2023年05月26日

中国経済の見通し-XBB流行で人流の回復は遅れるものの、反動増に加え政策支援が期待できるため2023年は前年比5.3%増と予想

三尾 幸吉郎

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1. 中国経済の概況

中国経済は第1四半期(1-3月期)の成長率が実質で前年同期比4.5%増と、全国人民代表大会(全人代)で掲げた政府目標「5%前後」に届かなかった。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で経済活動が滞った前四半期(同2.9%増)を上回り、前期比では2.2%増(年率換算+9.1%前後)と急回復している。昨年末時点で筆者は、第1四半期には春節連休があり帰省する出稼ぎ労働者が多いことから、COVID-19が沈静化するのは第2四半期と見ていたが、その予想よりも早期に沈静化することとなった。

一方、経済活動の水準は依然として低い。実際、工業企業設備稼働率を見るとほとんどの産業が正常レベルを下回っており(図表-2)、若年労働者(16~24歳)の失業率が高止まりするなど雇用不安が残っている(図表-3)。しかもCOVID-19の変異株(XBB)が猛威を振るい始めており、第2四半期はそれが回復途上にあった人流を妨げるため、本格回復は第3四半期にずれ込みそうである。中国で感染症研究の権威とされる鍾南山氏は6月末がピークとの予測を示している。

他方、インフレ状況を見ると(図表-4)、今年1-4月期の工業生産者出荷価格(PPI)は前年同期比2.1%下落した。消費財は同1.0%上昇したものの生産財が同2.9%下落した。消費者物価(CPI)は前年同期比1.0%上昇と政府目標「3.0%前後」を下回る水準で推移していた。また、食品は同2.9%上昇したものの輸送用燃料が同3.1%下落したことなどから、食品・エネルギーを除くコアは同0.7%上昇となった。なお、人流が持ち直したことを背景に旅行費が同7.1%上昇した。
(図表-1)中国の国内総生産(GDP)/(図表-2)工業設備稼働率(2023年1-3月期)
(図表-3)調査失業率(都市部)/(図表-4)消費者物価(CPI)と工業生産者出荷価格(PPI)

2. 需要の動向

2. 需要の動向

第1四半期の最終消費(個人消費+政府消費)はGDP成長率に+3.0ポイント寄与した(図表-5)。昨年通期(+1.0ポイント)を上回るプラス寄与だったものの、弊社の2023年予測(+4.8ポイント)を下回る寄与にとどまった。個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表-6)、今年1-2月期は前年同期比3.5%増、3月は同10.6%増、4月は同18.4%増と順調に回復してきている。特に飲食はウィズコロナ政策に舵を切ったことを背景に急回復することとなった。

総資本形成(=総固定資本形成+在庫変動、≒投資)は+1.6ポイント寄与となり(図表-5)。弊社の2023年予測(+0.8ポイント)を上回る堅調さだった。投資の代表指標である固定資産投資の推移を見ると(図表-7)、不動産開発投資の低迷と、インフラ投資の堅調は想定通りだった。それぞれ1-4月期累計で前年同期比6.2%減、同8.5%増だった。一方、製造業投資は同6.4%増と予測したほど鈍化しなかった。特に電気機械・設備が同42.1%増と昨年通期(同42.6%増)並みに投資を増やしたことや、自動車が同18.5%増と投資を加速させたことは想定外だった。

純輸出は▲0.1%ポイント寄与となり(図表-5)、弊社の2023年予測(▲0.3ポイント)よりもマイナス幅が小さかった。輸出入(ドルベース)の推移を見ると(図表-8)、輸出は1-4月期累計で前年同期比2.5%増と想定通り小幅な伸びにとどまったものの、輸入が同7.3%減と想定したより大幅に減少したため、貿易黒字が同45.1%増と急増することとなった。但し、「輸出は欧米景気の悪化で冴えない」、「輸入は国内景気の回復で底堅い」との見方は維持している。
(図表-5)需要項目別の寄与度/(図表-6)小売売上高の推移
(図表-7)投資の3大セクターの推移/(図表-8)輸出入(ドルベース)の推移

3. 産業の動向

3. 産業の動向

第1四半期の「第1次産業」は前年同期比3.7%増と前四半期(同4.0%増)をやや下回ったものの、弊社の2023年予測(同2.5%増)を大幅に上回った。コロナ禍が追い風となった「第1次産業」は、今年はその反動もあって減少すると予測していたが、その想定に反して堅調なスタートを切ることとなった(図表-9)。

第2次産業は前年同期比3.3%増と前四半期(同3.4%増)から横ばいで、弊社の2023年予測(同3.4%増)とほぼ一致した。「製造業」は同2.8%増と弊社の2023年予測(同3.0%増)を小幅に下回ったものの、「建築業」が同6.7%増と弊社の2023年予測(同3.5%増)を大幅に上回った。

