- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 経済予測・経済見通し >
- 中国経済の見通し-XBB流行で人流の回復は遅れるものの、反動増に加え政策支援が期待できるため2023年は前年比5.3%増と予想
中国経済の見通し-XBB流行で人流の回復は遅れるものの、反動増に加え政策支援が期待できるため2023年は前年比5.3%増と予想

三尾 幸吉郎
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1. 中国経済の概況
一方、経済活動の水準は依然として低い。実際、工業企業設備稼働率を見るとほとんどの産業が正常レベルを下回っており(図表-2)、若年労働者(16~24歳)の失業率が高止まりするなど雇用不安が残っている(図表-3)。しかもCOVID-19の変異株(XBB)が猛威を振るい始めており、第2四半期はそれが回復途上にあった人流を妨げるため、本格回復は第3四半期にずれ込みそうである。中国で感染症研究の権威とされる鍾南山氏は6月末がピークとの予測を示している。
他方、インフレ状況を見ると(図表-4)、今年1-4月期の工業生産者出荷価格(PPI)は前年同期比2.1%下落した。消費財は同1.0%上昇したものの生産財が同2.9%下落した。消費者物価(CPI)は前年同期比1.0%上昇と政府目標「3.0%前後」を下回る水準で推移していた。また、食品は同2.9%上昇したものの輸送用燃料が同3.1%下落したことなどから、食品・エネルギーを除くコアは同0.7%上昇となった。なお、人流が持ち直したことを背景に旅行費が同7.1%上昇した。
2. 需要の動向
総資本形成(=総固定資本形成+在庫変動、≒投資)は+1.6ポイント寄与となり(図表-5)。弊社の2023年予測(+0.8ポイント)を上回る堅調さだった。投資の代表指標である固定資産投資の推移を見ると(図表-7)、不動産開発投資の低迷と、インフラ投資の堅調は想定通りだった。それぞれ1-4月期累計で前年同期比6.2%減、同8.5%増だった。一方、製造業投資は同6.4%増と予測したほど鈍化しなかった。特に電気機械・設備が同42.1%増と昨年通期(同42.6%増)並みに投資を増やしたことや、自動車が同18.5%増と投資を加速させたことは想定外だった。
純輸出は▲0.1%ポイント寄与となり(図表-5)、弊社の2023年予測(▲0.3ポイント)よりもマイナス幅が小さかった。輸出入(ドルベース)の推移を見ると(図表-8)、輸出は1-4月期累計で前年同期比2.5%増と想定通り小幅な伸びにとどまったものの、輸入が同7.3%減と想定したより大幅に減少したため、貿易黒字が同45.1%増と急増することとなった。但し、「輸出は欧米景気の悪化で冴えない」、「輸入は国内景気の回復で底堅い」との見方は維持している。
3. 産業の動向
第2次産業は前年同期比3.3%増と前四半期(同3.4%増)から横ばいで、弊社の2023年予測(同3.4%増)とほぼ一致した。「製造業」は同2.8%増と弊社の2023年予測(同3.0%増)を小幅に下回ったものの、「建築業」が同6.7%増と弊社の2023年予測(同3.5%増)を大幅に上回った。
第3次産業は前年同期比5.4%増と前四半期(同2.3%増)を大幅に上回ったものの、弊社の2023年予測(同7.1%増)を下回った。「情報通信・ソフトウェア・IT」は前年同期比11.2%増と弊社の2023年予測(同8.0%増)を上回り、「不動産業」も同1.3%増と弊社の2023年予測(同1.0%増)と同水準だったが、コロナ悪化3業種(「交通・運輸・倉庫・郵便業」「卸小売業」「宿泊飲食業」)が同9.2%増(時価加重)と弊社の2023年予測(同10.0%増)に届かなかった。
なお、足元の推移を見ると、サービス業生産は1-2月期が前年同期比5.5%増、3月が同9.2%増、4月が同13.5%増とV字回復している(図表-10)。他方、鉱工業生産は1-2月期が前年同期比2.4%増、3月が同3.9%増、4月が同5.6%増と緩やかな回復にとどまっている(図表-11)。その背景にはコロナ禍で積み上がった在庫の調整に手間取っていることがあると見られる(図表-12)。
4. 経済政策
但し、今年は年度途中で引き締め的な経済政策に転じることもあり得る。経済再開(リ・オープン)に舵を切った今年は、その反動増があるため国際通貨基金(IMF)などほとんどの国際機関が目標達成を見込んでいる。もし年度途中で目標達成が確実な状況となれば、中国政府は過剰債務の圧縮に動き出す可能性がある。実際、武漢(湖北省)で感染爆発が起きた2020年には、景気がV字回復したことを確認した上で、その年の秋には「不動産規制強化」を打ち出し(図表-14)、翌2021年には名目成長率を下回るレベルにまで量的金融を絞った(図表-15)。
5. 中国経済の見通し
以上を踏まえて、2023年の経済成長率は実質で前年比5.3%増、2024年は同4.6%増と予想している(図表-16)。
2023年のプラス材料としては、(1)「宿泊飲食業」と「交通・運輸・倉庫・郵便業」は人流の増加で反動増が見込めること、(2)「卸小売業」はウィズコロナ政策への移行でリベンジ消費が期待できること、(3)「不動産業」は不動産規制の緩和でマイナス成長からの脱却が期待できること、(4)「建設業」は重要インフラ投資の継続が見込めること、(5)内需依存型「製造業」には内需の拡大が追い風となることが挙げられる。一方、マイナス材料としては欧米経済の成長鈍化が挙げられる。特に外需依存型「製造業」には大きな打撃となる。なお、「情報通信・ソフトウェア・IT」は以前のような2割成長に戻るのは困難と見られるものの、2年に及んだ是正措置が終了したため昨年より若干高め(1割前後)の成長を見込んでいる。「金融業」も引き続き5%台の安定成長と想定している。なお、四半期毎の予測値は、第2四半期は反動増で前年同期比7.1%増(前期比では0.3%増と減速)、第3四半期は同4.6%増、第4四半期は同5.1%増としている(図表-17)。
そして2024年は反動増という特殊要因が無くなることから、巡行速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準)並みの前年比4.6%増と予想している。なお、中国経済の巡行速度は「人口問題」、「一人当たりGDPの相対位置上昇」、「財政金融政策の裁量余地低下」、「共同富裕」の4つの足かせ要因により徐々に低下し、10年後には2.5%前後になるとの展望は維持している1。
1 「中期経済見通し(2022~2032年度)」、ニッセイ基礎研究所Weekly エコノミスト・レター、2022-10-12
下方リスクとしては、(1)欧米景気の想定を超える悪化に伴う輸出の激減、(2)住宅バブル再発に伴う不動産規制の再強化、(3)変異株(XBB)の流行で「セロコロナ政策」再開、の3点を挙げられる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年05月26日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ
三尾 幸吉郎
三尾 幸吉郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/15 | 図表でみる世界の民主主義-日本の民主主義指数は上昇も、世界平均は低下。世界ではいったい何が起きているのか? | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/12/16 | 図表でみる世界のGDP-日本が置かれている現状と世界のトレンド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/07/30 | 図表でみる世界の人口ピラミッド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/04/05 | 不動産バブルの日中比較と中国経済の展望 | 三尾 幸吉郎 | 基礎研マンスリー |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【中国経済の見通し-XBB流行で人流の回復は遅れるものの、反動増に加え政策支援が期待できるため2023年は前年比5.3%増と予想】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
中国経済の見通し-XBB流行で人流の回復は遅れるものの、反動増に加え政策支援が期待できるため2023年は前年比5.3%増と予想のレポート Topへ