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「専業主婦世帯は子どもが多い」という誤解―アンコンシャス・バイアスが招く止まらぬ少子化

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
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しかし、この分析結果に対して、シンクタンク研究者、大学教授、大手メディアのディレクターなどから、いまだに「驚愕した」「この結果の調査母体は何でしょうか」といった連絡を定期的にいただく状況が続いている。
このことは、日本は人口減、すなわち出生減が止まらない危機的な状況下にあるにもかかわらず、足元の社会現象に関してデータ分析による仮説検証が行われないまま、誤解に基づく非科学的な対策議論が行われていることの証左と思われる。
本稿では、少子化に関する代表的な誤解の一つである「(共働き世帯よりも)専業主婦世帯の方が子どもが多いのではないか」について解説したい。
【子なし世帯、一人っ子世帯割合が高い専業主婦世帯】
夫が就業している1907万世帯において、妻が専業主婦(非就業)の世帯は582万世帯・30.5%、共働きの世帯(妻も就業)は1321万世帯・69.2%、妻の就業不詳世帯が5万世帯・0.3%となっている。
この時点ですでに、「そんなに共働き世帯割合が高いのか」という反応があるかもしれない。2022年においては、共働き世帯:専業主婦世帯は7:3となっており、共働き世帯の割合は毎年上昇している(図表2)。
このうち「子なし世帯割合」は共働き世帯34%、専業主婦世帯39%で、専業主婦世帯の方が、子どもがいない世帯割合が高いという結果となっている1。
次に、18歳未満の子どもがいる世帯について見ると、一子世帯は専業主婦世帯の方が39%と共働き世帯より8Pも高くなっている。その一方で、多子世帯といわれる2子、3子の18歳未満の子どもがいる世帯割合では、共働き世帯の方が割合が高い、ということも示された。
1 クロス分析で5Pの差は統計的に見ると「有意である(偶然ではない)」とみてもよい水準。
【アンコンシャス・バイアスが生み出す少子化リスク社会】
「女性が社会進出すると少子化が加速する」
「専業主婦世帯の応援、もしくはそちらに女性の生き方を誘導した方が子供が増える」
などは、統計的にみて大いなる誤解であり、偏見であるということである。しかしながら、冒頭にも説明したように「全く逆だと思っていた」という感想が絶えない。この誤解は男性に限らず、女性においてもそう考えて「自分は家族形成に向いていないのではないか」といった諦念をもつ働く女性も少なくない。
一体、どうしてこのようなバイアスが長くまかり通っているのだろうか。
これは「何が何でも女性に社会で活躍して欲しくない」といった悪意からではなく、どちらかというと善意からくるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)による誤解であって、だからこそ修正されにくいのではないかと筆者は考えている。
つまり、現在50歳代以上の夫婦が若い頃は、主に夫だけが働いていて当たり前の環境下にあった、言い方を変えるならば、男性の経済力に頼れない女性は暮らしていくのが非常に厳しい時代だったといえる。
しかし時代は変わり、2012年以降、共働き世帯が6割を超え、2018年以降は7割をも超過し、専業主婦世帯割合との差を拡大し続けている。
中高年世代の若かりし頃の夫婦の「普通」が、もはや少数派になっていることに気が付かず、「そんなはずはないだろう」「驚愕だ」といった意見がいまだに絶えないこの状況は、若い世代に中高年世代が過去の自分の生き方をおしつけているという見方もでき、若い世代の生き方を意図せず妨害し、未婚化を進める原因ともなりかねないリスクを感じずにはいられない。
中高年世代が悪意を持ってそうしているのではなく、あくまでも「幸せな自分たちの生き方を認めてほしい」「幸せな自分たちを若い世代に踏襲してほしい」といった気持ちから来ているために、「いいことをしている」という認識のもとで一向にバイアスに気が付くことができないのではないだろうか。
中高年世代である筆者自らも含めて、すべての中高年読者に、今一度時代の変化を統計的に把握した上で議論ができているか、注意喚起したい。
2 注1)「専業主婦世帯」は、夫が非農林業雇用者で妻が非就業者(非労働力人口及び完全失業者)の世帯。2018年以降は、厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」に倣い夫が非農林業雇用者で妻が非就業者(非労働力人口及び失業者)の世帯。
注2)「共働き世帯」は、夫婦ともに非農林業雇用者の世帯。
注3)2011年は岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果。
注4)2013年~2016年は2015年国勢調査基準、2018年~2021年は2020年国勢調査基準のベンチマーク人口に基づく時系列接続用数値。
(2023年08月28日「研究員の眼」)

03-3512-1878
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
【委員歴/ご依頼順(現職優先)】
1.政府
・【総務省統計局】
「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】
「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
「令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員」(2023年度)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】
「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【内閣府男女共同参画局】
「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府】
「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~2018年)
「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
2.自治体
・【富山県】
「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
「富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員」(2022年)
・【高知県】
「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】
「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
・【愛知県豊田市】
「豊田市総合計画推進会議 有識者委員」(2025年度~)
・【石川県】
「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【長野県伊那市】
「伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般」(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】
「子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー」(2021年)
・【愛媛県松山市】
「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会・結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
3.民間団体
・【東京商工会議所】
東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】
えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】
「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
・【中外製薬株式会社】
「ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会(通称:研究倫理委員会) 委員」(2020年~)
・【主宰研究会】
地方女性活性化研究会(2020年~)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
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