- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険会社経営 >
- 気候変動と死亡数の増減-死亡率を気候指数で回帰分析してみると…
気候変動と死亡数の増減-死亡率を気候指数で回帰分析してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
次に、死亡率の分母である人口について、見ていく。人口は、国勢調査の実施年は、同調査のデータ。それ以外の年は、人口推計の性別、年齢別、都道府県別のデータをベースとする。なお、国勢調査、人口推計とも、各年の10月1日現在のデータを用いることとし、10月以外の月については、直前・直後の10月のデータを1次補間して算出する。
また、人口推計では、高齢ゾーンで「85歳以上」などと、まとめて人口が掲載されている10。これについては、5年に1度の国勢調査によるデータでは各年齢の人口の把握が可能であるため、これを用いて「85~89歳」、「90~94歳」、「95~99歳」、「100歳以上」など、各年齢区分ごとの人口を算定する。そして、当該統計年の直前・直後の国勢調査の結果から得られる各年齢群団の人口割合を1次補間することで、当該統計年の各年齢群団の人口割合を計算によって求め、それをもとに上述の按分処理を行う。
10 1979年までは「65歳以上」、1981~2006年は「80歳以上」、2007年以降は「85歳以上」が同一区分にまとめられている。
3――気候指数の設定
前回のレポートで、気候指数は、月単位と季節単位の2種類を設定していた。今回、死亡数との関係性を定式化するにあたり、右辺に用いる気候指数は、月単位のものとする。なお、前回のレポートで用いていた5年平均ではなく、月々の気候指数をそのまま用いることとする。
本来、死亡指数の期間の設定にあたっては、極端な気象が発生してから、それが死亡率に影響をもたらすまでのタイムラグをどう想定するかという問題が存在する。例えば、死因が熱中症の場合は、高温等の極端な気象が発生してから、暑熱による死亡に至るまでの期間は多くても数日程度に限られるものとみられる。
一方、寒冷により、脳卒中や心疾患等の循環器系の疾患を発症して死に至る場合、必ずしも疾患は急性とは限らず、発症から一定の時間が経過した亜急性や陳旧性の場合もあり得る。その場合、数週間から数ヵ月程度のタイムラグが生じることも考えられる11。
今回の計算では、1ヵ月単位で定式化を行うため、1ヵ月以上のタイムラグは生じないものと想定する。また、1ヵ月未満のタイムラグは考慮しない(1ヵ月単位での定式化のため捨象)こととした12。
11 例えば心筋梗塞の場合、発症から3日以内を急性、3日以降30日以内を亜急性、30日以降を陳旧性とする定義もある。
12 なお、今後、感染から発症までの間にウイルス等の一定の潜伏期間がある感染症などを考慮する場合には、潜伏期間に対応するタイムラグを織り込むことも考えられる。
4――回帰式の立式
このロジット変換は、死亡率が0に等しいほど小さい場合、死亡率の自然対数をとったものとほぼ同じものとなる。その結果、気候指数の変化が生じた場合、右辺の変化“幅”が、左辺では死亡率の変化“割合”に換算されることとなる。これを避けるために、右辺でも、各気候指数の自然対数をとることとする。
ただし、気候指数は負値の場合もありうる。その場合は、そのまま自然対数をとることはできない。そこで、ある定数Cをすべての気候指数に足し算して負値を解消したうえで、自然対数をとることとする。
1971年1月~2021年12月の月ごとの気候指数を見ていったところ、最小値は、1977年5月に北陸で記録された海面水位指数 -3.142。最大値は、2012年9月に北海道で記録された高温指数5.709であった。負値の解消ということであれば、Cを3.142を上回る定数として設定すればよいこととなる。
ただし、今後の変動が過去の変動範囲におさまるという保証はない。そこで、気候指数の絶対値の最大値5.709をも上回る安全な水準に設定するものとして、今回は、C=10と置くこととした。
ここで、回帰式の各記号についてまとめておこう。13
ここで、3行目の時間項については、1970年からの経過年数(整数値)をTIMEという変数で持たせて、死亡率の説明要素として用いる。通常、死亡率は医療技術の進歩等、気候の要因とは別の、時間に応じた改善トレンドを有していることから、それを表現するために、この項を設定することとした。
