2023年07月24日

新型コロナ5類移行後の移動人口と交通モードの利用状況~高齢者の移動頻度は1年前から未回復

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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2| 地域別の状況
次に、地域別の状況を見ていきたい(図表6と図表7)。「北海道」では、5類移行後、「電車やバス」の利用層が7ポイント増えたが、利用頻度は低下傾向だった。また、「自家用車」の利用層も3.9ポイント増えた。つまり、全体的に人の移動がやや活発になり始めており、旅行など特定の機会には、自家用車ではなく、公共交通を利用する人が増えたと考えられる。

因みに、2でみたV-RESASの移動人口では、北海道は、7月第1週はコロナ前の同週に比べてプラス5.4%と高い数値が出ている。これは、基礎研の調査では回答者の居住地によって地域分けをしているのに対し、V-RESASには観光等で北海道を訪れた人が含まれるため、より上向いた数値が出ていると考えられる。

図表6と図表7に戻ると、「東北地方」では、5類移行後、「電車やバス」の利用層が微増した。中でも「月3回以下」が微増した。「自家用車」も「週1~4回」が少し増えており、人の動き自体は若干、活発になり始めているようだ。

「関東地方」では、「電車やバス」で「週5回以上」が2.8ポイント増加した。基礎研の同じ調査から、働く人の出社状況を見て見ると、2023年6月時点で、関東地方の出社頻度は「週5回以上」が1年前に比べて7.2ポイント上がり、全体平均よりも伸び率が高かった。このような出社頻度の上昇が、バスや電車の利用増加につながったと考えられる。「自家用車」も「週1~4回」が1.8ポイント上昇するなど、わずかに頻度が上がる傾向が見られた。

「中部地方」では、「電車やバス」の利用層が5.1ポイント増加し、自家用車についても、やや頻度が上がった(「週1~4回」が4.1ポイント増加など)。5類移行後、公共交通とマイカーのいずれも、やや利用が増加していると言える。

「近畿地方」では、「電車やバス」については「週5回以上」が2.3ポイント増えた。関東と同様に、同じ調査で出社頻度を確認すると、「週5回以上」が1年前に比べて7ポイント上昇しており、これが要因だと考えられる。「自家用車」はわずかに利用頻度が低下していた(「週5回以上」が2.3ポイント減少、「週1~4回」が1.8ポイント減少など)。

「中国地方」では、特に大きな変化は見られない。「四国地方」では、「自家用車」の利用頻度がやや上がっており(「週5回以上」が7.6ポイント上昇)、5類移行後に移動が活発になっている。また、2023年6月時点の状況について、全地域ブロックを比べると、四国地方では、5類移行後も「未利用・非該当」が6割に上り、他に比べて突出して利用していない人が多い。これは、公共交通への回避傾向が続いていると言うよりは、公共交通サービスの供給不足が要因にあると考えられる。

「九州地方」では、「電車やバス」の利用層が6.5ポイント増加し、中でも「月3回以下」が10ポイント以上増加した。自家用車については大きな変化は見られない。九州地方では、5類移行後、公共交通の利用がじわりと増えたと言える。

以上を整理すると、5類移行後、「マイカーが減って公共交通が増える」(公共交通への逆戻り)、あるいは「公共交通が減ってマイカーが増える」(マイカーへのシフト加速)といった、交通モードの顕著な変更は見られなかった。唯一、近畿地方では公共交通が少し増え、マイカーの利用頻度が少し減少したが、交通モードの転換というほどではない。大まかに言えば、5類移行後に人の移動が活発になって、一方の利用頻度が上がれば、もう一方の利用頻度も上がる、というように、公共交通とマイカーには連動した傾向が見られた。
図表6 地域別にみた電車やバスの利用頻度の変化
図表7 地域別にみた自家用車の利用頻度の変化
3| 職業別の状況
最後に、職業別の状況についてみていきたい(図表8と図表9)。まず「公務員」は、「電車やバス」の利用層が減った上、利用頻度も低下していた(「週5回以上」は6.1ポイント減少、「週1~4回」は4.5ポイント減少し、「月3回以下」は20ポイント以上増加)。一方、「自家用車」についても利用層が減り、利用頻度もやや減少していた(「週5回以上」が5.9ポイント減少)。公務員は、移動が全体的に不活発になったとみることができるが、このような変化の要因は当調査では分からない。基礎研の同じ調査で出社頻度を確認すると、公務員は過去1年で寧ろ出社頻度が上がり、在宅勤務頻度は低下している。

