2023年04月25日

高齢者の免許返納率の推移

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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警察庁の発表によると、2022年の運転免許証の自主返納者数は44万8,476人で、前年より6万8,564人減少した。このうち、75歳以上は27万3,206人で、前年より5,579人減少した。

本稿では、免許返納率の推移と、2022年5月からはじまったサポカー限定免許や運転技能検査等の状況を紹介する。

1――75歳以上ドライバーの免許返納率は4.48%

1――75歳以上ドライバーの免許返納率は4.48%。昨年より0.24ポイント低下

高齢ドライバーによる自動車事故を減らすために、運転免許が不要になったり、加齢に伴う身体機能低下等によって運転に不安を感じるようになった高齢ドライバーには、免許の自主返納(正式には「申請による免許取消」という。)が推奨されている。運転免許の自主返納制度は、運転免許が不要になったり、加齢に伴う身体機能低下等によって運転に不安を感じるようになったドライバーが自主的に運転免許の取り消し(全部取消または一部取消)を申請する制度で、1998年に始まった。運転免許証は、身分証明書として用いることが定着していることから、2002年以降は、自主返納者には本人確認書類として利用可能な「運転経歴証明書1」を発行することとし、それ以降、返納が定着してきている。高齢ドライバーの免許の自主返納は、近年、増加傾向にあったが、2019年をピークとして、以降は低下し続けている。

2019年は、高齢ドライバーによる死亡事故をきっかけに、免許返納に関する議論が活発となり、免許返納者が急増したと思われる。しかし、72歳以上の免許の有効期間は3年であることから、免許が返納できる高齢ドライバーは、2019年以降の更新のタイミングで既に返納している可能性がある。また、この3年間は、2019新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、重症化しやすい高齢者が外出しづらくなったこと2や「3密」になりにくい移動手段である自動車を手放さなくなった可能性3が指摘されているほか、鉄道4や乗り合いバス路線も廃止が続いており、返納しづらくなっていることも考えられ、今後はおおむね現在のペースで返納されていくと考えられる。
図表1 免許返納数、返納率の推移
 
1 当初、本人確認書類として利用が認められる期間は、発行後6か月以内とされていたが、2012年に制度が改正されてからは、無期限の使用が認められるようになった。また、2012年以降発行の運転経歴証明書は、紛失時には再発行することができ、記載事項に変更があった場合は届け出る必要がある。
2 2021年3月8日日本経済新聞「運転免許返納昨年55万件-4万件減、コロナ影響か」等。
3 2021年12月13日 新潟日報デジタルプラス「県内、感染禍で運転免許返納減少 密避け車手放せず、「不安あれば相談を」」等。
4 国土交通省「近年廃止された鉄軌道路線(令和4年2月3日現在)」(https://www.mlit.go.jp/common/001344605.pdf)によると、2019年度以降廃止された鉄道は全国で5路線・278.7Kmとなっている。2000年度以降廃止された45路線・1157.9Kmの路線数で9%、鉄軌道で24%に該当する。

2――コロナ禍で自家用車の利用が増加

2――コロナ禍で自家用車の利用が増加。公共交通機関を避ける傾向は継続

図表2は、ニッセイ基礎研究所が2020年6月から定期的に実施している「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査5」で、感染拡大前の2020年1月頃と比較した移動行動の変化を年齢別に示したものである。

これによると、「電車やバスでの移動」は、全体の5~6割程度が「減少」または「やや減少」と回答していたが、65歳以上では7割程度と、64歳以下と比べて電車やバスを避ける傾向が強く見られた。最近では、すべての年齢群で徐々に電車やバスでの移動がコロナ禍前に戻ってきているが、65歳以上では64歳以下と比べて戻り方が遅い。一方、「自家用車での移動」が「増加」または「やや増加」と回答した割合は、全体で2022年3月頃まで上昇した。その後は、65歳以上は64歳以下よりも高い水準で推移している。この「自家用車での移動」は、必ずしもアンケートの回答者本人が運転しているとは限らないが、65歳以上で、自家用車による移動が続いている可能性が考えられる。
図表2 感染拡大前(2020年1月頃)と比べた行動の変化

3――高齢ドライバーの免許更新制度の見直し

3――高齢ドライバーの免許更新制度の見直し

1|実車での「運転技能検査」実施状況
免許返納を推奨しつつも、免許の返納が難しい高齢ドライバーでも、安全に運転し続けられるように、免許更新時の検査や講習が見直されてきている。2009年に免許更新時の年齢が75歳以上のドライバーに対して「認知機能検査」が、2017年に一定の違反行為をした75歳以上のドライバーに対して「臨時認知機能検査」が義務づけられた。しかし、加齢による機能低下は、認知機能だけではないことから、2022年5月からは、免許証更新の際に75歳以上で過去3年間に、一定の違反歴6がある場合は、高齢者講習や認知機能検査に加え、実車を使った「運転技能検査」の受検が必要となった。「運転技能検査」は、免許の有効期間内であれば、合格するまで繰り返し受検できるが、有効期間までに合格しなければ、「認知機能検査」に進むことができず、免許を更新できない。