また、ダミー変数については、地域区分(Da1~Da10)と月(Dm1~Dm11)の2種類のものを用いる。
このうち、Da1~Da10については、北海道はDa1のみ1。東北はDa2のみ1。関東甲信はDa3のみ1。北陸はDa4のみ1。東海はDa5のみ1。近畿はDa6のみ1。中国はDa7のみ1。四国はDa8のみ1。九州北部はDa9のみ1。九州南部・奄美はDa10のみ1。それ以外はすべて0とする。
また、Dm1~Dm11については、1月はDm1のみ1。2月はDm2のみ1。3月はDm3のみ1。4月はDm4のみ1。5月はDm5のみ1。6月はDm6のみ1。7月はDm7のみ1。8月はDm8のみ1。9月はDm9のみ1。10月はDm10のみ1。11月はDm11のみ1。それ以外はすべて0とする。
その結果、具体例を挙げると、回帰式の4行目は以下のようになる。
(例)
北海道の3月 → I + da1 + dm3
関東甲信の12月 → I + da3
沖縄の6月 → I + dm6
沖縄の12月 → I
つまり、定数と、地域区分ダミー、月ダミーにより、気候指数以外の、地域区分や月の違いにともなう死亡率の違いを表すこととなる。
回帰式は、性別(2個)、年齢区分(21個)、死因(6個)ごとに設ける。すなわち全部で、2×21×6の、252個の回帰式を設けることとなる。
また、回帰式ごとに、過去に蓄積されたデータとして、1971~2021年(51年)、地域区分(11区分)、月(12ヵ月)がある。つまり全部で、51×11×12の6732個のデータがある。ただし、沖縄については、本土復帰前の1971年や1972年のデータは一部欠落しているため、1973年以降のデータを用いることとする。その結果、6708個のデータを回帰式に入力することとなる14。
まとめると、これら6708個のデータをもとに、252個の回帰式の係数を求めていく。それを通じて、死亡率と気候指数の関係性を明らかにしていく。これが、今回の回帰分析の内容となる。
13 回帰計算にあたり、統計ソフトとして、IBM SPSS Statistics バージョン29.0.1.0 を使用する。
14 また、一部の月では、北陸の海面水位指数のデータも欠落している。さらに、若齢では、異常無(老衰等)の死因で、死亡率がゼロとなり、ロジット変換できない場合もある。こうしたデータがないものや、ロジット変換できないものについては除外して、回帰分析の作業を進めることとする。
(2023年08月31日「基礎研レポート」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 審査の差の定量化-審査のブレはどれくらい? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/15 | 患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/04/08 | センチネル効果の活用-監視されていると行動が改善する? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/01 | 1, 2, 4, 8, 16, ○, …-思い込みには要注意! | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年04月25日
世界人口の動向と生命保険マーケット-生保マーケットにおける「中国の米国超え」は実現するのか- -
2025年04月25日
年金や貯蓄性保険の可能性を引き出す方策の推進(欧州)-貯蓄投資同盟の構想とEIOPA会長の講演録などから -
2025年04月25日
「ほめ曜日」×ご褒美消費-消費の交差点(9) -
2025年04月25日
欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- -
2025年04月25日
若手人材の心を動かす、企業の「社会貢献活動」とは(2)-「行動科学」で考える、パーパスと従業員の自発行動のつなぎ方
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【気候変動と死亡数の増減-死亡率を気候指数で回帰分析してみると…】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
気候変動と死亡数の増減-死亡率を気候指数で回帰分析してみると…のレポート Topへ