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健康状態に差支えがあっても週1回以上運転する高齢者は推計約300万人~免許保有している/していた高齢者の約2割は運転を引退済

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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5――健康状態が悪くても定期的に運転している高齢者数の試算
具体的には、3で判明した、高齢者のうち客観的健康状態が「差し支えあり」または「大いに差し支えあり」の割合と、4で判明した、それらのグループで、週1回以上運転する人(「ほとんど毎日」、「週に2、3回」、「週に1回くらい」の合計)の割合と、高齢者人口の積を、男女別に求めた。高齢者人口の数値には、総務省「人口推計」の最新結果である6月1日現在の概算値を用いた。
試算の結果、客観的健康状態が悪くても週1回以上、運転している高齢男性は約225万人、高齢女性は約46万人で、男女を合わせると約271万人となった(図表15)。つまり、健康状態が相当程度、悪化した後でも、定期的に運転を続けている高齢者は、全国に男女合わせて約300万人いることが分かった。これらの高齢者は、IADLに低下が見られるなどしており、健康な高齢者に比べて、交通事故を起こすリスクが高いと予想される。
ただし、この試算で用いた「客観的健康状態」の指標は、本人の全般的な生活機能を測る指標であって、運転能力に特化したものではない。そのため、「客観的健康状態」に差支えがなくても、例えば動体視力の低下によって、交差点の右左折時に歩行者や自転車に気づくのが遅れ、衝突を回避できないなど、運転に適していない高齢者がいる可能性はある。つまり、試算した規模よりも、健康面の衰えによって交通事故リスクが高い高齢者の人数は多い可能性がある。
6――終わりに
従ってまずは、現実に交通事故リスクが高い高齢者がどれぐらいいるのか、どの地方や、何の職業で運転する人が多く、何の目的でどれぐらいの頻度で運転しているのかなど、よりリスクが高い層を見つけ出すことが必要だろう。その上で、優先順位をつけて移動サービスを整備したり、生活支援の在り方を検討したりするなどの対策を打っていくことが求められるだろう。
そのような観点では、本稿の分析によって、まず現在の高齢者のうち、運転免許の保有/非保有に関わらず、運転習慣がある高齢者の割合を定量的に示したこと、運転免許自主返納や非更新による失効により、既に運転を卒業した高齢者の割合を示したこと、性別や年齢階級、居住地域、職業、健康状態など、様々な属性による運転習慣の違いや運転頻度の違いまで分析したことは、高齢者の運転実態の一端を明らかにし、意味があるだろう。さらには、健康状態が悪化したまま定期的に運転を続ける高齢者が、全国で約300万人に上ると推計したことは、交通事故リスクが現実に迫る高齢者の規模感を端的に表し、早急に対策が必要であることを、改めて示した。
さらに、全国の高齢者人口が現在も増え続けていることや、2で述べたように、運転免許保有人口の多い団塊世代が順次、後期高齢者に突入していることを考えると、高齢者の運転による交通事故リスクは今後、さらに上昇する可能性がある。
今後は、本稿の分析で示唆した内容を参考に、より事故リスクが高いと見られる高齢者をターゲットに、優先的に、マイカーに代わる移動手段の整備を急ぐと同時に、すぐに代替移動手段を提供できない高齢者に対しては、例えば、運転は、車が欠かせない農作業等の用途や昼間の時間帯、交通量が少ないエリアなどに限定してもらい、それ以外の移動にはボランティア送迎を利用できるように、地区におけるボランティア活動を支援したり、知り合いとの相乗りを推奨したりするなど、免許を保有している間にも、交通事故リスクをできるだけ抑えるような仕組みを考えていく必要があるだろう。また、高齢者の年齢階級や健康状態によって、リスクが低い高齢者には運転のトレーニングをし、リスクの高い高齢者には、必要なモノやサービスを自宅に届けるようにするなど、高齢者の状態に合わせて、様々なアプローチを検討していくべきではないだろうか。
(謝辞)貴重なデータを提供して頂いた公益財団法人「生命保険文化センター」(以下、文化センター)に感謝申し上げたい。
(2023年07月13日「基礎研レポート」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
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