コラム
2020年03月06日

金への各種投資方法と注意点-基本的な仕組みについて

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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金への各種投資方法

米中貿易戦争、新型コロナウイルスなどによる不透明な市場環境を受けて、「金」への投資の人気が高まっている。金は「有事の金」と言われるように、政治・経済の混乱やインフレに強い資産とされている。本稿では、金への各種投資方法の特徴やコストを比較し、効率的な投資に役立てたい。

金への投資には金地金・金貨、純金積立、金投資信託・ETF、金先物、CFD(Contract For Difference:差金決済取引)といった方法がある(図表1)。それぞれの方法の特徴を見ていこう。

金地金・金貨投資では、現物を手元に置くことができるが、保管する費用や手間が発生することとなる。購入時に小売・買取価格のスプレッド1.5%程度に加え、売買手数料が1~15%程度かかる。小型の金地金では、投資金額に対して売買費用が割高となる。

純金積立は積立により、毎月一定の額を金に投資する方法である。積立により継続した投資が行える。購入時に小売・買取価格のスプレッド1.5%程度に加え、売買手数料が1.5~3.0%程度かかる。また、投資期間中には年会費が0~3000円程度かかる。

金投資信託・ETFでは、投資信託やETFを通じて金へ投資する。簡単にいうと、投資家から集めた資金をファンド全体で金地金や金先物などに投資する方法である。少額から投資ができるメリットがあるが、基本的に現物の金を手にすることはできない。

ここで、広義の投資信託は取引所で取引される上場投資信託(ETF: Exchange-Traded Fund)と非上場投資信託に分けられる。ただし、単に投資信託という場合、非上場投資信託のことを指す場合も多い。本稿でも、以降そのように記載する。

非上場投資信託は運用会社が毎営業日算出する基準価額で売買ができる。それに対して、ETFは取引所での需給によって価格がリアルタイムで変動する。このため、需給によっては取引価格が基準価額からぶれる場合がある。ただし、取引量が多いETFでは、需給に厚みがあり、取引価格が基準価額から大幅にぶれることは少ない。

金投資信託・ETFは購入時に投資金額の0.5%~2.0%程度の手数料、投資期間中は投資金額の0.4%~1.0%程度の信託報酬がかかる。

金先物取引では、将来の金価格を取引する。投資時に、証拠金1の0.5%~0.7%の手数料が必要となる。投資期間中は明示的に支払うコストはない。しかしながら、後述するキャリーコストを負担することとなる。

CFDとはContract For Differenceの略で、日本語では差金決済という。差金決済とは現物の受け渡しを行わずに、取引開始時(買い建てもしくは売り建て)と取引終了(反対売買)時の価格差によって決済する取引である。CFDへの投資では、投資時に投資金額の0.02%~1%程度のスプレッドがかかる。投資期間中は調整金2を支払う(もしくは受け取る)。金先物やCFDは少額の資金(証拠金)で大きな取引を行うことができる。しかし、金の値動きによっては大きな損失が発生するリスクがある。含み損が生じた場合、投資家は追加の証拠金を求められる場合があることに注意が必要だ。

このように、金への投資は投資方法により特徴やコストは異なっている。目的や投資金額、期間に応じて、適切な投資方法を選びたい。なお、金自体は利息や配当などのインカムを一切生み出さない。この点において、金への投資は株や債券への投資と本質的に異なることを十分理解しておく必要がある。
図表1 金への投資方法
 
1 証拠金とは、取引による損益の決済を確実にするために、担保として預け入れる金銭のことを指す。先物やCFD取引を行う場合、投資家は証拠金を取引業者に預け入れる。
2 CFDを提供する業者は、顧客の売買注文の数量が一致しない場合、対象資産の値動きによるリスクを受ける。通常、CFD業者はこのようなリスクを回避するために、売買注文の数量を同等にするように取引(カバー取引)を行う。こうした取引を行う際に発生する金利などを、顧客は調整金として支払う(受け取る)。

投資信託・ETFを通じた金への投資

ここで、投資信託を通じた金への投資では、投資信託は投資家から受け取った資金を金地金や金先物に投資する。このため、投資信託を通じた金への投資は、実態としては、いくつかのパターンがある。図表2は投資信託を通じた金への投資フローを示したものである。

(1)投資信託から金地金に投資する。(2)投資信託から金先物に投資する。(3)投資信託から金ETFに投資する。といったケースに分けられる。ここで、(3)の手法では、「SPDRゴールドシェア」や「iシェアーズゴールド・トラスト」といった資産残高の大きいETFを投資先とする場合が多い。規模のメリットにより、金地金の保管などのコストを抑えることができる。しかしながら、投資信託を通じてETFに投資する場合、投資信託とETFの両方の信託報酬を支払うこととなる。このように、金投資信託は表面的には同じように見えても、その中身は様々であることに注意したい。
図表2 投資信託を通じた金への投資フロー

金先物への投資に係るコスト

金先物への投資は、株式先物などと同様に、金先物取引は現物資産の裏付けを持たない点が現物取引と異なっている。したがって、先物は現物との価格差が生じる。図表3はニューヨーク金先物(NY金先物)の限月3と価格の関係を示している。これを見ると、期先(決済期日までの期間が長い)ほど価格が高く、期近(決済期日までの期間が短い)ほど価格が低いことが分かる。先物を買う場合、現物を持たずに、対象資産の価格変動による収益(または損失)を得ることができる。このため、一般的に先物は現物資産の保管コストや金利などに加えて、収益を得る可能性の分だけ現物よりも価格が高くなることとなる4

先物を継続的に保有した場合上記のコスト(キャリーコストとよぶ)を支払い続けることとなる。2025年12月限の先物を決済期日まで保有した場合、金現物価格の変動の影響を除けば、保有する先物の価格は▲6.9%下落(年率換算▲1.1%)することとなる。ここで、キャリーコストは状況により変動するため、将来のコストは変動することに注意したい。このため、先物の保有によるキャリーコストは一般的には明示的に示されないことが多い。金先物(投資信託を通じた投資を含む)に投資した場合、当然にこのようなコストを負担することとなる。
図表3 NY金先物の限月と価格の関係(2020年1月末時点)
 
3 先物取引は取引を行える期間が決まっており、この満期日を限月とよぶ。
4 一般的には、先物は決済期日までの期間が短いほど、価格が低い場合が多い。しかし、金利や対象資産の需給などにより、この逆(決済期日までの期間が短いほど、価格が高い)の場合もある。

まとめ

以上で、金への投資方法について簡単に説明した。金への投資方法としては、金地金・金貨、純金積立、金先物、CFDといった方法がある。投資信託を通じた金への投資では、投資信託によって、投資対象が異なっている。金先物への投資では、投資期間中はキャリーコストを負担することとなることに注意が必要だ。それぞれの投資方法の特徴を理解した上で、コストとメリットのバランスを考えて効率的に収益を獲得したい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

(2020年03月06日「研究員の眼」)

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【金への各種投資方法と注意点-基本的な仕組みについて】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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