2022年は、5月から12月までにのべ7万7,083人が受検し、6万9,041人が合格した(合格率は89.6%)。実証実験を行った上7で運用しており、受検を通して安全運転の仕方を再確認するといった趣旨で行われている面もあり、合格率はある程度予想されたものだったと思われる。この運転技能検査では、公平性が課題となっており、地域や受検場所によって評価に差が出ないような工夫が検討されていたが、地域による差は大きく、最も合格率が高かった山梨県(98.5%)と最も低かった島根県(72.1%)に26ポイントもの差があった。今後、実車試験の受検対象範囲が適切か、評価基準で重大事故が防止できているか検証が必要になるだろう。
 
6 「運転技能検査」の対象となる違反歴は、(1)信号無視、(2)通行区分違反、(3)通行帯違反等、(4)速度超過、(5)横断等禁止違反、(6)踏切不停止等・遮断踏切立入り、(7)交差点右左折方法違反等、(8)交差点安全進行義務違反等、(9)横断歩行者等妨害等、(10)安全運転義務違反、(11)携帯電話使用等とされている。
7 2020年に行われた実証実験では、受検者の23%が「安全運転が期待できないほどの運転技能」として不合格となったという(2021年11月18日 東京読売新聞「高齢運転者の事故防止 免許更新「技能検査」を新設」)。
2|「サポカー限定免許」への切り替えは今のところ限定的
同じく2022年5月から、自動ブレーキや踏み間違い時の加速抑制装置が搭載された安全運転サポート車(サポカー)に限定して運転できる「サポカー限定免許」もスタートした。

5月から12月までにサポカー限定免許を取得したのは14人にとどまった。サポカー限定免許で使用できる車種が少なく、免許を切り替える際には車の買い替えが必要となる人が多いことや、現在のところ、サポカー限定免許では対象車両以外の運転は認められず、運転技能検査などの合否基準は変わらない8とされていることで、切り替えるメリットが感じにくいのかもしれない。
 
8 2021年11月18日 東京読売新聞「高齢運転者の事故防止 免許更新「技能検査」を新設」等。ただし、2020年3月3日 日本経済新聞「高齢ドライバー実車試験 内容・合格基準が焦点に」によると、警察庁が限定免許保有者には、実車試験の一部を免除することを検討している旨が記載されている。

4――検査対象者の選定

4――検査対象者の選定、評価基準の継続的な見直しに期待

2022年12月末時点で免許保有者の平均年齢は50.5歳で、ここ数年は毎年0.2歳ずつ上昇しており、ドライバーの高齢化も進んでいくと考えられる。90歳以上の免許保有者も、2022年12月に初めて10万人を超えた。

既述のとおり、高齢ドライバーの免許返納率は3年連続して低下していた。高齢ドライバーによる免許返納が大きな話題となって数年経ち、返納できる環境にある人は返納している可能性があることから、今後も、このペースでの返納が続くと考えられる。

高齢者が自立した生活を送るためには、移動手段の確保が課題であるが、現在、日本では、公共交通機関が少なく、移動手段の確保が難しい地域も多いだけでなく、最近でも運転者不足や公共交通機関利用者の減少等によって、廃線となる公共交通機関がある。諸外国でも同様の課題があり、高齢者がなるべく長い期間安全に運転ができるよう免許の更新期間を短くしたり、地域や時間帯を限定する免許を設けている国がある。しかし、日本は、諸外国と比べて、圧倒的に歩行中の死亡事故が多いため、運転する人の技術の向上や、車に搭載する技術に頼らざるを得ないと考えられる。

高齢者の加齢に伴う認知機能や身体機能の低下は、今後改善することが期待しにくいため、免許更新時の検査を適切に行うことや、自動運転技術や安全運転サポート技術の向上と、こういった装置が搭載された車の買い替えを進めていく必要があるだろう。

認知機能検査は、検査で「認知症のおそれがある9」と判定された人の6割が免許更新を断念している10ことから、免許返納を考える重要な機会ともなっている。しかし、逆に言えば、4割は断念していない。したがって、認知機能や身体機能の低下を高齢者自身が認識できるような機会を増やすことや、検査対象者の選定、評価基準の継続的な見直しに期待したい。ただし、加齢による機能の低下は過去の違反歴や免許更新のタイミングとは関係なく起き11、重大事故を引き起こす可能性がある。日ごろの健康状態の悪化や加齢による衰えをカバーするようなサポート体制も必要だろう。
 
9 「認知症のおそれあり」と判定された場合、医師に「認知症」と診断された場合は、免許は取り消される。
10 2022年3月23日 朝日新聞「「認知症おそれ」6割免許断念」等。
11 2020年3月9日朝日新聞社説「道交法の改正 高齢者への対策さらに」によると、高齢ドライバーによる死亡事故例を見ると、8割以上は過去3年以内に違反行為をしていないとのこと。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2023年04月25日「保険・年金フォーカス」)

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