2023年05月31日

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1. はじめに

名古屋のオフィス市場は、テレワークの普及や働き方の変化等に伴うワークプレイスの見直しが進むなか、昨年は新規供給が前年の約6割の水準に留まり、空室率と成約賃料は概ね横ばいでの推移となった。本稿では、名古屋のオフィス市況を概観した上で、2027年までの賃料予測を行う。

2. 名古屋オフィス市場の現況

2. 名古屋オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、名古屋市の空室率(2023年4月時点)は、4.8%(前年比+0.2%)となった(図表-1)。空室率をビルの規模別1にみると、「大規模4.5%(前年比+0.4%)」と「大型4.8%(同+0.5%)」が上昇した一方で、「中型5.1%(同▲0.3%)」と「小型5.0%(同▲0.5%)」は低下し、規模間の格差が縮小した(図表-2)。テレワークの普及や働き方の変化等に伴うワークプレイスの見直しが進むなか、まとまった面積の募集では、入居テナントの決定に時間を要するケースが増えている。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 名古屋オフィスの規模別空室率
全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感がみられる。2022年下期の名古屋市の成約賃料は、前期比+0.2%、前年比+1.4%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2022年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、上昇と低下で分かれる結果となった。また、成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいとなった。名古屋市は、空室率がやや上昇した一方で、賃料は前年と同水準となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した名古屋市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2020年上期から「空室率上昇・賃料上昇」局面へと移行し、現在は「空室率上昇・賃料下落」局面に向かいつつある(図表-5)。
図表-4 2022年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 名古屋オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、名古屋ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、97.9万坪(2021年末)から98.3万坪(2022年末)へと+0.4万坪増加した。また、テナントによる賃貸面積は、92.4万坪(2021年末)から93.0万坪(2022年末)へと+0.6万坪増加した。この結果、2022年末の名古屋ビジネス地区の空室面積は5.4万坪(前年比▲0.2万坪)となった(図表-6、図表-7)。
図表-6 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2022年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「名駅地区(37.2%)」で、次いで「栄地区(27.0%)」、「伏見地区(26.1%)」、「丸の内地区(9.7%)」の順となっている(図表-8)。

エリア別の賃貸可能面積(増減)をみると、「栄地区」(前年比▲0.1万坪)が減少したが、「名駅地区」(前年比+0.4万坪)や「伏見地区」(前年比+0.1万坪)などが増加し、計+0.4万坪の増加となった(図表-9)。賃貸面積は、「名駅地区」(前年比+0.6万坪)が増加した結果、空室面積は計▲0.2万坪減少した。
図表-8 名古屋ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2022年)/図表-9 名古屋ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2022年)
名古屋市のエリア別の空室率(2023年4月末)は、「伏見地区6.8%(前年比▲0.6%)」、「名駅地区5.7%(同▲0.8%)」、「丸の内地区5.8%(同±0.0%)」、「栄地区3.9%(同▲0.3%)」となり、「丸の内地区」を除き全てのエリアで低下した(図表-10左図)。

一方、募集賃料は、「丸の内地区(前年比+0.2%)」と「伏見地区(同+2.0%)」が前年比プラス、「名駅地区(同▲0.2%)」と「栄地区(同▲0.2%)」が前年比マイナスとなった(図表-10右図)。
図表-10 名古屋ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 名古屋オフィス市場の見通し

3. 名古屋オフィス市場の見通し

3-1 . 新規需要の見通し
(1) オフィスワーカー数の見通し
愛知県の就業者数は、2年連続で増加し、2022年は418.2万人(前年比+2.0万人)となった(図表-11・左図)。

名古屋市中心部のオフィスワーカー3を産業別にみると、「情報通信業(IT)」の占める割合が16%と最も大きい。次いで「卸売業,小売業(13%)」、プロフェッショナルサービスが含まれる「学術研究,専門・技術サービス業(10%)」、「金融業,保険業(8%)」の順となっている(図表-12)。

オフィスワーカーが多い産業の就業者数(2022年)をみると、「卸売業、小売業(前年比+1.7%)」が前年から増加した一方、「情報通信業(同▲6.4%)」や「学術研究,専門・技術サービス業(同▲4.2%)」、「金融業,保険業(同▲8.4%)」は減少した。(図表-11・右図)。
図表-11 愛知県の就業者数
図表-12 オフィスワーカーの産業別内訳
以下では、名古屋のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東海地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI4」(東海地方)は、2020年第2四半期に「▲52.2」と一気に悪化した。その後は回復と悪化を繰り返し一進一退の動きで推移し、2023年第1 四半期は「▲3.6」となった(図表-13)。

また、「従業員数判断BSI5」(東海地方)は、不足を示す「21.1」(2020年第1四半期)からやや過剰の「▲1.3」(第2四半期)へ大幅に低下した後、足もとでは「+17.7」に回復した。しかし、「全国平均」の動きと比較した場合、東海地方の回復ペースは鈍い傾向にある。(図表-14)。
図表-13 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-14 従業員数判断BSI(全産業)
愛知県の就業者数は2年連続で増加した。このうち、オフィスワーカーが多い産業では、「卸売業,小売業」が前年比で増加したものの、その他の産業は減少している。

東海地方の「企業の経営環境」は一進一退を繰り返し回復の足どりが重い状況にある。また、「雇用環境」についても全国平均と比較して回復ペースが鈍い傾向にある。以上のことを鑑みると、今後のオフィスワーカー数の増加は力強さに欠くことが予想される。
 
3 従業地による職業別就業者のうち、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計。
4 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
5 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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