「会社員(事務系)」や「会社員(技術系)」では「電車やバス」の利用頻度が上がっており(「週5回以上」がいずれも約6ポイント増加)、5類移行後の出社頻度増加が影響していると見られる。「専業主婦(主夫)」や「パート・アルバイト」でも、「電車やバス」の利用層はやや増加している。
図表8 職業別にみた電車やバスの利用頻度の変化
図表9 地域別にみた自家用車の利用頻度の変化

5――終わりに

5――終わりに

本稿でみてきたことを整理すると、まず移動人口については、大型連休明けの新型コロナの5類移行後、上昇を続け、最新の7月上旬時点では、全国でみるとコロナ前の水準を回復している。地域別にみれば、観光地等ではコロナ前を上回る賑わいを見せているが、関東では少しコロナ前を下回っており、在宅勤務というコロナ禍で広がったビジネススタイルが一部で定着した影響で、やや減少したままだと言える。

交通モードについては、コロナ禍以降、「公共交通からマイカーへ」とシフトする動きが見られていたが、5類移行後に、目立った逆戻りの動きは見られなかった。属性別に細かく見れば、▽50~60歳代の中高年の公共交通利用がやや増加、▽在宅勤務を出社に戻した人が多い関東や近畿では、公共交通の利用がやや増加、▽会社員では公共交通の利用が増加、といった現象が個々には見られるが、公共交通とマイカーとの明白なオフセットの関係は見られない。要するに、消費者は新型コロナの感染症法上の変更に関わらず、普段通りの交通モードを選択している。コロナ禍3年の間に、必要な感染防止対策をするなど、リスクをコントロールしながら、自ら使い勝手の良い移動手段を利用する習慣ができ、それが定着したためだと考えられる。従って、5類移行後に経済社会活動が活発になれば、公共交通とマイカーのいずれも利用増加するという現象が起きているのではないだろうか。

また、本稿の分析から見えてきた課題としては、70歳代の移動頻度に大きな回復が見られないことである。これまでにも述べてきたように、70歳代はコロナ禍に入って外出自粛が強まり、外出頻度が週1回以下の「引きこもり」も大幅に増えた。公共交通を回避する傾向も強く現れていた。それらにより、要介護状態手前のフレイル発症率が上昇したことも、報告されていた4。時間の経過とともに、外出自粛には徐々に緩和傾向が見られていたが、コロナ前に比べれば、依然低水準で推移していた5

このような中で、新型コロナが5類に移行し、高齢者の動きがどうなるのかに筆者は注目していたが、70歳代の移動頻度については、今のところ、1年前からの目立った回復傾向は見られない。高齢者の場合は、不活発になると身体機能や認知機能が低下するため、いったん機能低下した人は、行動制限が解除されても、活動再開は容易ではないためだろう。3年間続いたコロナ禍の影響は、高齢者については、より長引く恐れがある。また、基礎研の調査では対象外である80歳以上では、より不活発が続いている可能性もある。国内全体の経済社会活動が活発になっていく中で、70歳代や80歳代、90歳代といった後期高齢者たちが取り残されないように、状況を注視していく必要があるだろう。
 
4 坊美生子(2023)「コロナ禍が高齢者の生活に与えた影響と回復に向けた取組(上)」(ジェロントロジー座談会)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年07月24日「基礎研レポート」)

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