2023年07月24日

【少子化社会データ詳説】日本の人口減を正しく読み解く-合計特殊出生率への誤解が招く止まらぬ少子化

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――日本の出生数大激減の真因とは

1|意外な原因への対策は立てられない
それでは日本の少子化、すなわち出生数の大激減は「出生率が低下したから」といっても、一体、(1)未婚割合、(2)既婚女性あたり出生数、の2要因のどちらが強く影響している(もしくは同じ程度)のだろうか。

結論から先に述べるならば、統計的にみれば(1)(未婚割合)の上昇が決定的な要因となっている。この説明を聞いて、これまで出生減に深く携わってきた人々ならまだしも、そうでない人にとっては未だに意外な結論であるだろう。「出生率の高低を動かす2要因」を計量的に分析した上で、少子化対策の優先順位や方向性を検討し、国民に説明してこなかったことが、日本の止まらぬ人口減少を招いている。なぜなら、思ってもみないことを原因とする事象に対応して、適切な対策を決定する人などほぼいないからである。

まず日本の出生数が激減している実態について正しくデータで把握する必要がある(図表3)。
図表3 1970年から2021年の時系列データ相関分析
今から約半世紀前の1970年における出生数は193.4万人である。1970年は第2次ベビーブームである1971年~1974年の前年であり、比較計算上、前後の年の出生トレンドと対比して特に過大な出生数の年ではない。その51年後となる2021年には出生数は81.2万人にまで減少し、51年間で42%水準(つまり58%の減少)となるような出生数の激減が日本の少子化の現状である。そこで、婚外子割合が僅少であることを踏まえて、この出生数を生み出した婚姻数の増減状況と出生数の関係をみてみたい。
 
婚姻数をみると、1970年は102.9万件、2021年は50.1万件と、実はこちらも49%水準(51%減少)と激減していることがわかる。1970年と2021年との単純な2次点間の比較だけではなく、51年間の時系列同士の相関係数もあわせて算出したところ、0.93(1.0が完全一致して増減)と、出生数と婚姻数が非常に強い正の相関をもって、パラレルに減少していることが示された。

つまり統計的には「カップルの数が49%に減ったから、出生数もそれに強く連動して42%に減った」という結果である。さらに、近年は離婚が増加したことにより、再婚者を含む結婚が婚姻数全体の1/4程度を占めているが、再婚者を含む婚姻は、時系列分析での結果、新たに子どもを持たない傾向が強く、出生数の変化と再婚者を含む婚姻の数の変化は、中度から強度の負の相関であることが示されている。つまり再婚割合が増加するほど出生数が減少する傾向が示されている。このため、再婚者を含む結婚を除いた「初婚同士の婚姻数」と出生数の変化の関係を改めて計算してみると、初婚同士婚姻数は1970年の91.5万件から2021年の37.1万件と41%水準(59%減少)し、出生数の減少水準(42%水準、58%減少)とほぼ下落率が一致する水準となっており、相関係数も0.96と極めて高い水準となっていることが判明した。
 
まさに「初婚同士のカップル成立なくして、出生なし」が日本の状況である。

図表3のA/Cが初婚同士婚姻数で割った出生数の数だが、1970年は2.1、2021年と2.2であり、マクロでみるならば、この半世紀において結婚したカップルの間の子どもが大激減したから出生数が約4割にまで落ち込んだとは、とても言えない結果となっている。

もう一つ、国立社会保障・人口問題研究所が定期的に実施している出生動向基本調査の「完結出生児数」(結婚持続期間が15~19年の初婚同士結婚の夫婦の平均子ども数)の結果も、1972年が2.21であるのに対し、2021年は1.90となっており、86%水準を維持している。

つまり、夫婦あたりの子どもの数は半世紀前の約9割水準をいまだに維持しているのに、出生数は4割水準にまで落ち込んでいる状況であるので、日本の出生数激減、すなわち深刻な少子化の主因は「婚姻数の激減」、いわゆる出生率の低下要因の①の未婚化であることが明確である。
2|古い家族形態に基づく既婚者応援発想からの脱却が必須
(1) 女性人口減の倍速で進む婚姻減
「カップル数が大きく減ったのは人口が減っているから当たり前ではないか」という考えも当然できるだろう。しかし、1970年と2020年の国勢調査を比較すると、出生率の計算対象となる15歳から49歳の女性人口は2980万人から2430万人への減少にとどまっており、82%水準を維持している。つまり、出生率の計算対象となる女性人口は半世紀前の82%水準を維持しているにもかかわらず、初婚同士婚姻数は1970年と2020年の半世紀で43%水準にまで大激減している、という人口母数と成婚数間の大きな乖離がみられている。

