2023年06月05日

米雇用統計(23年5月)-雇用者数が市場予想を大幅に上回る一方、失業率が市場予想を上回る上昇とまちまちの結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率も市場予想を上回る

6月2日、米国労働統計局(BLS)は5月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+33.9万人の増加1(前月改定値:+29.4万人)と+25.3万人から上方修正された前月を上回ったほか、市場予想の+19.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.4%、市場予想:3.5%)と前月から+0.3%ポイント上昇したほか、市場予想も上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.6%、市場予想:62.6%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:非農業部門雇用者数と、家計調査の就業者数で対照的な動き

5月の非農業部門雇用者数は市場予想を大幅に上回ったほか、後述するように過去2ヵ月分も合計で+9.3万人の大幅な上方修正となった。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+28.3万人増と年初からの月間平均増加ペースの+31.4万人増からは鈍化したものの、非常に緩やかな鈍化に留まっており、引き続き雇用者数の堅調な増加が持続していることを確認する結果となった。

一方、家計調査では後述するように就業者数が前月比▲31.0万人減少したことが大きく、非農業部門雇用者数の増加とは対照的な動きとなっている。これらの乖離の要因としては、家計調査のサンプル数が6万世帯と非農業部門雇用者数などの事業所調査の14.4万社に比べて小さいため毎月の誤差が大きいことや、非農業部門雇用者数には含まれない自営業者の就業者数が5月は前月比▲36.9万人減少したことなどが大きいとみられる。このため、家計調査は就業者数をやや過少評価している可能性があろう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.3%)と+0.5%から下方修正された前月を下回った一方、市場予想に一致した。前年同月比では+4.3%(前月:+4.4%、市場予想:+4.4%)とこちらは前月、市場予想を下回った(図表1)。

このようにみると、5月の雇用統計は失業率が上昇したものの、賃金上昇率の低下は緩やかなほか、非農業部門雇用者数は堅調に増加するなど引き続き労働市場の回復が持続していることを確認する結果と言えよう。このため、6月のFOMC会合では政策金利が据え置かれるとの見方が未だ強いものの、来週発表される消費者物価の結果次第では据え置きと追加利上げの間で難しい判断を迫られよう。

3.事業所調査の詳細:民間サービス部門、政府部門で雇用の伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+25.7万人(前月:+22.5万人)と前月から雇用の伸びは加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、情報が前月比▲0.9万人(前月:+0.1万人)と前月から減少したものの、専門・ビジネスサービスが+6.4万人(前月:+6.5万人)、小売業が+1.2万人(前月:+1.0万人)と概ね前月並みの伸びを維持した。また、娯楽・宿泊業が+4.8万人(前月:+3.0万人)、医療・社会扶助サービスが+7.5万人(前月:+6.9万人)、運輸・倉庫が+2.4万人(前月:+0.4万人)と前月から伸びが加速し、全体を押し上げた。

財生産部門は前月比+2.6万人(前月:+2.8万人)と前月から伸びが鈍化した。建設業が+2.5万人(前月:+1.3万人)と伸びが加速したものの、製造業が▲0.2万人(前月:+1.0万人)と減少した。

政府部門は前月比+5.6万人(前月:+4.1万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.7万人(前月:+0.5万人)、州・地方政府が+4.9万人(前月:+3.6万人)といずれも伸びが加速した。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増加数(改定値)は前月が+29.4万人(改定前:+25.3万人)と+4.1万人上方修正されたほか、前々月が+21.7万人(改定前:+16.5万人)と+5.2万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+9.3万人の大幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って6月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+27.8万人(前月改定値:+29.1万人、市場予想:+17.0万人)と+29.6万人から小幅下方修正された前月を下回った一方、市場予想を大幅に上回った。この結果、ADP社の統計は前月から伸びが加速した雇用統計とは異なる動きとなったものの、堅調な伸びが持続している点で雇用統計と整合的であった。

5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が33.44ドル(前月:33.33ドル)となり、前月から+11セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,146.99ドル(前月:1,146.55ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は3ヵ月連続横這い

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で+13.0万人(前月:▲4.3万人)と前月から増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が▲31.0万人(前月:+13.9万人)と前月から大幅な減少に転じた一方、失業者数が+44.0万人(前月:▲18.2万人)と就業者数の減少幅を上回る増加に転じて全体を押し上げた。非労働力人口は+4.5万人(前月:+21.4万人)と小幅ながら2ヵ月連続の増加となった。これらの結果、労働参加率は62.6%と3ヵ月連続の横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率5月が83.4%(前月:83.3%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が89.1%(前月:89.2%)と前月から▲0.1%ポイント低下した一方、女性が77.6%(前月:77.5%)と+0.1%ポイント上昇して全体を押し上げた。

失業率は22年10月以来の水準に上昇したものの、依然として水準は低く、労働需給が逼迫している状況に大きな変化はない。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は118.8万人(前月:115.6万人)と前月から+3.2万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.8%(前月:20.6%)と前月から▲0.8%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は21.2週(前月:20.9週)と前月から+0.3週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(150.8万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(373.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、5月が6.7%(前月:6.6%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.0%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から▲0.2%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年06月05日「経済・金融フラッシュ」)

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