2023年08月29日

「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(2)~タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇、足もとでは頭打ち感も。「駅近」の評価が高まる一方、「中心部までのアクセス」の評価はコロナ禍を契機に低下

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

前回のレポート1では、関西圏における新築マンション市場の需給環境を確認した後、新築マンションの販売データを用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し、その価格動向について述べた。

関西圏の新築マンション価格は、次の3つのフェーズに分類できる。1つ目は、「リーマンショック前までの価格上昇期」(以下、上昇フェーズI)、2つ目は、「リーマンショック後の価格下落期」(以下、下落フェーズII)、3つ目は、「アベノミクス以降の価格上昇期」(以下、上昇フェーズIII)、である。直近2022年の価格指数(2005年=100)は「175.3」となり、過去10年間で+59%上昇した(図表-1)。特に、大阪都心2は過去10年間で+82%上昇し、東京都心と同水準の伸びとなった。

本稿では、「新築マンション価格指数」のサブインデックスとなる「エリア別価格指数」と「タワーマンション価格指数」を算出し、その動向について解説する。また、新築マンション価格の決定構造が分析期間(2005年~2022年)においてどのように変化したかを確認する。
図表-1  「新築マンション価格指数」 (関西圏・大阪市・大阪都心・大阪郊外)(2005年=100、年次)
 
1 吉田資『「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年8月16日
2 「大阪都心」:中央区・西区・北区・天王寺区・浪速区・福島区、「大阪郊外」:「大阪都心」を除く18区

2. 「エリア別価格指数」の算出

2. 「エリア別価格指数」の算出

以下では、関西圏で新築分譲マンションの新規供給戸数が多い35つのエリア(大阪都心・大阪郊外・北摂4・阪神間5・神戸市)を対象として(参考資料1)、「エリア別価格指数」を算出した6

2022年の価格指数(2005年=100)は、大阪都心が「201.7」、神戸市が「173.9」、大阪郊外が「169.4」、阪神間が「166.9」、北摂が「165.7」となり、大阪都心のみ、関西圏(175.3)を上回る結果となった(図表-2)。

各フェーズにおける価格のピーク時期とボトム時期を確認すると(図表-2)、「上昇フェーズI」では、大阪都心・大阪郊外・阪神間・神戸市が「2008年」に、その後、遅れて北摂が「2009年」にピークを付けた。

「下落フェーズII」では、神戸市が「2010年」にいち早くボトムを付け、その後、北摂と阪神間が「2011年」に、大阪都心と大阪郊外が「2012年」にボトムを付けている。「上昇フェーズIII」では、大阪都心・大阪郊外・北摂が上昇基調を維持しているのに対して、阪神間と神戸市は「2021年」にいったんピークを迎えた可能性がある。
図表-2 「新築マンション価格指数」(大阪都心、大阪郊外、北摂、阪神間、神戸市、関西圏、大阪市)(2005年=100、年次)
各フェーズ(I~III)における価格変動率をみると(図表-3)、「上昇フェーズI」では、大阪都心(+26%)>阪神間(+24%)>北摂(+19%)>神戸市(+17%)>大阪郊外(+15%)の順に上昇率が大きい。続いて、「下落フェーズII」では、大阪都心(▲12%)>大阪郊外(▲10%)>阪神間(▲9%)>北摂(▲8%)>神戸市(▲4%)の順に下落率が大きい。最後に、「上昇フェーズIII」では、大阪都心(+82%)>大阪郊外(+63%)>神戸市(+57%)>北摂(+52%)>阪神間(+48%)の順に上昇率が大きくなっている。

大阪都心は、価格上昇期に最も大きく上昇し、価格下落期に最も大きく下落した。特に、「上昇フェーズIII」では2018年以降大幅に上昇し、通期(2005年~2022年)の上昇率が最大となった。

一方、北摂や神戸市は、価格下落期の下落率が小さく、価格上昇期の上昇率が小さい傾向にあり、相対的に価格ボラティリティの低いエリアだと言える。
図表-3 「エリア別価格指数」の変動率
続いて、エリア別の新規供給戸数を確認する。まず、大阪都心は、「上昇フェーズI」において減少した後、「下落フェーズII」に大きく増加し、供給戸数が最も多いエリアとなった(2005年約3千戸⇒2008年約2千戸⇒2012年約6千戸)。その後、「上昇フェーズIII」では減少傾向にあるものの(2013年約6千戸⇒ 2022年約4千戸)、引き続き、市場シェア第1位を維持している。大阪都心では、リーマンショック以降、企業移転後のオフィス跡地に分譲マンションを建設する事例が増加している。

これに対して、その他のエリアは減少傾向にある。2005年と2022年を比較すると、大阪郊外は約6千戸から約3千戸に、北摂は約4千戸から約2千戸に、阪神間は約4千戸から約1千戸に、神戸市は約5千戸から約1千戸となり、この間、1/2~1/5の水準に減少している(図表-4)。
図表-4 新築分譲マンションの新規供給戸数(エリア別)
次に、新築マンションの主な購入層である、「夫婦のみの世帯」(図表-5)と「未就学児がいる共働き世帯」(図表-6)の動向を確認すると、いずれのエリアも概ね増加基調にある。新規供給戸数が減少するなか、需給バランスの引き締まりが新築マンション価格上昇を下支えしていると考えられる。

