コラム
2023年07月14日

マイナンバーカード紛失時に知っておくべきリスクと対処法-芋づる式に情報は抜き出されるのか

総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔

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3.1|(3)ICチップ マイナンバーカードの表裏面とほぼ同じ個人情報しか入っていない
マイナンバーカードを紛失して(3)ICチップを読み取られた場合も、更なる情報漏洩に繋がる可能性は低い。表裏面に既に記載されている情報を除き、プライバシー性の高い情報はICチップには入っていないからだ。ICチップは、以下の4つのアプリケーション(以下、AP)と、空き領域で構成されている(図表4)。
(図表4)マイナンバーカードのICチップの仕組み
1) JPKI-AP:オンラインの本人確認や行政手続で、なりすましやデータ改ざんがないことを証明するAP
2) 券面事項確認AP:マイナンバーカードの偽装・改ざんの有無を確認するためのAP
3) 券面事項入力補助AP:手続の際、個人番号や基本4情報のテキストデータを利用するためのAP
4) 住基AP:住基ネット関係事務の際、住民票コードのテキストデータを利用するためのAP

AP内には、表裏面記載情報以外にプライバシー性の高い個人情報は含まれていない。また、総務省によれば、ICチップから情報を抜き出そうとすると、ICチップが自動的に破損する仕組みとなっていることを踏まえると、個人情報が漏洩する可能性は低いと言える。
3.2|(3)ICチップ マイナンバーカードとパスワードが同時に漏れると危険がある
JPKI-APを用いれば、例えばマイナポータルへのログインやパスポートの更新手続など、本人確認を要する手続をオンライン上で行うことが可能だ。こうした仕組みはマイナンバーカードの読取とパスワードの入力を求めることで、アクセス者の本人性や申請の真正性を担保している。このように利便性が高まる反面、第三者にマイナンバーカードとパスワードが同時に漏洩すれば、第三者がオンライン上でなりすましをすることが可能だ。例えば、マイナポータルに不正にログインされれば、図表5のような個人情報を取得される恐れがある。

マイナンバーカードには4種類のパスワードがあり、うちマイナポータルへのログインや行政手続に用いるのは、利用者証明用電子証明書13のパスワード(数字4桁、主にログインに利用)と署名用電子証明書14のパスワード(英数字6から16桁、主に行政手続に利用)の2つだ。不正使用防止のため、前者は3回連続で、後者は5回連続で誤入力をするとロックされる。しかし、生年月日など推測が容易なパスワードでは、パスワードを突破され、なりすまし被害にあう恐れがある。パスワードはなるべくユニークに設定し、既に推測容易なパスワードを設定している場合は、役所での変更手続を強く推奨する。
(図表5)マイナポータルで取得できる主な個人情報
 
13 住民票のコンビニ交付やマイナポータルのログインなど、「ログインした者が、利用者本人であること」を証明する証明書.
公的個人認証サービスによる電子証明書. 総務省HP.
14 e-taxでの電子申告やパスポートの更新手続などに用いる、「作成・送信した電子文書が、利用者が作成した真正なものであり、利用者が送信したものであること」を証明する証明書。 . 公的個人認証サービスによる電子証明書. 総務省HP.

4――紛失したら、機能停止と番号変更の手続を行うべき

マイナンバーカードを紛失し、情報漏洩の可能性が認められる場合は、速やかに機能を停止して、マイナンバーの変更することが重要だ。マイナンバーが漏洩し、不正に用いられる恐れがある場合、マイナンバーの変更手続を行うことができる。具体的には、以下の2ステップを踏むことになる。
 
1) マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)に連絡し、機能の停止手続を行う
2) 警察に遺失届を提出後、受理証・受理番号などを持って役所に行き、再交付・番号変更手続を行う

5――おわりに

マイナンバーカード単体を紛失した場合、対面でのなりすましや更なる情報漏洩に繋がる可能性がある。ただし、その多くが、既存の公的証明書でも起こりうるリスクでもあり、マイナンバーカードの紛失リスクが特別に高いとまでは言えないだろう。ただし、マイナンバーカードとAPのパスワードが同時に漏洩すれば、芋づる式に情報が漏洩する可能性がある。また、想定外の事態がないとも言い切れない。紛失時は、速やかな機能停止・番号変更手続が推奨される。

このように、マイナンバーカードが他の顔写真付き公的証明書と決定的に異なるのはパスワードの重要性だ。漏洩が被害に繋がる、紛失時の対応方法という意味では、クレジットカードやキャッシュカードに似ているようにも思える。マイナンバーカードを携行するならば、これらのカードと同じように、大切に、だが過度に恐れず管理するのが良いのではないか。

他方、マイナ保険証が他人の情報と紐づけられるなど、マイナンバー制度の信頼を損なう事態が続いている。利便性が向上したとしても、国民からの信頼なしには、無用の長物となりかねない。マイナンバーカードの携行・利用増が見込まれるから今だからこそ、一層丁寧な対応を期待したい。

【参考文献】
水町雅子.やさしい番号法入門.商事法務.2014-02-10.第1版
水町雅子.あなたのマイナンバーへの疑問に答えます.中央経済社.2015-09-20.第1版
 
 

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総合政策研究部   研究員

河岸 秀叔 (かわぎし しゅうじ)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年 日本生命保険相互会社入社
     2022年 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年07月14日「研究員の眼」)

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