2023年08月29日

「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(2)~タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇、足もとでは頭打ち感も。「駅近」の評価が高まる一方、「中心部までのアクセス」の評価はコロナ禍を契機に低下

金融研究部 主任研究員 吉田 資

文字サイズ

4. 新築マンション価格の決定構造の変遷

最後に、「新築マンション価格指数」の算出に際して、各年度のデータを用いて推計11を行った結果を活用して、関西圏の新築マンション価格の決定構造(2005年~2022年)がどのように変化したかを確認する。

以下では、(1)「最寄り駅までのアクセス時間」、(2)「住居の広さ」、(3)「中心部までのアクセス時間」に対する評価が、関西圏の新築マンション価格に対してどのような影響を及ぼしているのか、東京23区12と比較しながら確かめたい。
4-1. 「最寄り駅までのアクセス時間」 に対する評価~「駅近」の評価が高まる
「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してマイナスとなっている(図表-10)。これは、最寄り駅までの徒歩所用時間が長くなる(短くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が下落(上昇)することを意味する。

各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」は、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。しかし、「下落フェーズII」以降、係数の値は2009年の▲0.8%13から2022年の▲2.0%となり、マイナス幅が拡大した。これは、リーマンショック以降、新築マンションの価格評価が最寄り駅から遠いとより低く、駅近だとより高くなる傾向にあることを示唆している。東京23区の係数(2009年▲1.7%⇒2022年の▲2.1 %)と比較すると、マイナス幅が大きく拡大しており、関西圏では「駅近」志向がより高まった可能性がある。

また、「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数の符号はマイナスで(図表-11)、「徒歩所用時間」と比較して係数の値が一貫して大きい(平均:徒歩▲1.5%・バス▲3.9%)。バス便を前提とした新築マンションは、「徒歩所用時間」以上に、駅までのアクセス時間が価格評価に影響を及ぼしている。また、東京23区と同様、係数のマイナス幅が拡大しており、マンションの価格評価が最寄り駅から時間がかかると、より厳しくなる傾向にあることを示唆している。
図表-10 「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)/図表-11 「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
「駅近」の新築マンションの価格評価が高まった要因として、前述の通り、共働き世帯の増加が挙げられる。共働き世帯は、(1)通勤時間の短縮、(2)生活利便性(仕事帰りの食事や買い物)、(3)保育園等の送迎などを勘案して、「駅近」物件を志向する傾向があるとされる。

加えて、老後の生活利便性(通院や買い物など)を重視するシニア層による購入増加も要因として挙げられよう。関西圏の高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)は、2005年の20%から2020年の28%へ増加し、首都圏14と比較して高齢化が進んでいる。リクルート調査によれば、関西圏の新築マンション購入世帯に占めるシニアカップル世帯(世帯主年齢が50才以上の夫婦のみの世帯)の割合は、4%(2013年)から10%(2022年)へと倍増している。
 
13 当該物件から最寄り駅までの徒歩所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲1.6%下落する。
14 首都圏の高齢化率は18%(2005年)から25%(2020年)、中京圏は19%(2005年)から27%(2020年)に増加。
4-2. 「住居の広さ」に対する評価 ~アベノミクス以降、「広さ」へのプライオリティが低下
「住居の専有面積」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してプラスとなっている(図表-12)。これは、住居が広くなる(狭くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が上昇(下落)することを意味する。

各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」と「下落フェーズII」では、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。その後、「上昇フェーズIII」は、2013年の+0.8%15をピークにプラス幅が縮小傾向にあり、東京23区と同様、「広さ」に対するプライオリティの低下を確認できる。

アベノミクス以降、マンション価格の高騰が続くなか、総額を抑えるため「広さ」の優先度を下げざるを得ない事情が考えられる16。ただし、コロナ禍を経て、在宅勤務が浸透したことで、住居に「広さ」を求める動き17もみられ、「広さ」に対する価格評価について、引き続き注視が必要であろう。
図表-12 「住居の専有面積」の回帰係数(1㎡増加あたりの価格変化)
 
15 専有面積が1m2増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が+0.8%上昇する。
16 関西圏の新築販売マンションの平均面積は2013年の70m2から2022年の60㎡に縮小。
17 東京読売新聞「[コロナ 新たな日常](1)住まい 「在宅」増で 広さ重視」2020/8/25
4-3. 「都市の中心部までのアクセス時間」に対する評価 ~コロナ禍を契機に、中心部の評価が低下
「最寄り駅から都市の中心部18までの所用時間」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してマイナスとなっている(図表-13)。これは、関西圏の中心部(大阪都心)までのアクセス時間が長くなる(短くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が下落(上昇)することを意味する。

