2023年08月28日

シングル高齢者の増加とその経済状況~未婚男性と離別女性が最も厳しい

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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5――シングル高齢者の年収

それでは、シングル高齢者は、実際に現在どれぐらいの年収を受け取っているのだろうか。文化センターの調査に戻って、高齢者本人の年収について、配偶関係別に、年収階級ごとの構成割合を分析した(図表4)。同調査では、年収階級の選択肢は「収入はない」「100万円未満」「100~500万円未満」「500~1,000万円未満」「1,000~2,000万円未満」「2000万円以上」の6区分である。以下では、「収入はない」と「100万円未満」を合わせた層を「低年収層」として整理する。なお、いずれも「未婚」の有効値は小さいが、参考値として表記する。

まず男性では、「収入はない」と「100万円未満」を合わせた低年収層が最も多いのは「離別・死別」で、合わせて25.2%だった。次に低年収層が多いのは「未婚」(合わせて18.2%)、最も少ないのは「配偶者あり」(同15.3%)だった。

女性では、低年収層が最も多いのは「配偶者あり」(合わせて65.8%)だった。配偶者が主に家計を担い、専業主婦やパートで働く女性が多いためだろう。「離別・死別」では低年収層が38%に上った。「未婚」では24.1%だった。有配偶高齢女性で低年収層が多くても問題だとは言えないが、シングルで低年収であれば、経済的に厳しいと予想される。

男女を比べると、同じ配偶関係同士でも差が大きい。例えば「離別・死別」の男性の低収入層は、上述のように25.2%だが、女性は38%であり、女性の方が10ポイント以上高い。男女の間では、現役時代の収入にも、老後の年金収入にも大きな差があることを、これまでも筆者のコラムなどで説明してきたが3、シングル高齢者に特定して比べても、男女差が大きいことが改めて分かった。

なお、100万円未満の年収で暮らすことは実際、困難であるため、低収入層の中には、親の年金や子の仕送りなどを頼りに暮らしている高齢者もいるだろう。また、一部には無年金の高齢者もいると考えられる。
図表4 配偶関係別にみた現在の本人年収

6――シングル高齢者の年金受給状況

6――シングル高齢者の年金受給状況

次に、収入のうち公的年金の受給状況について、文化センターの調査データを用いて、性別、配偶関係別に分析したものが図表5である。

まず男性の場合、年金受給額が「0円」の男性は、「未婚」では14.8%、「離別・死別」では8.2%、「配偶者あり」では3.4%だった。「0円」と回答した中の一部には、受給開始年齢を繰下げている男性もいる可能性もあるが、厚生労働省によると、2021年度、厚生年金保険の受給権者で繰下げを行った人は1.2%、国民年金では1.8%に過ぎない4。従って、「0円」と回答した未婚や離別・死別の男性の大部分は、無年金状態だと推測される。

ここで、年金受給額が100万円以下(「0円」と「1~49万円」、「50~99万円」の合計)を「低年金層」とすると、「未婚」では約4割、「離別・死別」では約2割、「配偶者あり」では約1割が低年金層だった。つまり、老後の年金についても、未婚男性は最も厳しい状況にあることが分かった。

次に女性についてみていきたい。先に結論を述べると、男性に比べれば「0円」の割合はやや少ないが、低年金層の割合はやや大きい。まず「0円」の回答は、「未婚」と「離別・死別」では1割弱、「配偶者あり」では約3%だった。男性と同様に、この中には無年金の女性が多く含まれると推測される。また年金受給額が年間100万円未満の低年金層は、「未婚」では約4割に上り、「離別・死別」では約3割、「配偶者あり」では約1割だった。やはり、「未婚」と「離別・死別」とで低年金層が多かった。

このように、老後の年金受給状況は、シングルか有配偶かによって、大きな差があり、シングルの方が、老後に無年金や低年金という状況に陥っていることがわかった。当調査では、未婚はNが小さいという制約があるものの、特に、高齢未婚男性の1割以上が、公的年金の受給額が「0円」というような状態は、早急に検証が必要ではないだろうか。
図表5 配偶関係別にみた高齢者の年金受給状況
 
