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「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2023年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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(1)仙台都心部で進む再開発
仙台市は、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」を2019年7月より始動した。具体的な施策として、「仙台市都心部建替え促進助成金制度の創設」や「高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和」、「仙台市市街地再開発事業補助金制度の拡充」等、が講じられている。
さらに、仙台市は、2020年10月に「せんだい都心再構築プロジェクト」に関する第2弾の施策を公表した。環境に最大限配慮した建築物(グリーンビルディング)の整備を誘導するほか、老朽建築物の建替えを推進する目的で、テナントの移転に支援制度を創設した。こうした施策の拡充に伴い、仙台中心部では複数の再開発計画が進展している。
同プロジェクトの助成制度を活用した第一号案件として、NTT都市開発は「アーバンネット仙台中央ビル」(延床面積約4.2万㎡・地上19階建て)を開発し、2023年11月に竣工予定である7(図表-18 ①)。続いて、ウッドライズキャピタル8は国分町1丁目に「ウッドライズ仙台」(延床面積1.0 万㎡・地上10階建て)を開発し、2023年11月に竣工予定である(図表-18 ②)。
また、東京建物は仙台駅前の南町通に「T-PLUS仙台」(延床面積1.4 万㎡・地上12階建て)を開発し、2024年1月に竣工予定9である(図表-18 ③)。鹿島建設は中央三丁目でオフィスと店舗からなる複合ビル(延床面積1.3万㎡・地上11階建て)を開発し、2025年3月の完成を目指している10(図表-18 ④)。
また、東日本興業(東北電力系の不動産管理会社)、戸田建設、明治安田生命保険、三菱地所等は、「電力ビル」中心とした一体開発を計画しており11、2023年5月に「せんだい都心再構築プロジェクト」の「グリーンビルディング」第1号案件に認定された12。同計画では、オフィスや音楽ホールが入居する高層複合ビル2棟(南棟:約180m・北棟約135m)等を開発し、2035年頃の竣工を目指すとしている13(図表-18 ⑤)。
さらに、仙台市はJR仙台駅西口の青葉通の一部区間を、屋外広場に整備することを検討している。この屋外広場の整備は、青葉通沿道の「GSビル跡地」や「旧さくら野百貨店仙台店」の再開発と連動して行う計画である16。
「GSビル跡地」では、隣接する商業施設「EDEN(エデン)」との一体的な再開発が検討されている(図表-19 ②)。ただし、「EDEN」を運営するオリックスの関連会社は、入居テナントとの契約期限を2022年1月末から2年間延長しており、再開発の始動は早くても2024年以降となる見通しである17。また、「旧さくら野百貨店仙台店」跡地では、「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが再開発を検討している(図表-19 ③)。オフィスビルとホテルの計2棟(総延床面積約11万㎡)を建築し、それぞれの低層階を商業施設でつなげる計画で、着工は2024年度、竣工は2027年度を目指すとのことである 18。
また、青葉区一番町の百貨店「藤崎本館」を含めた20棟程度の商業ビル(面積:約1.7ヘクタール)を建替えて、百貨店や商業施設のほか、オフィスビルやホテルなどを建設する計画19が検討されている(図表-19 ④)。
7 NTT都市開発株式会社 「仙台市青葉区中央における新築工事着工および計画建物名称「アーバンネット仙台中央ビル」決定について。」(2022年3月18日)
8 環境配慮型オフィスビルの開発を目的として、株式会社長谷工コーポレーション、株式会社日本政策投資銀行、七十七キャピタル株式会社、株式会社竹中工務店、みずほ不動産投資顧問株式会社が共同で組成した不動産私募ファンド。
9 東京建物株式会社 「「T-PLUS(ティープラス)仙台」着工~中規模オフィス「T-PLUS」シリーズ、全国展開本格化~」(2022年8月30日)
10 建設通信新聞「仙台中央三丁目開発/鹿島が11月着工」(2023年5月8日)
11日本経済新聞「「電力ビル」軸に一体開発へ 東北電力系など、仙台中心部で過去最大 音楽ホール・オフィス入居 高層複合ビルに」(2023年4月1日)
12 日本経済新聞「仙台市、電力ビル再開発を環境配慮ビル認定」(2023年5月23日)
14 日本経済新聞「ヨドバシ、仙台に複合ビル開業 家電量販店は東北最大級」(2023年5月29日)
15 国土交通省 「仙台駅東口地区に魅力や賑わいを創出する都市空間を形成~(仮称)ヨドバシ仙台第1ビル計画 整備事業を国土交通大臣が認定~」(2021年11月26日)
16 河北新報「「青葉通広場化」検討着手/仙台・あす協議会発足」(2021年5月31日)
17 河北新報「Re杜のまち 仙台/仙台「都心」 再生と進化 仙台市中心部で、高度経済成長期の1960年前後に造られた大型の商業ビルや公共施設が、老朽化による建て替えなどの課題に直面している。オフィスビルなどの建設が続くJR仙台駅東」(2023年5月9日)
18日本経済新聞 「東北経済特集―東北、力強く前へ、仙台駅前、再開発進む。」(2021年12月24日)
19日本経済新聞「百貨店の藤崎など建て替え、仙台市中心部で再開発」(2020年7月8日)
前述の新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2027年までの仙台のオフィス賃料を予測した(図表-21)。
新規供給に関して、2023年は複数の大規模ビルが竣工し約1.5万坪に達するが、2024年から2025年は一段落する見通しである。一方、仙台市の生産年齢人口は減少基調で推移しており、コロナ禍で悪化した東北地方の「企業の経営環境」と「雇用環境」についても本格回復に至っておらず、オフィスワーカーの大幅な増加は見込み難い状況にある。さらに、テレワークを採り入れた新たな働き方が情報通信業等を中心に定着するなか、ワークプレイスの見直しを検討する動きが仙台市でも広がる可能性がある。以上を鑑みると、仙台市のオフィス需要は力強さに欠けることが予想され、空室率は2023年の大量供給に伴い上昇した後、高止まりで推移すると予測する。
仙台のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い、緩やかに下落基調で推移する見通しである。2022年を100 とした場合、2023年の賃料は「99」、2027年の賃料は「96」への下落を予想する。ただし、ピーク(2019年)対比で▲7%下落するものの、2018 年の賃料水準「93」を上回る水準であり、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年07月19日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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