2023年07月24日

新型コロナ5類移行後の移動人口と交通モードの利用状況~高齢者の移動頻度は1年前から未回復

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

今年5月の大型連休後に、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に変更されて以降、街の人出が増え、マスクを外す人の姿も増えた。娯楽施設や観光地も賑わい、消費者の行動は活発になっているようである。そのような中で、社会経済活動の基盤である「移動」はどのように変わったのだろうか。コロナ禍以降、「密」を避けて感染リスクを下げるために、高齢者を中心に外出自粛傾向が強まり、交通モードは、公共交通からマイカーへとシフトが見られることを報告してきたが1、5類移行後はどうであろうか。高齢者の外出自粛は収まり、生活は活発になっているのだろうか。

本稿では、消費者の移動の量と交通モードの選択について、ビッグデータを用いた統計システムと、ニッセイ基礎研究所が今年6月にインターネット上で行った「生活に関する調査」や、コロナ禍以降、継続実施してきた「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を基に、現状を分析する。

2――移動人口の現状

2――移動人口の現状

まず、移動人口からみていきたい。内閣官房と内閣府が提供している地域経済分析システム「V-RESAS」を用いて、コロナ前(2019 年の同週)と比べた移動人口の動向を見ると、全国では、今年に入ってから、マイナス一けた台からマイナス10%の間を推移していたが、5類に移行した5月第2週に急上昇し、-1.7%となった(図表1)。その後も回復傾向が続き、6月中旬以降はほぼコロナ前の水準に戻った。ただし、地域ごとに濃淡があり、例えば最新の7月第1週時点では、観光地が多い「北海道」がコロナ前に比べてプラス8.1%、「九州・沖縄」がプラス6%などとなっているのに対し、関東はマイナス6.2%となっている。観光など「ハレ」の日の滞在が多い地域では、移動人口はコロナ前を上回る勢いであるのに対し、通勤など日常的な移動が多い地域については、在宅勤務の一部継続により、コロナ前を下回っていると考えられる。
図表1 コロナ前と比べた地域ブロックごとの移動人口の動向(2019年同週比)

3――交通モードの選択

3――交通モードの選択~公共交通とマイカーの利用頻度の推移

ここからは、消費者の交通モードに対する意識変化を追うため、ニッセイ基礎研究所の「生活に関する調査」と「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」から、公共交通とマイカーの利用頻度についてみていきたい。なお、これらの調査では、利用頻度を尋ねているのが2022年6月以降であるため、最新の2023年6月時点の調査から、2022年6月時点の調査まで1年間遡り、計5回分の調査結果の推移をまとめる。

なお、基礎研の調査は、国内の消費者の意識変化を追跡することが目的であり、調査会社にあらかじめモニターとして登録されている人を対象としてアンケートを行うため、最近、観光地で急増しているインバウンドの動向については捉えることができない。そのため、事業者側からみた乗客数の増減とは異なる。

まず、「電車やバス」の利用頻度を、「毎日」「週5~6日」「週3~4日」「週1~2日」「月に3回以下」「年に3回以下」「利用していない・該当しない」に分けて集計すると(図表2)、過去1年で大きな変化は見られないが、2023年6月時点と1年前の2022年6月時点を比べると、「未利用・非該当」が3%減った。公共交通の回避傾向が若干、弱まったと見ることができる。

次に「自家用車」の利用頻度をみると、こちらも過去1年では大きな差は見られないが、2023年6月時点と1年前の2022年6月時点を比べると、「毎日」利用する人が微減していた。
図表2 電車やバスの利用頻度
図表3 自家用車の利用頻度

4――属性別にみた電車・バスとマイカーの利用頻度

4――属性別にみた電車・バスとマイカーの利用頻度

ここからは、消費者の属性別に「電車やバス」と「自家用車」の利用頻度について、最新の2023年6月時点と、1年前(2022年6時点)の状況を比較する。それによって、特定の属性によっては、5類移行後に交通モードの選択に変化が見られるかを考察する。なお、より簡潔に状況を把握するため、利用頻度は「週5回以上」(図表2と図表3における「毎日」と「週5~6日」の計)、「週1~4回」(同「週3~4回」と「週1~2回」の計)、「月3回以下」(同「月に3回以下」と「年に3回以下」の計)、「未利用・非該当」の4段階に区分し直した。
1| 年代別の状況
まず、年代別にみたものが図表4と図表5である。全年代のうち、「50歳代」と「60歳代」では電車やバスの「未利用・非該当」が6~7ポイント減少しており、中高年で公共交通の利用がやや回復していることが分かる。ただし、より高齢の「70歳代」では「未利用・非該当」に大きな変化は見られない。筆者はこれまでに、感染リスクの高い70歳代は、コロナ禍以降、外出頻度が大幅に減少し、外出する場合でも、公共交通の利用は大幅に減ったことを報告してきたが2、5類移行後も、1年前と比べて利用頻度には目立った回復傾向は見られない。

次に自家用車については、「70歳代」で利用頻度がやや落ちているほか、「20歳代」では利用層(全体―「未利用・非該当」)が7ポイント減少している。コロナ禍直後には、20歳代はマイカーの利用が大きく伸びたが3、現在は再び利用層が減少に転じているようだ。

ここで、2023年6月時点の状況について、年代ごとの差をみると、「20歳代」は全年代の中で「週5回以上」が最も多い約3割となった。もともと活発な人が多く、コロナ禍直後でも電車やバスの回避傾向がほぼ見られなかったが、5類移行後は、さらに利用が活発になっているようだ。一方で、電車やバスの「未利用・非該当」と、自家用車の「未利用・非該当」がいずれも4~7ポイント増加しており、公共交通に乗らない層と、マイカーに乗らない層が拡大している。これは、移動して直接人に会ったり、モノを見たりするリアルな体験ではなく、オンラインで消費や交流を楽しむ“デジタル消費層”が拡大していることを示唆しているだろう。

以上を整理すると、コロナ禍で利用が減少した公共交通に対する意識は、5類移行以後、大きな変化は見られないが、中高年の一部で軟化し、若干の回復が見られる。ただし、より高齢の70歳代には回復傾向が見られない。一方、20歳代は、公共交通の利用がやや増加し、マイカーは減少している。
図表4 年代別にみた電車やバスの利用頻度の変化
図表5 年代別にみた自家用車の利用頻度の変化
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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