4 厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

7――シングル高齢者世帯の資産の状況

7――シングル高齢者世帯の資産の状況

それでは、これまでにみたような低収入、無年金または低年金のシングル高齢者は、収入不足を補う資産を保有しているのだろうか。次に、文化センターの調査から、シングル高齢者世帯の資産状況について、性別、配偶関係別に分析した(図表6)。なお、この設問は、高齢者本人だけではなく、家計を同一とする世帯全体の保有資産を尋ねたものである。

まず男性では、最も低い「100万円未満」は、やはり「未婚」が最も多く、約4割を占めた。続いて「離別・死別」が約3割、「配偶者あり」が約2割だった。女性については、「100万円未満」が最も多かったのは「離別・死別」で2割強、続いて「配偶者あり」が約2割、「未婚」が約1割だった。
図表6 配偶関係別にみた高齢者世帯の資産状況

8――終わりに

8――終わりに

本稿で見てきたことをまとめると、未婚化や離婚の増加等により、配偶者のいないシングルの高齢者が増加している。1980年代には、未婚や離婚は少数派で、中年以降は、一部の死別を除けば「有配偶」が大半だった。ところが2020年には、「未婚」や「離婚」が大きく増加し、男女いずれも、65歳の4人に1人はシングルという状況になっている。

そこで本稿では、まずシングル高齢者の経済面について整理した。「雇用形態等」と「有業率」、「本人年収」、「年金の受給状況」、「世帯の金融資産」の五つの指標について、配偶関係別に分析すると、シングルか配偶者がいるかで差があることが確認できた。特に、男性では「未婚」、女性では「離別・死別」が、各指標において、概ね最も厳しい状況にあることが分かった。また、男女間で同じ配偶関係同士を比較すると、女性の方が、非正規雇用や低年収の割合が大きいなど、よりリスクが高いことが分かった。

例えば、未婚の高齢男性は、現在または現役時代に非正規雇用だった割合が1割超と、すべての配偶関係の中で最も大きく、有業率は最も低く、5人に1人が年収100万円未満で、公的年金を受給していない人が1割を超え、世帯の金融資産100万円未満の人が約4割に上っていた。また離別・死別の高齢女性は、現在または現役時代に正社員だった人は2割にも満たず、パ-ト・アルバイトが約4割を占める。有業率は80歳代前半まで最も高く、働き続けなければ、家計が厳しい状態であることが推測される。また現在は本人年収100万円未満の人が約4割で、公的年金受給額0円の人も1割弱おり、無年金の女性が多いと考えられる。世帯の金融資産も100万円未満が約2割に上っている。本稿で用いた調査では「離別・死別」が同じ区分であったが、先にも述べたように、厳しい状態にあるのは離別女性だと考えられる。

つまり、未婚男性と離別女性は、現役時代から就労による収入が低水準である人が多く、老後になってもそのまま、無年金や低年金といった形で、低収入状態が続く。また低収入は低資産とも連動していると考えられるため、不足分を補う支えも脆弱である。

従って、未婚男性や離別女性らの老後を安定したものにするには、当然のことだが、現役時代、特に老後が間近に迫る中高年時分における雇用形態や労働条件の改善が必要だろう。特に女性は、これまでの筆者のレポートでも述べてきたように、男性に比べて低賃金であり、結婚・出産を機に退職した場合、再就職時には非正規雇用となることが多いことから雇用条件が悪くなりやすい。「女性の活用・活躍」は企業にとっても課題であることから、今後は企業においても、中高年女性の労働条件改善や再就職支援の取り組みが広がることを期待したい。

また、国を挙げて少子化対策が推進される中で、男性の就業条件の低さが未婚につながっている可能性についても、より検討されるべきだろう。

かつてのように「既婚者が大多数」といった時代ではなくなり、シングルの高齢者が増加している以上、このように、かつては問題視されていなかった点にも注目していく必要があるだろう。次稿では、同居家族や交流関係など、シングル高齢者の生活面について分析する。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年08月28日「基礎研レポート」)

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