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大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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4――大学卒女性の生涯賃金の推計結果~正社員で2人出産・育休・時短利用で2億円超、男性並みの賃金水準なら3億円超
大学卒の女性が60歳で退職した場合について働き方ケース別に生涯賃金を推計した結果を示す(図表10)。女性が大学卒業後に直ちに就職し、同一企業等で休職することなく働き続けた場合(ケースA)の生涯賃金は2億5,570万円となる。なお、参考までに、同様の形で働き続けた男性では2億9,492万円となる(女性より+3,922万円)。
一方、2人の子を出産し、それぞれ産前産後休業制度と育児休業制度を合計1年間(2人分で合計2年間)利用し、フルタイムで復職した場合(A-A)の生涯賃金は2億2,985万円、復職時に時間短縮勤務制度を利用し、子が3歳まで時短勤務を利用した場合(A-T1)は2億2,057万円、小学校入学前まで利用した場合(A-T2)は2億1,233万円となる10。つまり、2人の子を出産し、それぞれ産休・育休を1年取得し、復職後には時短勤務を利用したとしても、生涯賃金は2億円を超えることになる。ただし、本稿における推計では、育休から復職後は、すみやかに休業以前の状況に戻ることを想定しているが、実際には仕事と家庭の両立負担は大きく、職場と家庭双方の両立支援環境が充実していなければ、休職前と同様に働くことは難しいだろう。また、人事評価上の問題(休職期間が生じることが実質的には不利になる可能性など)や、周囲や本人の意識の問題(本人の希望によらず負担の少ない仕事を与えられる、あるいは本人の仕事と家庭に対する優先順位の変化など)などもあるだろう。一方で冒頭に示した女性の職業生活に関わる状況の改善傾向をかんがみれば、すみやかな復職を希望する場合は、それを実現しやすい環境が拡大していることを今後とも期待したい。
なお、出産前後で退職せずに就業継続した場合のA-AやA-T1・T2と、退職してパートで再就職するA-R-Pの生涯賃金を比べると1億5千万円前後の差が生じることになる。この金額差は、女性本人の収入として見ても、世帯収入として見ても、多大であることは言うまでもなく、配偶者の収入や資産の相続状況にもよるが、住居や自家用車の購入、子供の教育費等の高額支出を要する消費行動に影響を与える。当然ながら、個人消費全体にも影響を及ぼす。
また、女性が大学卒業後に直ちに就職し、正規雇用ではなく、非正規雇用の職に就き、休職することなく働き続けた場合(B)の生涯賃金は1億1,742万円であり、同一企業で働き続ける正規雇用者(A)の半分以下となる(△1億3,828万円、△54.1%)。また、正規雇用者と比べて賃金水準が低いために、産休・育休を2回利用して復帰した場合(B-B)でも生涯賃金は1億1,353万円(Bより△389万円)であり、休職せず働き続けた場合と大きくは変わらない。現在、「同一労働・同一賃金」として同一企業等における正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇差の解消が進められているが、賃金水準の問題だけでなく、非正規雇用者では退職金がない場合も多いため(本稿では非正規雇用者については退職金を設定せずに生涯賃金を推計)、正規雇用者と比べると生涯賃金に大きなひらきが生じている。
なお、参考のため、図表11にケース別に各歳別賃金の推移(退職金を含まない)を示す。ケース別に賃金の経年変化を見ると、どこでマイナスが生じ、どのあたりから追いつくのか、あるいは、差がひらいてしまうのかなどをイメージしやすいだろう。
10 なお、本稿と同条件で2015年の大学卒女性の生涯賃金を推計すると、ケースAは2億5,816万円、A-Aは2億3,008万円、でおおむね同様である。
5――おわりに~安心して働き続けられる環境を整備し、将来世代の経済基盤の強化を
(2023年07月10日「ニッセイ基礎研所報」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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