2023年07月21日

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2商業施設売上高の見通し
最後に、品目別支出の2シナリオとEC化率の2シナリオを組み合わせた4つのシナリオをもとに、2019年の水準を100として、2040年までの商業施設売上高を試算した(図表25)。

(1)「品目別支出:コロナ前回帰シナリオ」×「EC化率:コロナ前回帰シナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に94.3、2040年には85.8まで減少する。

(2)「品目別支出:コロナ前回帰シナリオ」×「EC化率:ニューノーマルシナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に92.3、2040年には82.1まで減少する。

(3)「品目別支出:ニューノーマルシナリオ」×「EC化率:コロナ前回帰シナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に89.5、2040年には81.1まで減少する。

(4)「品目別支出:ニューノーマルシナリオ」×「EC化率:ニューノーマルシナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に87.5、2040年には77.3まで減少する。
図表25:商施設売上高の見通し (2019年=100)
以上の結果から、商業施設売上高は2030年に87.5~94.3、2040年に77.3~85.8の範囲に収まる見通しである。年率では、2030年に▲0.3%~▲1.5%、2040年に▲0.4%~▲1.3%となる。年率▲1%前後であれば、商業施設の運営力などで対応する余地もありそうだ。しかし、ここで重要なのは商業施設売上高への緩やかな下押し圧力が、今後20年にわたって続くということである。少子高齢化とEC市場拡大は長期的かつ不可逆的な変化であり、商業施設にとって「緩やかに進む危機」だと言える。

また、2019年から2040年までの変化を要因分解すると、少子高齢化が▲7.5%、EC市場拡大が▲10.5%~▲6.5%、コロナ禍による影響が▲4.7%~▲0.2%、の寄与となる。コロナ禍は商業施設の売上に多大な影響を及ぼしたが、今後20年の長期的な観点では、少子高齢化やEC市場拡大の影響がより重要であることがわかる。
3可処分所得が増加した場合の商業施設売上高の見通し
本稿の分析では、可処分所得が将来にわたって一定と仮定している。これは2040年まで日本の経済が成長しないと仮定しているのと大きく変わらない。雇用や所得環境の改善が続き、可処分所得が増加した場合には、商業施設の売上環境は試算結果ほど悪化しないことが想定される。

可処分所得が増加した場合の商業施設売上高を試算すると、その効果は大きく、少子高齢化やEC市場拡大、コロナ禍による消費行動の変容によるマイナスの影響を相殺できる可能性が高い(図表26)。品目別支出がコロナ前回帰シナリオの場合、EC化率が加速したケースでも、年率1.0%以上の所得増加を実現できれば、20年後も商業施設売上高は2019年水準を概ね維持できる。一方、品目別支出がニューノーマルシナリオの場合、20年後の商業施設売上高が2019年水準を超えるには、年率2.0%の所得増加が求められる。
図表26:商施設売上高見通しへの可処分所得増加の影響

7――長期的な下押し圧力

7――長期的な下押し圧力のなか、運営力強化と投資対象の選別が求められる

コロナ禍は商業施設に多大な影響を及ぼし、1990年代後半から続く、商業施設の売上環境の低迷に拍車をかけた。今後、コロナ禍が収束に向かったとしても、少子高齢化とEC市場拡大の影響が本格化することで、下押し圧力が継続もしくは強まっていく。商業施設売上高は、2019年を100とすると、2030年に87.5~94.3、2040年に77.3~85.8となる見通しだ。売上全体のパイが縮小することで、商業施設間の競争が激しくなると予想される。

コロナ禍による消費行動の変容の影響は依然不透明だが、今後20年という時間軸で見た場合、少子高齢化とEC市場拡大の方が、商業施設の売上環境により大きな影響を及ぼすことになる。また、ポストコロナの消費者像によっては、特定の品目や業態においてその影響が顕在化する可能性があり、商業施設の運営力が一層問われることになる。

少子高齢化とEC市場拡大は不可逆的な変化であり、緩やかに長く続くことが特徴であることから、商業施設売上高の下押し圧力は年々強まる。商業施設への投資においても、経済・投資環境の緻密な分析や、柔軟かつ大胆なアロケーション変更を行う運営力に加えて、投資対象の選別が一段と求められることになりそうだ。
 
 

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年07月21日「ニッセイ基礎研所報」)

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