2023年05月23日

日経平均3万1,000円突破!今後の展開は?~臨時リバランスの検討を~

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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1――日本株の上昇が止まらない

日経平均株価の5月23日の終値は3万1,086円となり、1990年7月以来、約33年ぶりの水準を回復した。22年末から5ヶ月足らずで20%近い上昇という急ピッチな株価上昇がホンモノか、先高観も強まる株式市場に死角はないか。

2――海外投資家が日本株を再評価

2――海外投資家が日本株を再評価

今回の株価上昇に乗り遅れた日本の投資家も少なくないだろう。というのも、急ピッチな株価上昇は海外投資家が主導したからだ。米国の地銀をめぐる混乱などを背景に3月は海外投資家が日本株を売り続けた。ところが4月に入ると一転して買いに回り、4月第1週から5月第2週(12日)まで7週連続、合計2.9兆円の買い越しとなった。
【図表1】海外投資家が日本株を再評価
海外投資家が日本株を再評価した理由はいくつもある。まず、日本がデフレを脱却するのではないかという期待だ。これまで日本株の「大敵」とされた3つの“D”、すなわちDeflation(デフレ)、Demography(人口減少)、Debt(債務)のうち、「1つが外れるかもしれない」との関心が高まったという。背景には今春の大幅な賃上げが来年以降も続くかもしれないといった期待に加えて、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本株の追加購入を示唆したことも挙げられる。
 
バフェット氏は日本の大手商社5社の株式を保有していることで有名だが、それら商社株の買い増しだけでなく、「商社以外にも常に注目している企業がいくつもある」といった趣旨の発言をしている。これまで日本株に見向きもしなかった海外投資家の関心にバフェット発言が点火した格好だ。
 
欧米と比べて相対的な日本の優位性も影響している。強烈なインフレに見舞われている米国や欧州では、中央銀行が政策金利を急ピッチで引き上げてきた。米FRB(連邦準備制度理事会)はまもなく利上げを停止するとみられているが、23年末まで5%を超える高水準の政策金利を続ける構えで、株式市場が期待する早期の利下げを完全に否定している。米国よりもインフレ率が高い欧州では、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁が「雇用を犠牲にしてでもインフレ退治を優先する」といった趣旨の発言を直近でしている。
 
一方、新型コロナウイルス感染症をようやく5類に引き下げた日本は、行動制限の緩和やインバウンド増加による消費拡大が期待されている。さらに日銀は異次元緩和を続ける構えを見せており、少なくとも現時点では金融緩和策の修正に極めて慎重姿勢だ。長引く高インフレと高金利の長期化で景気減速懸念が強まる欧米から、相対的に安全な日本に海外投資家が投資資金をシフトさせた。
 
さらに、東証による「PBR(株価純資産倍率)改善要請」も海外投資家の日本株再評価に繋がったようだ。これはPBRが1倍未満で一般に「上場失格」とされる上場企業に対して、市場の評価を高めるための具体的な取り組みなどを公表するよう要請したものだ。正式な要請は今年3月末だったが、その前後から大規模な自社株買いを決めたり、経営計画に「PBR1倍以上を目指す」と明記する企業が相次いだ。こうした動きを見た海外投資家が、日本株市場の底上げ、継続的な活性化を期待したのかもしれない。

3――目先、さらに上昇する要素も

3――目先、さらに上昇する要素も

今後の株価動向は目先と23年後半に区別して考える必要がある。目先は海外投資家の買いがいつまで続くかがカギになるが、既に買いが一巡した可能性もある。その場合は最近の株価急上昇で高値警戒感も強まっており、個人投資家などの利益確定売りが優勢になりやすい状況だ。実際に海外投資家の買いが止まれば、需給バランスが崩れて近いうちに日経平均が3万円を割る可能性は十分にある。
 
一方、仮に海外投資家が買わなくても一層の株価上昇につながる要素として、株を空売りしている投資家の買い戻しが挙げられる。図表2のとおり、日経225ダブルインバースETF(以下、DインバETF)の受益権口数が増加した。DインバETFは日々の騰落率が日経平均のマイナス2倍となるように運用さていて、たとえば日経平均が1%上昇した日はDインバETFの基準価格が2%下落する。逆に、日経平均が1%下落した日は2%値上がりする。
 
4月以降、日経平均株価が上昇するとともにDインバETFの受益権口数が大幅に増えたのは、目先の株価下落を予想してDインバETFを買った投資家が多かった(DインバETFの運用会社は日経平均先物の売りポジションを大量に抱えた)ことを意味する。ところが、あてが外れて株価が上昇したため、これらの投資家の多くは含み損を抱えていると推測される。今後、株価がある程度下落しないと含み損が解消しない。
 
より深刻なのは、株価がさらに上昇すると含み損が拡大し、投資家が損失覚悟で一斉にDインバETFを売却すると、DインバETFの運用会社は日経平均先物の売りポジションを解消しなければならない。もしそうなれば、いわば空売りの買い戻しによる「踏み上げ相場」だ。一部ヘッジファンドはDインバETFなどを保有している個人投資家がギブアップするのを狙っていると聞く。実際に踏み上げ相場が到来するかは未知数だが、もし実現すれば日経平均が3万2,000円程度まで上昇する場面があってもおかしくない。
【図表2】株価下落時に値上がりするETFが増加

