2023年07月04日

コロナ禍を経たオフィス市況の現状-新規供給が増加するなかでオフィス需要が伸び悩み

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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4――地方主要都市も東京と同じ構図へ:堅調だった地方主要都市にも逆風が強まる

今後、地方主要都市においても、東京と同様に、新築オフィスビルの供給が増加する。コロナ禍における新規供給は、天神ビッグバンなどの建て替え促進策により供給量が急増した福岡を除き、全ての地方主要都市で、過去10年平均並みの水準となった(図9)。過去10年平均は2010年から2019年を対象とし、地方主要都市では世界金融危機の傷跡が残り、供給が抑制された時期にあたる。そのため、コロナ禍における供給量は総じて少なかったと言える。しかし、今後は大量供給が続く福岡に加えて、札幌や仙台、大阪においても供給増加が予想されている。
図9 国内主要都市の新規供給(ストック対比)
一部の地方主要都市では、東京と同様に、オフィス需要が低迷している。2020年から2021年のネットアブソープションは、福岡を除くすべての都市で過去10年平均を大きく下回り、2022年は大阪と仙台ではオフィス需要の回復が見られたものの、札幌と名古屋では依然としてオフィス需要が弱い状態が続いている4(図10)。

地方主要都市における在宅勤務のオフィス市場への影響は、東京に比べ、比較的小さいとの見方が一般的である5。実際、地方主要都市では、在宅勤務の導入に伴い解約や縮小移転は目立たなかった。しかしながら、低調なネットアブソープションは、一部の地方主要都市においても、在宅勤務の定着がオフィス需要の増加を抑制する要因として一定の影響を及ぼしていることが示唆される。
図10 国内主要都市のネットアブソープション(ストック対比)
 
4 新築オフィスビルの供給は、需要を喚起し、ネットアブソープションを押し上げる傾向があるため、2022年に福岡と大阪でオフィス需要が強かった要員として供給が多かったことが挙げられる。
5 東京と地方主要都市のオフィス出社率の動向については、以下参照。
佐久間誠・松尾和史・堤盛人(2023)「コロナ禍におけるオフィス出社動向-携帯位置情報データによるオフィス出社率の分析」(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所、2023年5月25日)

5――今後の注目点:

5――今後の注目点:ハイブリッドな働き方とそのなかでのオフィス需要

コロナ禍を経て、在宅勤務とオフィス出社を組み合わせた、ハイブリッドな働き方が定着した。2023年5月8日に、政府が新型コロナウイルス感染症を「5類感染症」へ引き下げたにも関わらず、東京のオフィス出社率は70%程度で安定し、顕著な上昇傾向は見られない6(図11)。

それでは、このハイブリッドな働き方の下で、今後どれほどのオフィス需要が見込めるのだろうか。東京と地方主要都市のネットアブソープションの低調な推移は、在宅勤務の普及がオフィス需要の増加を抑制している可能性を示している。実際、新規供給の少ない都市ではオフィス市況が底堅く推移した一方、新規供給が比較的多かった都市では需給バランスが悪化している。具体的には、2020年後半から2021年前半にかけての東京では、2020年の供給に伴う二次空室が埋まらず、空室率が上昇した。また、2023年のみなとみらいでは新規供給が十分に埋まらず、空室率が上昇している。

今後は、東京をはじめ多くの主要都市で新規供給が増加する見通しである。その供給をどれほど吸収できるかは、ハイブリッドな働き方の下でどれほどオフィス需要を見込めるのかの重要な試金石となるだろう。
図11 東京のオフィス出社率指数と新規感染者数
 
6 感染症法上の位置づけ。「5類感染症」は季節性インフルエンザと同等である。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年07月04日「不動産投資レポート」)

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