2023年07月21日

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3――コロナ禍における消費構造の変化:コト消費からモノ消費へのシフトが進む

コロナ禍における消費構造の変化の1つに、「コト消費からモノ消費へのシフト」が挙げられる。総務省の「家計調査」によると、消費支出に占める財消費の割合は2019年の57.6%から2020年の61.3%へ+3.7%ポイント上昇した(図表7)3,4。2021年は60.3%(前年比▲1.0%ポイント)に低下したものの、コロナ以前と比べて高い水準である。
図表7:消費支出に占める財消費の
 
3 消費支出はこづかい、交際費、仕送り金を除く。
4 二人以上の世帯。また、本稿では特段の断りがない限り、二人以上を対象とする。
1|品目別にみた消費支出額: 一部のモノ消費では反動減
「コト消費からモノ消費へのシフト」は多くの品目で続いているが、一部のモノ消費では反動減も見られる。消費支出額を品目別に確認すると、コト消費は「旅行関連サービス」が2020年に前年比▲64.9%、2021年に▲9.6%、「外食」が2020年に▲24.7%、2021年に▲2.2%と、低迷が続く(図表8)。一方、「外食」の代替先としてモノ消費の「食料」が増加し、2020年に+6.9%、2021年に▲0.7%となった。また、在宅勤務の普及などにより自宅での滞在時間が増加したことで支出額を伸ばした「家電」は2020年に+11.7%、2021年に▲3.9%、「家具・寝具」は2020年に+7.7%、2021年に▲9.6%となった。こうした在宅環境改善のための耐久財消費への支出は2020年で概ね一巡したと言える。
図表8:品目別のモノ・コト消費額変化率(前年比)
|年齢別にみた消費支出額: コト消費への回帰の動きも
2021年に入っても、高年層では「コト消費からモノ消費へのシフト」が続いているものの、若年層と中年層ではモノ消費からコト消費へ回帰する動きがみられる。年齢別にモノ消費割合の推移を確認すると、「65~69歳」が2019年の63.3%から2020年に69.3%に上昇し、2021年でも69.2%と高水準を維持するなど、65歳以上の高年層では、2020年に上昇した後も高止まりしている(図表9)5,6。これに対して、「34歳以下」のモノ消費割合は2019年に63.8%、2020年に69.5%と上昇したものの、2021年に67.7%とやや低下するなど、64歳以下の若年層・中年層では、2020年に上昇したモノ消費割合が2021年には低下している。
図表9:年齢別にみたモノ消費割合の推移(2019年~2021年)
コロナ禍では「コト消費からモノ消費へのシフト」が進展したが、その変化の内容は全ての年齢層で一律ではない。2020年のコト消費とモノ消費の増減率をみると、「34歳以下」ではコト消費が▲13.9%、モノ消費が+11.3%となったように、若年層・中年層はコト消費をモノ消費で代替したことが分かる(図表10)。一方、「85歳以上」(コト消費▲23.7%、モノ消費▲3.2%)はいずれの消費も減少しているように、高年層はコト消費の大幅減少が結果的にモノ消費割合の上昇をもたらした。
図表10:年齢別にみたモノ消費とコト消費の増減率(2020年、前年比)
2021年に入り、若年層・中年層では、「コト消費からモノ消費へのシフト」を巻き戻す動きがみられる。例えば、「34歳以下」(コト消費+6.1%、モノ消費▲2.3%)や「35~39歳」(コト消費+3.4%、モノ消費▲3.8%)では、モノ消費からコト消費への回帰が進んでいる(図表11)。一方、65歳以上の高年層では、「80~84歳」を除いて、モノ消費とコト消費をともに減らす動きが続いている。
図表11:年齢別にみたモノ消費とコト消費の増減率(2021年、前年比)
このように、コロナ禍では、「コト消費からモノ消費へのシフト」が進んだが、2021年には一部に揺り戻しの動きが見られる。また、品目や年齢別にみると、その変化の内容は決して一律ではない。品目別では、「外食」の代替先として「食料」の支出額が増加した一方、在宅環境改善のための耐久財需要は一巡している。また、年齢別では、コロナ禍の収束が見通せないなかでも、若年層と中年層ではモノ消費からコト消費への回帰が見られる。これに対して、高年層ではそもそも「コト消費からモノ消費へシフト」したわけではなく、外出を自粛しコト消費とモノ消費をともに減らしている。コロナ禍が収束すれば、若年層と中年層ではコト消費への回帰が加速すること、高年層でもコト消費の回復が期待されるが、コロナ以前の水準に戻るかどうかについて、現時点で判断することは難しい。
 
