- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 商業施設売上高の長期予測
商業施設売上高の長期予測

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
最後に、品目別支出の2シナリオとEC化率の2シナリオを組み合わせた4つのシナリオをもとに、2019年の水準を100として、2040年までの商業施設売上高を試算した(図表25)。
(1)「品目別支出:コロナ前回帰シナリオ」×「EC化率:コロナ前回帰シナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に94.3、2040年には85.8まで減少する。
(2)「品目別支出:コロナ前回帰シナリオ」×「EC化率:ニューノーマルシナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に92.3、2040年には82.1まで減少する。
(3)「品目別支出:ニューノーマルシナリオ」×「EC化率:コロナ前回帰シナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に89.5、2040年には81.1まで減少する。
(4)「品目別支出:ニューノーマルシナリオ」×「EC化率:ニューノーマルシナリオ」では、商業施設売上高は、2030年に87.5、2040年には77.3まで減少する。
また、2019年から2040年までの変化を要因分解すると、少子高齢化が▲7.5%、EC市場拡大が▲10.5%~▲6.5%、コロナ禍による影響が▲4.7%~▲0.2%、の寄与となる。コロナ禍は商業施設の売上に多大な影響を及ぼしたが、今後20年の長期的な観点では、少子高齢化やEC市場拡大の影響がより重要であることがわかる。
本稿の分析では、可処分所得が将来にわたって一定と仮定している。これは2040年まで日本の経済が成長しないと仮定しているのと大きく変わらない。雇用や所得環境の改善が続き、可処分所得が増加した場合には、商業施設の売上環境は試算結果ほど悪化しないことが想定される。
可処分所得が増加した場合の商業施設売上高を試算すると、その効果は大きく、少子高齢化やEC市場拡大、コロナ禍による消費行動の変容によるマイナスの影響を相殺できる可能性が高い(図表26)。品目別支出がコロナ前回帰シナリオの場合、EC化率が加速したケースでも、年率1.0%以上の所得増加を実現できれば、20年後も商業施設売上高は2019年水準を概ね維持できる。一方、品目別支出がニューノーマルシナリオの場合、20年後の商業施設売上高が2019年水準を超えるには、年率2.0%の所得増加が求められる。
7――長期的な下押し圧力のなか、運営力強化と投資対象の選別が求められる
コロナ禍による消費行動の変容の影響は依然不透明だが、今後20年という時間軸で見た場合、少子高齢化とEC市場拡大の方が、商業施設の売上環境により大きな影響を及ぼすことになる。また、ポストコロナの消費者像によっては、特定の品目や業態においてその影響が顕在化する可能性があり、商業施設の運営力が一層問われることになる。
少子高齢化とEC市場拡大は不可逆的な変化であり、緩やかに長く続くことが特徴であることから、商業施設売上高の下押し圧力は年々強まる。商業施設への投資においても、経済・投資環境の緻密な分析や、柔軟かつ大胆なアロケーション変更を行う運営力に加えて、投資対象の選別が一段と求められることになりそうだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年07月21日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1778
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
佐久間 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/23 | インフレ時代にオフィス市場で普及が進むと期待されるCPI連動条項 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/05/13 | Japan Real Estate Market Quarterly Review-First Quarter 2025 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/03/07 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 基礎研マンスリー |
2025/02/26 | 成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年07月04日
米雇用統計(25年6月)-非農業部門雇用者数が市場予想を上回ったほか、失業率が上昇予想に反して低下 -
2025年07月03日
ユーロ圏失業率(2025年5月)-失業率はやや上昇したが、依然低位安定 -
2025年07月03日
IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(14)-19の国・地域からの60社全てのIAIGsのグループ名が公開された- -
2025年07月03日
BMIと体型に関する認識のズレ~年齢・性別による認識の違いと健康行動の関係 -
2025年07月03日
私的年金のカバレッジ拡大に向けて
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【商業施設売上高の長期予測】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
商業施設売上高の長期予測のレポート Topへ