つまりこの半世紀で、出産の対象となる女性人口の減少スピードのほぼ倍速で婚姻数の減少、すなわち未婚化が進んでいる状況にある。このような統計的実態がある中で、自らが若かった時代の価値観や社会状況を前提に「結婚はしていて当たり前」「結婚している男女の子どもを増やす応援」となる妊活支援や子育て支援は「夫婦当たりの子どもの数」(出生数/婚姻数)の維持策としては良好な結果となったものの、出生数(=夫婦当たりの子どもの数×婚姻数)の維持、増加を目指す少子化対策としては全く奏功してこなかったのは当然だといえるだろう。
 
以上、日本における人口減少の真因が「未婚化」にあることを解説した。もちろん、夫婦あたりの子どもの数が半世紀前と比べても非常に高水準で維持できているのは、これまでの「子育て支援」の諸策が奏功しているからといえる。「少子化対策」という言葉でいまだに日本中の誰もが真っ先に思いつく子育て支援によって、夫婦あたりの出生数については支えられてきたことは評価できる。

しかしながら、この「子育て支援発想」が「未婚化によって出生数が大激減していく少子化社会」において、伝家の宝刀、少子化対策の主因を解決する手段とはならないことを社会全体で認知しない限り、統計的に見て日本の出生減が止まることはない。

たまに「いつになったら出生率の低下は収まると思うか」という不思議な質問を講演会の聴講者から受けることがある。「未婚化」という科目の配点が極めて高い大学の受験対策をせずに、得意科目の「結婚できた人向けの子育て支援」科目の勉強に励んでいる状態で、どうして合格(出生率の上昇)があると思えるのか、不思議でならない。
2) 理想の家族像への無理解
統計的に結婚適齢期にある30代前半までの若い未婚男女の理想の夫婦像が、今の50歳以上の男女が若かったころの理想と激変している4ことをスルーしたまま、今の子育て支援など少子化対策が構築されている面が多分にあることを忘れてはならない。

古い家族価値観を前提とした採用や人材育成が続く企業においては、いくら子育て支援といっても、若者たちからすれば「現状の雇用制度ありきの応援」でしかない。例えるなら、いくら外装や家具を美しくし利便性を向上したマンションの部屋を宣伝したとしても、そもそも戸建てに住みたい人には目にも止まらないし魅力にならない、という状況に近い。

少子化対策として大きく取り上げられてきた「待機児童問題」「保育の質」「妊活支援」「不妊治療支援」「職場における既婚者の働き方支援」「シングルペアレント支援」「産まれてきた子どもへの支援」など、どれをとっても「既婚者応援」にすぎず、子育て支援だけさえすれば、きっと雇用した若者に結婚、そして出産もついてくるだろう、程度の甘い未婚化への認識であったように思う。

激増する未婚の男女が、近くに保育所ができたから、不妊治療クリニックができたから、あるいは企業の既婚者支援が充実して「福利厚生制度で子育て支援策が増えた」から、「結婚しよう」となるだろうか。

男女ともに、どちらかに経済的重圧が大きく偏らずに支えあう家族価値観が若い世代において大きく支持されている状況にありながら、いまだ労働市場では男性側に経済責任が重いまま、女性側の雇用が不安定なまま、もしくは女性側の賃金の伸び代がないまま、これではあまりに若い世代の理想の家族形成からは遠く、そもそも家族を持とうとする気持ちになれない。だからこその止まらぬ未婚化ではないのか。
 
この半世紀、「親世代夫婦の背中」がその子ども世代にとって非常に魅力的であったならば、ここまで極端な未婚化社会になどならなかったはずである。

そのことに我々人口マジョリティである中高年世代は、悲しくとも向き合わねばならないし、その悲しみに向き合う姿勢こそが未婚化要因を解消し、少子化を食い止める唯一の戦略であると気づかねばならない。

中高年親世代がもつ自らの家族価値観、幸福感を一旦わきにおいて、今の若い世代が結婚したその先の夫婦像に、親世代とは明らかに異なる家族の姿がある、そんな大きな変化につながる雇用改革5が企業規模、エリア問わず必須となっている。
 
未婚化問題に対峙することは、人口マジョリティ化した中高年が持つ「かつての若者の夫婦像、家族価値観、そしてそれを支えてきた雇用環境」への伝統的価値観からの脱却という、激しい痛みを伴う作業である。高齢化社会では、その人口の大半がこの痛みを感じることになるがゆえに、どうしても後回し、逃げ腰になってきた傾向にある。しかし、この痛みこそが日本の少子化対策奏功への道筋となることを強く訴えたい。
 
4 激変した「ニッポンの理想の家族」-第16回出生動向基本調査「独身者調査」分析/ニッポンの世代間格差を正確に知る 参照。
5 地方の婚姻減(=少子化)に大きな影響を持つ東京一極集中は男性より女性に発生しており、2020年から2022年のコロナ禍では、男性の2.2倍の女性が東京に純増した。最も増加したのは22歳の大卒就職移動とみられる女性達である。詳しくは中央公論2023年6月号「女性がリードする地方からの女性流出」参照。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2023年07月24日「基礎研レポート」)

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