2023年06月06日

物価高の高齢者への影響~食料や光熱費の値上げが家計圧迫。今後の消費のキーワードは「良いものを長く使う」と「健康」

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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2-4| 値上げに対する考え方
次に、値上げに関し、メーカーなどへの要望や、政府や自治体の対応についての考え方を尋ねて(複数回答)、「そう思う」と「ややそう思う」の合計が多い順に並べたものが図表6である。

まず、選択肢のうち大部分について、高齢者は全体に比べて「そう思う」「ややそう思う」と回答した比率が有意に高く、値上げに関する意見や要望が強いことが分かった。2-1|で述べたように、高齢者は値上げを実感している人の割合が高く、値上げに対してより敏感になっていると言える。

具体的な結果を見ると、トップが「今後、製造コストが下がった際は、きちんと値下げをして欲しい」(91.1%)だった他、「企業の不当な値上げや売り惜しみの監視が必要だ」(81.8%)、「値上げの際は、時期や理由などを十分に説明して欲しい」(79.2%)、「適切にコスト増を価格転嫁できているかの監視が必要だ」(78.4%)、「行政側からも企業の商品やサービスの値上げに関わる情報の提供が必要だ」(75.4%)など、値上げに関して企業側に説明責任や情報提供を求めたり、第三者に監視や管理を求めたりする項目が、軒並み8~9割と選択割合が高かった。

一方で、「品質は多少落ちても良いので、値上げはしないで欲しい」(25%)は選択割合が小さいことなどから、コスト高を背景とする値上げの動き自体は「やむなし」と捉えているものの、妥当な範囲と適切な方法で実施されるように求めている高齢者が多いことが伺える。

それと同時に、政府などによる家計への支援策への要望も多かった。最も選択割合が大きかったのは「電気代やガス代などの価格を抑制するような取り組みが必要だ」(84.0%)だった。2-2|で述べたように、光熱費の高騰は高齢層には強い圧迫となっていることを再び示す結果となった。6月からは、東京電力など大手7社が一部の電気料金引き上げを実施しており5、このような要望が一層、強まると予想される。

また、「公的年金は物価上昇を吸収できる水準への引き上げが必要だ」も74%となり、年金収入の増額への要望も強かった。その他、「所得税控除枠の拡大など、税制改正による負担軽減策の検討が必要だ」(71.8%)、「生活困窮世帯だけでなく一般世帯にも給付金が必要だ」(61.6%)も過半数に上った。「子育て世帯には優先的に給付金が必要だ」(51.5%)は全体(42.6%)よりも有意に高く、高齢者が子育て支援や少子化対策への意識が高いことも分かった。
図表6 値上げについての考え(複数選択)
 
5 読売新聞2023年6月1日。
2-5| 商品・サービスを選ぶ上で優先すること
このような物価高の状況で、高齢者が今後1年間に、商品やサービスを選ぶ上で優先することを尋ね(複数選択)、選択割合が多い順に並べたものが図表7である。

歴史的な物価高の状況で、20~64歳の非高齢者では「価格の安さ」(49.1%)がトップだったのに対し、高齢者においてはトップ2が「信頼性・安全性の高さ」(64.3%)と「長く使えること」(60.5%)となった他、「質の高さ」も約5割に上るなど、商品・サービスへの「質」を優先する意識が上回った。質が良くてしっかりしたものを選び、長く使った方が、長い目で見ると得だ、というような考え方が伺える。言ってみれば、消費に対する時間軸が若年・中年層よりも長いと言える。逆に言うと、モノを買い替える頻度が若年・中年層に比べて低いと見ることもできるだろう。

一方で、商品・サービスを選択する上で優先することとして、「価格の安さ」も過半数が選択しており、現時点における家計への影響をなるべく抑えようという意識も伺える。

また、「健康に良いものであること」も半数(48.7%)に上り、非高齢者(22.5%)より20ポイント以上高かった。「地球環境や持続可能性への配慮があること」(21.2%)も非高齢者(8%)より高く、節電に関する筆者の既出レポート6で述べたことと同様に、高齢層の方が環境意識が高いことを示していた。
図表7 商品・サービスを選択する上で優先すること(複数選択)
 
6 坊美生子(2023)「消費者の節電意識と行動~高齢層ほど熱心、若年層の方が消極的」(基礎研レポート)

3――終わりに

3――終わりに

冒頭に述べたように、今春から、事前の予想を上回る企業の賃上げが次々と伝えられ、注目を集めている。現役世代の中には、物価高の影響が吸収される世帯も多いのではないだろうか。勿論、非正規雇用や中小・零細企業で働く人の中には、企業側から賃上げ回答を得られていない人もいると思うが、この後、厚生労働省の審議会で最低賃金が引き上げられる可能性はある。一方、高齢者のうち勤労収入が無い世帯にとっては、今年度の年金の引き上げ幅が物価上昇幅を下回っているため、4月以降も家計への影響が続いていると見られる。報道では、物価高で生活が圧迫されて、多くの高齢者が職探しに乗り出しているという事例も伝えられているが7 、健康状態が悪ければ、それができないという高齢者も多いのではないだろうか。

本稿で述べてきた物価高の高齢者への影響をまとめると、高齢者の方が、64歳以下の非高齢者に比べて、物価高の影響がより大きく、特に食料価格や光熱費の上昇が圧迫要因となっている。高齢者世帯では、もともと生鮮食品や光熱費への支出割合が大きいため、このような品目の値上げが暮らしを直撃していると言える。防衛策としては、節電や買い控え等の節約に加えて、ものを長く使うなど、長い目で見て出費を抑える姿勢が伺えた。貯蓄の取り崩しも1割を超えた。

値上げの動きについては、それ自体に反対というよりは、値上げが妥当な範囲かつ適切な方法で行われるように、企業や第三者に説明責任や監視を求める声が大きかった。コスト高を背景とする値上げについては、「やむなし」という意識が芽生えている一方で、家計の負担増は事実であるため、負担軽減のために、光熱費を抑制する取り組みなどの家計支援策を求めていると見られる。年金引き上げが物価高に追い付かない現状では、今後も高齢者の暮らしの実態を注視していく必要があるだろう。

このような状況で、高齢者にどのような商品・サービスが受け入れられるかというと、高齢者は、購入時の価格以上に、信頼性や安全性、耐久性など「質」への優先意識が強い。「良いものを長く使う」ことによって余計な出費を抑えるというような、長い目で見た「賢い消費」を心がけている姿勢が伺える。若年・中年層に比べて長い時間軸で消費行動を判断していると言える。また、老化していく中で、健康に良いものは、優先度が高いことも改めて分かった。高齢者市場においては、このような意識に応えていくことが重要だろう。
 
7 北海道新聞2023年5月29日朝刊。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年06月06日「基礎研レポート」)

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