4――23年後半の日経平均は2万6,000円まで下落か

4――23年後半の日経平均は2万6,000円まで下落か

23年後半にかけては日本株の調整局面があると予想している。最大の理由は米国など海外景気の減速が強まることだ。先述のとおり、FRBもECBも景気や雇用の維持よりもインフレ沈静化を優先する姿勢を明確にしている。これまで割りと堅調だった米国景気だが、インフレと金利上昇にコロナ禍の強制貯蓄が減ってきたことも重なり、米国の個人消費は陰りが見えはじめ、消費者マインドも再び悪化の兆しを見せている。
 
また、3月以降の米地銀を巡る混乱で金融機関が貸出態度を厳格化したため、米国の中小企業は資金調達しづらくなった。銀行からの借り換えが困難になり設備投資を手控える企業が増えるなど、数ヶ月のタイムラグをもって実体経済に悪影響が出ることが懸念される。
 
景気減速が意識されて米国株が下落すると、当然ながら日本株にも悪影響が及ぶ。そのとき追い打ちをかけるのが円高だ。米景気が減速を強めると米長期金利が低下し、日米金利差が縮小して為替市場ではドル安・円高が進みやすくなる。直近の株価上昇は円安による面もあることを考えると、米景気減速は米国株下落と円高のダブルパンチとなって日本株に襲いかかることになろう。最大で10~15%程度下落、日経平均が2万6,000円程度まで下落する可能性を指摘しておきたい。

5――日本企業の業績も楽観できない

5――日本企業の業績も楽観できない

日本企業の23年度の業績見通しが出揃った。予想純利益の合計額は28.8兆円で22年度比3.3%減を見込む。長引くインフレ、海外景気の減速懸念などを背景に慎重な見通しとなったが、市場では「事前に心配されたほど悪くなかった」と受け止められた。
 
実際、市場予想(0.3%増)と比べても遜色なく特段のサプライズはなかった。それどころか4月以降の上昇相場を支援する安心材料になったようだ。
【図表3】心配されたほど悪くない日本企業の業績見通し
日本では例年、年度初めに企業が公表する業績予想は保守的で、四半期ごとの決算発表のタイミングで見通しを上方修正するのが“恒例行事”となっているが、23年度は少し様子が違うようだ。会社予想と市場予想の乖離率(会社予想÷市場予想-1)を集計すると(図表4)、22年度は市場予想よりも保守的な「-10%~-5%」とする企業が最も多かった。ところが23年度は「±5%以内」で市場予想と同程度の企業や、市場予想より10%以上強気の見通しを公表した企業が多い。
 
この背景には先述の「PBR改善要請」が影響している可能性が考えられる。つまり、あまり保守的な業績見通しを公表すると株価(PBR)が下落しかねない。6月に控えている株主総会で追求されるのを回避する狙いもあって、例年よりも強気な業績見通しを公表した可能性だ。
 
企業側の真意はさておき、期初予想があまり保守的でない以上、今後の上方修正余地は乏しい。さらに、筆者が懸念するような海外景気の減速と円高が実現すれば、輸出企業を中心に業績が圧迫され株価下落は避けられないだろう。仮に目先の株価が一段高になったとしても、深追いは禁物だ。
【図表4】“強気見通し”の企業が増えた

6――臨時リバランスの検討を

6――臨時リバランスの検討を

機関投資家などのバランス型運用では「リバランス」といって、高くなった資産を売却して、安くなった資産を買うという資産配分の変更を“定期的に”行うのだが、つみたてNISAなどを活用した個人の資産形成でも、臨時の「リバランス」の検討をお勧めしたい。図表5のとおり、欧米の主要株価指数や全世界株式(MSCI-ACWI)と比べて、直近の日本株の上昇は突出している。
 
ポートフォリオにおける日本株のウェイトが急上昇し、自身が当初にイメージしていた資産配分の上限を超えているケースもあるだろう。その場合は日本株を一部売却して他の資産を購入する「リバランス」を実施すべきか検討することをお勧めする。
 
せっかく上昇している日本株を売るのは抵抗があるだろう。目先、日本株がさらに上昇する可能性もあるが、長期の資産形成では機械的に淡々と運用を続けたほうが結果的にうまくいくことも多い。そもそも、そんな大儲けを狙って資産形成を始めたのか、初心を思い出してみよう。
 
なお「リバランス」を実施する場合は、資産配分の上限超過分を全て売却してもよいし、いつ売るのがベストか悩むくらいなら1ヶ月程度の間に超過分を何度かに分けて売却するなどしてもよいだろう。いずれにしても、感情に流されないことが肝要だ。
【図表5】日本株の上昇が突出している
 
 

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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本ファイナンス学会理事
     ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

(2023年05月23日「基礎研レポート」)

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