産業省資源エネルギー庁(2018)

3――各国の株式市場と原油価格の関係

3――各国の株式市場と原油価格の関係

このような世界の原油取引を背景に原油価格は各国の株式市場に影響を及ぼしている。図表4は2019年12月末から2023年7月末までの各国のMSCI国別指数のリターン(配当込みドル建て)と原油価格(WTI原油先物)への感応度 (原油価格が1%上昇すると株価が何%上昇するか) を示している。

原油感応度が高い国(原油が上昇すると株式が上昇しやすい国)としては、コロンビア、ブラジル、アルゼンチンといった原油輸出国が挙げられる。一方で、原油感応度が低い国としては、世界最大の原油輸入国である中国や米国、日本、韓国といった国が挙げられ、これらの国では原油価格が株価に与える影響は相対的に小さいと言える。

日本を含む原油輸入国も原油感応度がプラスとなっているのは意外に思われるかもしれないが、一般的に経済の拡大は株価の上昇と同時に原油需要増加・価格上昇をもたらすことから原油輸入国でも株価の原油感応度はプラスとなっている。
図表4 原油価格が各国の株式市場に与える影響(回帰係数)

4――おわりに

4――おわりに

ここまでで説明したように、原油価格の変動は原油の貿易を通じて世界の株式市場に影響している。世界の原油貿易は2000年代後半のシェール革命以前は米国が主な原油輸入国であったが、現在では米国は原油の輸出を行っている他、カナダなども原油輸出国となっている。また、中国は米国を抜き世界最大の原油輸入国となっており、世界の原油取引の構造は変化が続いている。また、近年ではロシアのウクライナ侵攻によるロシアから欧州への原油輸出の禁止や、中長期的には原油など化石燃料から太陽光などの再生可能エネルギーへの転換が進められており、各国の株式市場への原油価格の影響を考える上では、こうした原油取引の構造を踏まえておくことが必要だ。原油をはじめとしたエネルギーは産業や生活に不可欠な一方で、時として地政学リスクの顕在化などにより供給が不安定化し経済や株式市場に大きな影響を与え得ることから、その動向に引き続き注視したい。

【参考文献】
経済産業省資源エネルギー庁(2018)、「2018年5月、「シェール革命」が産んだ天然ガスが日本にも到来」、2018年6月12日
 
 

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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2023年08月31日「基礎研レター」)

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