各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」と「下落フェーズII」は、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。その後、「上昇フェーズIII」に入り、係数の値は2015年の▲0.3%19から2019年の▲1.3%へ、マイナス幅が拡大した。これは、中心部から遠く(近く)に立地する新築マンションの価格評価が、より厳しくなる(高くなる)傾向にあることを示唆している。この時期は、「職住近接」志向が高まるとともに20、外国人投資家等の賃貸・転売目的の購入が増えていたことも要因として考えられる。

その後、回帰係数はマイナス幅が急速に縮小し、2022年は▲0.5%となった。コロナ禍を契機として、在宅勤務の浸透等に伴い、子育て世代が郊外部に移住する動きもあり21、中心部までのアクセス時間に対する評価が低下した可能性がある。

コロナ禍において、マイナス幅が拡大した東京23区と反対の動きを示しており、中心部へのアクセスに対する評価についても引き続き注視したい。
図表-13 「最寄り駅から都市の中心部までの所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
 
18 本稿では、便宜上、「梅田(大阪)駅」とした。
19 当該物件の最寄り駅から都市の中心部(梅田駅)までの所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲0.3%下落する。
20 日本経済新聞 「関西 変わる街並み(上) 大阪中心部、職住近接へ」2020/01/08
21 日本経済新聞 「ベッドタウン、育児世代戻る――大阪・吹田、医療機関が充実、京都・福知山、2地域居住も増(データで読む地域再生)」2022/02/19

5. おわりに

5. おわりに

本稿では、2回にわけて、関西圏の新築マンション市場を概観した。関西圏の新築マンション価格は、良好な需給環境が継続するなか、過去10年間で+59%上昇した。特に、大阪都心では+82%上昇し、東京都心と同水準の伸びとなった。

一方、タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇したものの、2022年は9年ぶりに下落となった。東京23区を上回るペースで上昇してきた反動から足もとで頭打ち感も見られる。

また、今後は需給バランスの緩和によって、現在の「価格上昇フェーズ」が転換期を迎える可能性がある。不動産経済研究所によれば、関西圏で2023年以降に完成予定のタワーマンションは約1.7万戸となる見通しであり22、過去5年間の新規供給数(約1.2万戸)の約1.4倍に達する。

需要面に関しても、転入超過数をエリア別に確認すると、大阪都心が+8,223人(2019年対比▲1,714人)、大阪郊外が+3,156人(同▲2,907人)、北摂が+2,764人(同▲820人)、阪神間が+691人(同+260人)、神戸市が▲1,955人(同▲1,768人)と、阪神間以外のエリアはコロナ禍前の水準に至っておらず、回復が遅れている(図表-14)。また、長期金利の上昇に伴う住宅ローン金利への影響も懸念される。今後の人口動態や金利動向次第では購入意欲が減退し、マンション価格が下落に転じる可能性に注意する必要がある。

また、本稿では、(1)「駅近」への評価が急速に高まったこと、(2)アベノミクス以降、「住居の広さ」に対するプライオリティが低下したこと、(3)コロナ禍を契機に「中心部へのアクセス」への評価が低下したことを、確認した。関西圏では、首都圏以上に、消費者の新築マンションに求める機能や評価目線が大きく変化しており、マンション開発事業者は、ライフスタイルや消費者ニーズの変化に対応した事業戦略の策定が求められることになりそうだ。
図表-14 エリア別転入超過数(日本人・関西圏)
参考資料1  関西圏 主要エリア(大阪都心・大阪郊外・北摂 ・阪神間 ・神戸市)
 
22 ただし、新築マンションの新規供給戸数の先行指標となる「住宅着工戸数(関西圏、2022年)」は約2.3万戸と、過去5年間平均(約2.4万戸)を下回った。したがって、当面は限定的な新規供給の継続が見込まれる。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年08月29日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(2)~タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇、足もとでは頭打ち感も。「駅近」の評価が高まる一方、「中心部までのアクセス」の評価はコロナ禍を契機に低下】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(2)~タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇、足もとでは頭打ち感も。「駅近」の評価が高まる一方、「中心部までのアクセス」の評価はコロナ禍を契機に低下のレポート Topへ