2023年05月15日

DB回帰も退職金制度の選択肢-リスク性資産頼みの企業型DCを前に-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴

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4――企業型DCにおける資産運用の状況

それでは企業型DCにおける資産運用はどのようになっているのだろうか。企業年金連合会が公表する確定拠出年金に関する実態調査(概要)を基に見ていきたい。単年度の運用利回りは図表4の通りである。尚、目標となる想定利回りは、直近調査結果である2021(令和3)年度決算分の数値(1.91%)で一律に示している。最近導入された企業型DCの想定利回りや、過去に設定された想定利回りの見直し(引き下げ)が反映され、現時点で目標とすべき水準と思われるためだ。
【図表4】企業型DCの単年度運用利回り(%)
過去8年度のうち5年度で想定利回りを達成している。特に2020年度は12.7%と非常に高い伸びであった。一方、円金利資産の代表例である10年国債応募者利回りは0%近傍で推移し、全期間における平均値は0.1%強に止まる。円金利資産の利回りと想定利回りの乖離が1.8%もあるにも関わらず、想定利回り達成年度が多いのはリスク性資産によるところ大であることは容易に想像できる。

次に加入来の運用利回りについて、図表5に基づきリスク性資産の代表である国内株式(日経平均株価)と比較しつつ見ていきたい。当然ながら加入時点は加入者によって異なるが、ここでは図表2を参考に、2021年度末加入者(782万人)の半数超が加入した2011年度末(423万人)を日経平均株価の起点とする。
【図表5】企業型DCの加入来運用利回り(%、左軸)
加入来の運用利回りは2015年度と2019年度に想定利回りを下回ったものの、基本的には想定利回りを上回って推移してきた。特に2020年度の株高は加入来の運用利回りを前年度から大きく押し上げた。

日経平均上昇率の折れ線と運用利回りの折れ線が、振れ幅は違えども同じ方向性で動いているように、企業型DCの運用利回りは株式などリスク性資産頼みになっていると言えよう。

5――課題および提言

5――課題および提言

企業型DCは従業員の退職金ひいては老後の生活資金を準備するための制度である。これまで価格変動幅の大きいリスク性資産の運用成果が比較的高かったことで従来の退職金水準が維持できていたとすると、今後の従業員の老後資産は不安定な基盤の上に置かれていると考えられる。

利回り0.1%強の円金利資産では想定利回り実現が到底期待できない状況が続きながらも、今のところはリスク性資産の貢献によって想定利回り達成という好ましい結果が出ている。しかし上述の不安定さを考慮すれば、現状に満足することなく、先回りでこの課題に向き合うことを期待したい。経営陣にとっても、また、何よりも先に従業員の生活を守るべきと思われる労働組合にとっても重要課題であるはずだ。

まず対策として、従業員への投資教育のさらなる充実、労使協議事項でもある想定利回りの引き下げ、これを受けての企業からの企業型DC掛金増加が挙げられる。次策としてはDBへの回帰も選択肢となろう。

DBの運営には多大な労力を要することから新設は現実的ではないだろう。しかしDBと企業型DCを既に併用している企業の場合、企業型DCからDBへの掛金シフトを検討するのはどうだろうか。必ずしも掛金全てを移す必要はない。労使等、退職金制度の関係者で稠密な議論を重ねる中で妥協点を探ればよいだろう。  

DBにも企業型DCにも各々長所と短所があり、どの立場から見るかによって強調される点は異なる。第2章で述べた通り、DBには企業経営の不安定要素になる古い制度との印象が残っているものの、従業員の生活を守る立場9からDB回帰を議論することは決して荒唐無稽な対策ではない。
 
9 連合(日本労働組合総連合会)のホームページでは「確定給付企業年金(DB)制度の普及、受給権保護の強化を!」と明記されている。
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保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

磯部 広貴 (いそべ ひろたか)

研究・専門分野
内外生命保険会社経営・制度(販売チャネルなど)

経歴
  • 【職歴】
    1990年 日本生命保険相互会社に入社。
    通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
    日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
    2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
    資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。

    【加入団体等】
    日本FP協会(CFP)
    生命保険経営学会
    一般社団法人アフリカ協会
    2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版

(2023年05月15日「基礎研レポート」)

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