5 モノ消費割合は、消費支出を品目ごとにモノ消費とコト消費に分類することで計算した。
6 世帯主の年齢。また、本稿では特段の断りがない限り、「年齢別」は世帯主の年齢別を指す。

4――コロナ禍における消費チャネルの変化

4――コロナ禍における消費チャネルの変化:ECシフトの加速

コロナ禍における消費構造のもう1つの変化に、巣ごもり消費の増加による「ECシフトの加速」が挙げられる。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2020年のEC市場規模は、12.2兆円(前年比+21.7%)と急拡大した7。この結果、日本のEC化率は8.1%となり、前年からの上昇幅は+1.3ポイントと過去最大の伸びを示した(図表12)。
図表12:日本のEC化率の推移
ただし、総務省の「家計消費状況調査」を確認すると、2021年に消費者のECシフトは、コロナ禍以前のペースまで鈍化した。緊急事態宣言が初めて発令され、外出抑制が余儀なくされたことでEC支出額は急増し、2020年4月に前年比+45.1%、2020年5月に+66.7%となった(図表13)。その後も高い伸び率を維持し、2021年3月までは概ね+40%~+60%の伸び率を維持した8。しかし、2021年4月以降は平均+10%に伸び率が減速しており、コロナ禍におけるECシフトの加速は一巡した可能性がある。
図表13:EC支出額変化率の推移
 
7 物販系分野の消費者向けEC市場規模。「電子商取引に関する市場調査」では、物販系、サービス系、デジタル系の3分野の消費者向けEC市場規模が公表されている。2020年のEC市場規模は、物販系12.2兆円(前年比+21.7%)、サービス系4.6兆円(▲36.1%)、デジタル系2.5兆円(+14.9%)と、コロナ禍による外出自粛を背景に物販系が急拡大する一方、旅行サービスの急減に伴い、サービス系分野が大幅に減少した。3分野合計のEC市場規模は19.3兆円(▲0.4%)と、横ばいとなった。
8 2020年9月にEC支出額は前年比+21.9%と一時的に減速した。
1|品目別にみたECシフト: 目立つ食料品のEC拡大
日本でEC化が進んでいる品目は、「書籍、映像・音楽ソフト」(EC化率43.0%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(同37.5%)、「生活雑貨、家具、インテリア」(同26.0%)などである(図表14)。これらの品目の特徴として、劣化しにくく、品質が一定かつ比較しやすいことなどが挙げられる。また、「衣類・服装雑貨等」のECは、実物が確認できない、試着できないなどの短所が指摘されてきたが、2020年のEC化率は19.4%と2015年の9.0%から上昇し、着実にEC化が進んでいる。一方、「食品、飲料、酒類」(同3.3%)、「自動車、自動二輪車、パーツ等」(同3.2%)はEC化が遅れている。劣化しやすい、品質が不均一、高額または専門知識が必要な品目などである。
図表14:日本の物販系分野のEC化率と市場規模
コロナ禍におけるEC拡大の特徴として、EC化率が低い「食品、飲料、酒類」などの品目のEC取引額が急増したことが挙げられる。2020年のEC取引額の変化率をみると、増加率が最も高かった品目は「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(前年比+28.8%)、次いで「書籍、映像・音楽ソフト」(+24.8%)であった(図表15)。これらの品目はもともとEC化率が高かったが、EC化率の低い「食品、飲料、酒類」(+21.1%)についても、20%を超える高い伸びを示している。
図表15:品目別のEC取引額変化率(2020年)とEC化率(2019年)
また、2020年に加速したECシフトは、足もとで鈍化傾向にあるものの、食料品などはコロナ以前を上回る高い伸びを維持している。2019年から2021年にかけてのEC支出額変化率(前年比)をみると、「食料」(+15.4%→+55.9%→+36.4%)と「健康食品」(+6.3%→+19.4%→+14.1%)は、2021年においても2019年の2倍以上の伸び率となっている(図表16)。これに対して、「食料」と「健康食品」以外の品目では、EC拡大ペースはコロナ以前の水準に戻っている。なかでも、「家具」(+12.8%→+56.8%→+2.8%)や「家電」(+25.7%→+55.6%→▲2.8%)は、在宅関連の耐久財支出の反動減が大きく、EC支出額の伸び率は2019年を下回る水準へと急低下している。
図表16:品目別にみたEC支出額変化率の推移(2019年~2021年)
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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