2023年07月13日

健康状態に差支えがあっても週1回以上運転する高齢者は推計約300万人~免許保有している/していた高齢者の約2割は運転を引退済

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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3――高齢者の健康状態

本稿で高齢者の運転状況について分析していく前に、まず高齢者の健康状態についてみておきたい。文化センターの調査では、回答者の健康状態を客観的に把握するために、「老研式活動能力指標」を基にした設問を設けている。この指標は、買い物や食事の準備などの家事から、交通機関の利用、金銭管理、家族や友達の相談に乗るといったことまで、高齢者の生活機能を幅広く測ることで、IADL(手段的日常生活動作能力)と知的能動性、社会的役割について評価するものである。

具体的には、調査の中で「バスや電車を使って一人で外出できますか」「日用品の買い物ができますか」「お湯をわかせますか」「請求書の支払いができますか」「銀行預金・郵便貯金の出し入れができますか」など、生活機能を測る15の設問を用意し、「いいえ」の回答がひとつもなかった場合に、客観的健康状態を「差し支えなし」、「いいえ」が1~2個あった場合に「ほんの少し差し支えあり」、「いいえ」が3~5個あった場合に「差し支えあり」、「いいえ」が6個以上だった場合に「大いに差し支えあり」と分類した4。本稿でも、この分類を踏襲して論じる。

高齢者の男女別の健康状態を4分類に分けて分析すると、内訳は図表5のようになった。まず男性では、「差し支え無し」(35.1%)と「ほんの少し差し支えあり」(36.2%)が拮抗した。続いて「差し支えあり」が21.7%、「大いに差し支えあり」が7.0%となっている。女性の場合は、「差し支えなし」が半数の50.1%を占め、男性よりも10ポイント以上高かった。次いで、「ほんの少し差し支えあり」が28.5%、「差し支えあり」が14.7%、「大いに差し支えあり」が6.7%となっていた。女性の方が、客観的健康状態が良い人が多いことが分かった。
図表5 性別にみた客観的健康状態の分布
次に、性・年齢階級別に分布をみたものが図表6である。男女いずれも、「差し支え無し」と「ほんの少し差し支えあり」の割合は、年齢階級が上がるごとに概ね小さくなり、「差し支えあり」と「大いに差し支えあり」の割合は、年齢階級が上がるごとに概ね大きくなる傾向が見られた。男性では、「70~74歳」を除き、「差し支えなし」の割合は全体より小さかった。女性では、「75~79歳」以下は「差し支えなし」との回答が全体に比べて高かったが、「85~89歳」は、「差し支えあり」と「大いに差し支えあり」が全体に比べて高かった。また、Nが小さいため参考値であるが、男性の「90歳以上」では「大いに差し支えあり」が33.3%、女性の「90%以上」では72.7%と大きな差があった。男性は女性よりも平均寿命は短いが、先行研究では、約1割は90歳前後になっても高い心身機能を保つことが分かっており、それと合致する内容だと言える5
図表6 性・年齢階級別にみた客観的健康状態の分布
 
4 他の設問は「年金などの書類が書けますか」、「新聞を読んでいますか」、「本や雑誌を読んでいますか」、「健康についての記事や番組に興味がありますか」、「友達の家を訪ねることがありますか」、「家族や友達の相談にのることがありますか」、「病人を見舞うことができますか」、「若い人に自分から話しかけることがありますか」、「一人で電話をかけられますか」、「一人で薬を服用できますか」。
5 坊美生子(2022)「高齢化と移動課題(上)~現状分析編~」(基礎研レポート)

4――高齢者の運転状況

4――高齢者の運転状況

1|運転習慣
(1)運転習慣の有無
ここからは高齢者の具体的な運転の状況についてみていきたい。まず、運転習慣(運転するかしないか)について尋ねると、全体では「運転する」が50.6%、「運転しない」が48.7%と拮抗していた(図表7)。「運転しない」には、運転免許を持っていない人だけでなく、運転免許を持っていても実際には運転しない人なども含まれる。性別にみると、男性では「運転する」と「運転しない」が7対3、女性では4対6で、高齢層の男女では運転習慣に大きな差があった。
図表7 高齢者の運転習慣(N=1730)
(2)運転しない理由
1) 性別にみた「運転しない理由」
運転習慣の設問で「運転しない」と回答した人に対して、その理由を尋ねた結果が図表8である。性別にみると、まず男性は「運転免許証を持っていたが、自主返納したから」が約4割(40.9%)を占めてトップだった。次いで、「もともと運転免許証を持っていないから」が24.8%、「運転免許証は持っているが、運転する習慣がないから」は12.8%、「運転免許証を持っていたが、更新せず失効したから」が10.7%だった。自主返納と非更新による失効を合わせると、現在運転していない高齢男性の約半数が、かつては運転していたが、引退した層であることが分かった。なお、調査時点の2020年は、改正道交法による運転技能検査が始まっていないため、選択肢も設けられていない。

これに対して、女性は「もともと運転免許証を持っていないから」が約7割(66.7%)と大多数を占めた。次いで、「運転免許証を持っていたが、自主返納したから」が16.3%、「運転免許証は持っているが、運転する習慣がないから」が7.7%、「運転免許証を持っていたが、更新せず失効したから」が4.7%だった。高齢女性では、自主返納と非更新による失効を合わせた運転引退層は約2割だった。
図表8 性別にみた「運転しない理由」 (N=843)
2) 年齢階級別にみた「運転しない理由」
次に、運転習慣がない人の「運転しない理由」を年齢階級別にみると、「運転免許証を持っていたが、自主返納したから」は、年齢階級が上がるほど大きかった。「65~69歳」では1割未満だったが、「70~74歳」になると約2割に上昇し、「75~79歳」以上の年齢階級ではいずれも約3割となった。「もともと運転免許証を持っていないから」も概ね、年齢階級が上がるほど大きくなる傾向が見られた。なお、調査時点では、75歳以上を対象とする認知機能検査は導入済であったが、75歳以上の年齢階級において、検査を避けて非更新の割合が上がる、というような状況は見られなかった。
図表9 年齢階級別にみた「運転しない理由」 (N=843) 
3) 運転免許を保有している / していた高齢者のうち運転引退済は約2割
ここで、運転免許を保有している人と、かつて保有していた人の和を求め、うちどれぐらいの割合が運転を引退したかを計算すると、男性では16%、女性では24.3%となった。運転免許を保有している、または保有していた高齢者のうち、男女いずれも約2割が自主返納や非更新によって、既に運転を引退したと考えれば、高齢者の交通事故リスクに対する理解は一定程度、深まり、高齢者に「運転をやめる」という判断が広がってきたと言えるのではないだろうか。

因みに、当調査によると、高齢者のうち運転免許を保有していることが確実な人の割合(運転習慣の設問で「運転する」と回答した人と、「運転しない」と回答したうち、その理由を「運転免許証は持っているが、運転する習慣がないから」と回答した人の合計)は、男性では73.1%、女性では39.6%である。一方、警察庁の令和2年運転免許統計と、令和2年国勢調査から、当調査の実施時期と同じ2022年に、運転免許を保有する65歳以上の割合を推計すると、男性が75.1%、女性が37.8%となり、極めて近い。従って、当調査の運転免許保有状況に関する回答には、偏りはないと考えられる。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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