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「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2023年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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愛知県「労働条件・労働福祉実態調査」によれば、愛知県におけるテレワーク導入率は2020年の17.1%から2022年の24.0%へと増加した。産業別では、「情報通信業(88.2%)」や「卸売業、小売業(33.1%)」、「金融業、保険業(26.7%)」において高い傾向にある(図表-15)。
また、公益財団法人 名古屋まちづくり公社 名古屋都市センターの調査によれば、「コロナ収束後のオフィスへの理想出社日数」として、テレワークを週1日以上実施している就業者のほとんどがコロナ収束後においてもテレワークを取り入れた働き方を希望している(図表-16)。家族との時間が増えた等のメリットから、テレワークを中心とした働き方を希望する人が増えているようだ。
名古屋市は、リニア中央新幹線の名古屋駅開業を見据えて、高機能オフィス等の開発を誘導する目的で「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」の運用を2020年10月より開始した。基準に適合する建築物の容積率は、名古屋駅東口周辺と栄駅周辺部では1,300%に、伏見駅周辺は1,100%に引き上げられる(図表-18)。
前述の通り、「名駅地区」はオフィス面積全体の約4 割、「栄地区」は約3割を占める。現在、両エリアでは、上記の制度等を活用した大規模開発計画が複数進行中であり、オフィス市場における存在感がさらに高まる見通しである。以下では、「名駅地区」と「栄地区」のオフィス開発計画を概観する。

「名駅地区」では、中村区名駅4丁目で、名古屋鉄道などが出資するオー・ティー・ワン特定目的会社が地上16階建ての「エニシオ名駅」(延床面積約2万㎡)を開発中で、2023年8月に竣工予定である(図表-19 ①)。
また、中村区名駅3丁目で、三重交通グループホールディングスが地上16階建ての「第2名古屋三交ビル」(延床面積約2万㎡)を開発中で、2024年1月に竣工予定である(図表-19 ②)。
名古屋鉄道は、名古屋駅機能の整備と駅周辺地区の再開発(「名鉄名古屋駅地区再開発事業」)を計画している(図表-19 ③)。駅機能の整備は2030年頃を目途に完了させたい意向を示すが、新型コロナウィルス感染拡大に伴うテナント需要を見極めるため、当初の予定を延期して2024年度を目途に計画内容を決定する方針としている6。
6 中部経済新聞「名鉄、名駅再開発30年完成へ 高崎社長 駅機能整備を優先 東区に最高級マンションも」2021/6/26
「栄地区」では、中区栄4丁目で、中部日本ビルディングが地上 33 階建てのオフィス、ホテル、多目的ホール等で構成する「中日ビル」(延床面積約11.7万m2)を開発中で、2023年7月に竣工予定である(図表-20 ①)。
また、市有地の「栄広場」と隣接エリアを合わせた地区(錦三丁目25番街区)で、三菱地所、パルコ、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社の5社は「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」を活用した複合ビル(延床面積約11万m2)を開発中で、2026年3月に竣工予定である7。地上41階・地下4階建てを予定する当ビルの高さは約211メートルとなり、名古屋テレビ塔(約180メートル)を超え、栄地区では最も高いビルとなる(図表-20 ②)。
また、中区新栄町2丁目で、第一生命保険、鹿島建設、ノリタケカンパニーリミテドが共同で地上 19 階建てのオフィスビル(延床面積約4万m2)を開発中で、2026年3月に竣工予定である8(図表-20 ③)。
7 三菱地所株式会社、株式会社パルコ、日本郵政不動産株式会社、明治安田生命保険相互会社、株式会社中日新聞社「「(仮称)錦三丁目 25 番街区計画」着工~名古屋の新たなランドマークとなるシンボルタワーが栄に誕生~」2022年6月13日
8 第一生命保険株式会社、鹿島建設株式会社、株式会社ノリタケカンパニーリミテド「名古屋市中区栄エリアにおけるオフィスビル共同開発プロジェクト始動」2022年11月11日
9 時事通信「リニア実現へ「全力尽くす」 27年開業は困難―JR東海社長」2023/4/6
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2027年までの名古屋のオフィス賃料を予測した(図表-22)。
愛知県では、オフィスワーカーの多い産業の就業者数は、「卸売業、小売業」を除いて減少している。また、東海地方の「企業の経営環境」は回復の足どりが重く、「雇用環境」についてもコロナ禍からの回復ペースが鈍い。「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着し、ワークプレイスの見直しも着実に進むことが予想される。以上を鑑みると、今後のオフィス需要(オフィス利用面積)は力強さを欠く見込みである。
一方、新規供給は名駅エリアや栄エリアを中心に大規模開発計画が複数進行中で、今後、名古屋の空室率は上昇基調で推移すると予想する。
名古屋のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移すると予想する。2022年の賃料を100とした場合、2023年は「97」、2026年には「92」へと下落する見通しである。ただし、2017 年の賃料水準(86)を上回り、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年05月31日「不動産投資レポート」)
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- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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