特に、大阪都心では、2005年から2020年にかけて「夫婦のみの世帯」が+45%増加、「未就学児のいる夫婦世帯」が2005年から2020年にかけて+126%増加し、他のエリアと比較して突出して増加しており、大阪都心の大幅な価格上昇の一因と推察される。
図表-5 エリア別の「夫婦のみの世帯」(2005年=100)/図表-6 「未就学児がいる共働き世帯」数(2010年=100)
 
3 不動産経済研究所によれば、新築分譲マンションの新規供給戸数(2005年~2022年)は、「大阪市」で約13.6万戸(関西圏の34%)、「北摂」で約5.3万戸(同14%)、「阪神間」で約3.7万戸(同10%)、「神戸市」で約4.6万戸(同12%)。
4 大阪府の以下の自治体: 「吹田市」・「豊中市」・「茨木市」・「高槻市」・「池田市」・「箕面市」・「摂津市」・「島本町」・「能勢町」・「豊能町」
5 兵庫県の以下の自治体: 「尼崎市」・「西宮市」・「芦屋市」・「宝塚市」・「伊丹市」・「川西市」
6 作成手法は『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』3章を参照されたい。

3. 「タワーマンション価格指数」の算出

3. 「タワーマンション価格指数」の算出

本章では、「タワーマンション価格指数7」を作成し、市場動向を確認する。総務省「国勢調査」によれば、関西圏の高層分譲マンションに居住する世帯8は、2005年の約11.2万世帯から2020年の23.8万世帯に倍増した。関西圏において、「タワーマンション」を含む15階建て以上の高層分譲マンションに居住する世帯が大きく増加している。

「関西圏タワーマンション価格指数」は、2015年まで「関西圏」の価格指数とほぼ同水準で推移していたが、2016年以降、大幅に上昇し、2021年に「198.7」に達した。2022年の価格指数は「195.8」となり、関西圏(175.3)を大きく上回る結果となった(図表-7)。
図表-7  「タワーマンション価格指数」 (2005年=100、年次)
各フェーズ(I~III)における価格変動率について、「東京23区タワーマンション」と比較すると(図表-8)、「上昇フェーズI」では、「関西圏タワーマンション」は+20%上昇し、「東京23区タワーマンション」の上昇率(+40%)の半分程度に留まった。「下落フェーズII」では、「関西圏タワーマンション」は▲6%下落し、「東京23区タワーマンション」の下落率(▲7%)と同水準であった。また、「上昇フェーズIII」では、「関西圏タワーマンション」は+76%上昇し、「東京23区タワーマンション」の上昇率(+69%)を上回った(図表-8)。
図表-8「タワーマンション価格指数」の変動率
タワーマンションは、実需層による購入に加えて、その資産性に着目した国内外の投資資金が流入している。三菱地所レジデンスが関西圏のタワーマンション購入者に行ったアンケートによれば、「購入目的」について、「自己居住用」が55.1%、「セカンドハウス」が21.4%、「投資用」が19.7%であった。また、近年は円安進行に伴い、大阪都心のタワーマンションを海外の個人富裕層が購入する事例が増えている9。観光客として関西に訪れ、エリアとしての魅力を肌で感じた上で、タワーマンションを購入するケースも多いようだ10

関西圏におけるタワーマンションの新規供給戸数を確認すると、2013年以降、減少傾向で推移しており、2013年の約5千戸から2022年の約2千戸へ大幅に減少した。また、「タワーマンション」の新規供給戸数に占める割合は、2013年の23%をピークに低下し10%台前半で推移している(図表-9)。

関西圏では、タワーマンションの新規供給戸数が減少傾向にあり、良好な需給環境を背景に、タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇した。一方、2022年は「195.8」(前年比▲1%)となり9年ぶりに下落した。アベノミクス以降、関西圏のタワーマンション価格は東京23区を上回るペースで上昇した反動もあって、足もとで頭打ちした可能性があり、今後の動向を注視したい。
図表-9 タワーマンションの新規供給戸数(関西圏)
 
7 建築基準法において、高さ60mを超える建築物については、特殊な構造計算が必要とされ、国土交通大臣による認定が必要と定められている。高さ60㎡を超えるのが概ね20階以上であることから、一般的に、20階建て以上のマンションは「超高層マンション」と呼称される 。そこで、階建て20階以上のマンションを「タワーマンション」と定義し、価格指数を作成した。
8 「持ち家」でかつ「15階建て以上の共同住宅」に居住する世帯
9 日本経済新聞「大阪で都心高層マンション「爆買い」 路線価、近畿は2年連続上昇 「買える限界近い」指摘も」2017/7/3
10 日本経済新聞「タワマンの波、ミナミも 大阪キタの競争激化で 外国人富裕層も的」2023/6/23
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(2)~タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇、足もとでは頭打ち感も。「駅近」の評価が高まる一方、「中心部までのアクセス」の評価はコロナ禍を契機に低下のレポート Topへ