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商業施設売上高の長期予測
金融研究部 主任研究員 佐久間 誠
1――商業施設はコロナ禍の不確実性に加え、少子高齢化とEC市場拡大が逆風に
コロナ禍では、消費行動が大きく変わった。具体的には、消費構造の変化として「コト消費からモノ消費へのシフト」、消費チャネルの変化として「ECシフトの加速」が挙げられる。これらの変化には、ポストコロナにおいて、元に戻るものと、元には戻らない不可逆的なものが含まれており、今後の商業施設の売上高に影響を及ぼすことが予想される。
本稿では、まず、少子化が商業施設売上高に及ぼす影響を整理する。次に、コロナ禍における「コト消費からモノ消費へのシフト」、「ECシフトの加速」について確認する。最後に、これらの影響を踏まえ、2040年までの商業施設売上高を複数のシナリオのもとシミュレーションすることで、今後の商業施設の売上環境の変化について考察する2。
1 1998年は金融危機や前年の消費増税の影響で前年比▲5.5%、2002年はITバブル崩壊などにより▲3.3%となった。
2 2017年に(1)少子高齢化、(2)EC市場拡大、の商業施設売上高への影響を分析したレポートを公表しており、本稿はそれをアップデートしたものである。
佐久間誠(2017)「商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~」(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所、2017年8月31日)
2――少子高齢化の商業施設売上高への影響
少子高齢化が進んでいくなか、世帯構造を見ると「単身世帯の増加」と「世帯の高齢化」の進展が特徴であり、今後の消費動向を分析する上で重要なポイントとなる。
単身世帯の増加は、商業施設の売上を下支えする要因となる。ここでは、単身世帯増加の影響を見るため、各世帯の消費支出のうち、商業施設の売上に繋がる品目を「物販・外食・サービス支出」として集計し、単身世帯と二人以上世帯の一人当たり支出を比較する(図表5)。
物販・外食・サービス支出は、全ての年齢で単身世帯の方が二人以上世帯より大きく、支出金額の差は平均で24.9千円/月である。その差は、30~39歳で最も小さく(9.9千円/月)、60~69歳で最も大きい(38.8千円/月)。
品目別に見ても、単身世帯がほとんどの品目で上回る。特に差が大きいのは、食料(平均+2.5千円/月)、被服・靴(+1.7千円/月)、外食(+6.0千円/月)、観覧・入場料等(+1.6千円/月)、交際費(+3.7千円)である。一方、59歳以下の単身世帯は素材となる食料への支出が小さい。この年齢層の単身世帯は、惣菜などの加工食品や外食により食事を済ませ、自炊しない傾向がうかがえる。
日本における高齢化は商業施設の売上の減少要因となる。ここでは、高齢化の影響を整理するため、各年齢の世帯と5歳上の世帯の物販・外食・サービス支出を比較した。年齢毎の消費支出が将来も変わらないと仮定した場合に、各世帯の物販・外食・サービス支出が5年後にどれほど変化するかを表している(図表6)。
物販・外食・サービス支出は55~59歳はピークに、高齢になるにつれ減少する。例えば、団塊ジュニア(図表6の45~49歳)の物販・外食・サービス支出は、5年後には7.5千円/月増加、5年後から10年後には5.2千円/月増加、10年後から15年後には4.9千円/月増加するが、15年後から20年後には0.8千円/月減少する。また団塊の世代(同70~74歳)の物販・外食・サービス支出は、5年後には16.7千円/月減少し、5年後から10年後にはさらに8.8千円/月減少する。
品目別に見ると、多くの品目が高齢化により支出が減少するが、一部の品目は増加する。食料、被服・靴、外食、旅行サービスは大きく減少し、家具・寝具、書籍、理美容サービスは小幅な減少にとどまる。一方で医薬品関連、理美容サービスは増加する。主な品目の支出のピークは、食料が70~74歳、被服・靴が50~54歳、外食が40~44歳、旅行サービスが65~69歳、医療サービスが70~74歳である。団塊ジュニアや団塊の世代がこのピークを通過すると、これらの品目への下押し圧力が年々大きくなる。
03-3512-1778
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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