第3次産業は前年同期比5.4%増と前四半期(同2.3%増)を大幅に上回ったものの、弊社の2023年予測(同7.1%増)を下回った。「情報通信・ソフトウェア・IT」は前年同期比11.2%増と弊社の2023年予測(同8.0%増)を上回り、「不動産業」も同1.3%増と弊社の2023年予測(同1.0%増)と同水準だったが、コロナ悪化3業種(「交通・運輸・倉庫・郵便業」「卸小売業」「宿泊飲食業」)が同9.2%増(時価加重)と弊社の2023年予測(同10.0%増)に届かなかった。

なお、足元の推移を見ると、サービス業生産は1-2月期が前年同期比5.5%増、3月が同9.2%増、4月が同13.5%増とV字回復している(図表-10)。他方、鉱工業生産は1-2月期が前年同期比2.4%増、3月が同3.9%増、4月が同5.6%増と緩やかな回復にとどまっている(図表-11)。その背景にはコロナ禍で積み上がった在庫の調整に手間取っていることがあると見られる(図表-12)。
(図表-9)産業別の実質成長率(前年同期比)/(図表-10)サービス業生産
(図表-11)鉱工業生産/(図表-12)製品在庫の推移

4. 経済政策

4. 経済政策

中国政府は3月に開催した全国人民代表大会(全人代)で今年の主要目標を提示した(図表-13)。2023年の成長率目標は「5%前後」と昨年の「5.5%前後」から0.5ポイント引き下げた。財政赤字(対GDP比)は昨年の「2.8%前後」から「3%」へ引き上げた。さらにインフラ投資の原資となる地方特別債も昨年の「3.65兆元」から「3.8兆元」へ増額した。それに加えて地方特別債務限度額(約25.6兆元)にも余裕があるため、年度途中で増額することも可能である。今年の財政政策は昨年より積極的に景気を支える方針といえるだろう。金融政策に関しても、今年は「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率と基本的に一致」と昨年と同様の方針を掲げた上で、「実体経済の発展を支持する」とし、緩和的な金融方針を示した。このように今年は成長率目標を下げた上で、経済政策で支援し、目標を確実に達成しようとしている。もし変異株(XBB)流行で目標達成が危うくなれば預金基準金利を引き下げることもあり得るだろう。

但し、今年は年度途中で引き締め的な経済政策に転じることもあり得る。経済再開(リ・オープン)に舵を切った今年は、その反動増があるため国際通貨基金(IMF)などほとんどの国際機関が目標達成を見込んでいる。もし年度途中で目標達成が確実な状況となれば、中国政府は過剰債務の圧縮に動き出す可能性がある。実際、武漢(湖北省)で感染爆発が起きた2020年には、景気がV字回復したことを確認した上で、その年の秋には「不動産規制強化」を打ち出し(図表-14)、翌2021年には名目成長率を下回るレベルにまで量的金融を絞った(図表-15)。
(図表-13)2023年の主要目標と財政
(図表-14)不動産向け融資の状況/(図表-15)名目GDPと量的金融

5. 中国経済の見通し

5. 中国経済の見通し

1|メインシナリオ
以上を踏まえて、2023年の経済成長率は実質で前年比5.3%増、2024年は同4.6%増と予想している(図表-16)。

2023年のプラス材料としては、(1)「宿泊飲食業」と「交通・運輸・倉庫・郵便業」は人流の増加で反動増が見込めること、(2)「卸小売業」はウィズコロナ政策への移行でリベンジ消費が期待できること、(3)「不動産業」は不動産規制の緩和でマイナス成長からの脱却が期待できること、(4)「建設業」は重要インフラ投資の継続が見込めること、(5)内需依存型「製造業」には内需の拡大が追い風となることが挙げられる。一方、マイナス材料としては欧米経済の成長鈍化が挙げられる。特に外需依存型「製造業」には大きな打撃となる。なお、「情報通信・ソフトウェア・IT」は以前のような2割成長に戻るのは困難と見られるものの、2年に及んだ是正措置が終了したため昨年より若干高め(1割前後)の成長を見込んでいる。「金融業」も引き続き5%台の安定成長と想定している。なお、四半期毎の予測値は、第2四半期は反動増で前年同期比7.1%増(前期比では0.3%増と減速)、第3四半期は同4.6%増、第4四半期は同5.1%増としている(図表-17)。

そして2024年は反動増という特殊要因が無くなることから、巡行速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準)並みの前年比4.6%増と予想している。なお、中国経済の巡行速度は「人口問題」、「一人当たりGDPの相対位置上昇」、「財政金融政策の裁量余地低下」、「共同富裕」の4つの足かせ要因により徐々に低下し、10年後には2.5%前後になるとの展望は維持している1
(図表-16)経済予測表/(図表-17)中国の国内総生産(GDP)
 
1中期経済見通し(2022~2032年度)」、ニッセイ基礎研究所Weekly エコノミスト・レター、2022-10-12
2|リスク要因
下方リスクとしては、(1)欧米景気の想定を超える悪化に伴う輸出の激減、(2)住宅バブル再発に伴う不動産規制の再強化、(3)変異株(XBB)の流行で「セロコロナ政策」再開、の3点を挙げられる。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2023年05月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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