コラム
2022年08月05日

「サポカー限定免許」創設が示唆する道路運送法の課題~技術の進歩、車の高度化に適応した旅客輸送の仕組みを

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   坊 美生子

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高齢ドライバーによる交通事故を防ぐため、今年5月、75歳以上で一定の違反歴があるドライバーを対象に運転技能検査を義務付ける改正道路交通法(以下、道交法)が施行された。それと同時に、高齢ドライバーを「免許返納か、継続か」の二者択一で追い込むことがないように、「自主返納の中間的な位置づけ」(警察庁「令和元年度高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究分科会」最終報告書)として、安全運転支援システムを搭載した自動車「サポカー」に限定した免許制度が創設された。

高齢ドライバーへの影響が大きいことから、報道では前者の改正点に大きな注目が集まったが、筆者は後者の改正点も意義が大きいと考えている。実際にどれぐらいの高齢ドライバーがサポカー限定免許に切り替えるかは別として、交通警察として安全運転支援システムの進化を評価し、運転免許制度の枠組み自体に変更を加えたものだからである1

それとは対照的なのが、運輸である。タクシーやバス事業等を規定する道路運送法の基本的な枠組みは、安全運転支援技術が進化した後も、ほぼ変わっていない。有償で他人を運送できるのは原則、同法の許可を得た事業者の乗用車に限られ、ドライバーには第二種免許取得が義務付けられている。許可を得ていない自家用車で、他人を有償で運送することはできない。ナンバープレートの色で言えば、緑(事業用自動車)が白(自家用自動車)かで有償運送の可否が分かれている(図表1)。
 
他人を自動車に乗せて、有償で運送することを業とする以上、法律で安全確保措置等が求められることは筆者も当然だと考えるが、使用する車に安全運転支援システムを搭載している場合には、事故リスクや被害の大きさが一定程度、低減すると考えられることから、条件を緩和しても良いのではないかと考えている。例えば、白ナンバーの自家用車であっても、限定免許の対象となっているサポカー等を用いる場合には、運行範囲や輸送対象を限定し、一定の運行管理を行うなどした上で、有償運送を認めても良いのではないだろうか。そうすれば、交通事業者以外でも、保有する乗用車で地域の高齢者らを送迎できる企業や団体が増え、高齢者に対する移動支援が進み、高齢ドライバーによる交通事故減少に寄与できると考えるからである。緑ナンバーであっても、サポカー等を使用する場合には、安全確保措置を緩和することなどが考えられるだろう。
 
現在、限定免許の対象となっているサポカーには、「衝突被害軽減ブレーキ」と「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」が搭載されている。衝突被害軽減ブレーキとは、前方の車両や歩行者を検知し、運転者に警報で衝突危険性を知らせたり、自動でブレーキが作動したりする機能である。ペダル踏み間違い時加速抑制装置とは、発進時やごく低速で走行時にブレーキとアクセルを踏み込んだ場合に、加速を抑制する機能である2。ただし、気をつけなければいけないのは、中高速走行時には適切に作動しないことがある点だ。サポカーは、衝突を完全に防止できる訳ではなく、ドライバー自身による制御が必要である。

サポカーの事故防止効果については、警察庁の「高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究」分科会で報告されている。同分科会最終報告書(2020年3月)によると、既に市場に流通しているサポカー区分のうち、最も安全性の高い「サポカーS(ワイド)」3の交通事故件数(ドライバーが第1当事者となる場合)は、全車種平均に比べて41.6%低かった。また、公益財団法人交通事故総合分析センターの発表では、衝突被害軽減ブレーキを搭載した自家用乗用車は、搭載していない自家用乗用車に比べて、10万台当たりの対四輪追突死傷事故件数(ドライバーが第1当事者となる場合)が52.9%低かったという。

これらのように、安全運転支援システムを搭載した場合、事故リスクに対して一定の低減効果が認められたことから、同分科会では「先進安全技術を搭載したサポカーの普及が進むことにより、全体として交通の安全に資すると考えられる」(最終報告書)として、限定免許が創設されることになった。
 
サポカーに搭載された安全運転支援技術は、近年、急速に進化、普及してきた。他の車や歩行者等を認知するレーザーレーダーや高性能カメラなどの開発競争は激しくなっている。

車の高度化は、交通事故削減のために、国が行ってきた政策でもある。先進技術を利用して安全運転を支援するASV(Advanced Safety Vehicle)を普及するため、1991年度から、自動車メーカーや関係団体、学識経験者、関係省庁などが推進検討会を組織し、技術開発と実用化、普及のためのプロジェクトを推進してきた4。前方障害物衝突被害軽減ブレーキや、ペダル踏み間違維持加速抑制装置等の実用化は、その成果でもある。

さらに2019年には、日本の提案で、衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準が成立し、国内では2021年11月以降、段階的に新型車等への搭載が義務付けられた。一般社団法人日本自動車工業会によると、例えば衝突被害軽減ブレーキの装着率は、2011年には1%だったが、2020年には95.7%に達したという5

対照的に、技術が進化し、車が高度化してもほぼ変わっていないのが旅客輸送の世界である。バスやタクシー、トラック事業者自身に対するASV導入の補助事業はあるものの、移動サービスの基本的な枠組みにはほとんど反映されていない6

道路運送法では、事業許可を得るためには、事業計画や管理運営体制等に関して数多くの条件が課されている。事業計画に関しては、営業所や事業用自動車乗車(原則、定員11人以上)、車庫、従業員の休憩施設、停留所、運行計画などの定めがある7。管理運営体制に関しては、法人における専従役員の配置、営業所における運行管理者や整備施管理者の配置、点呼、安全管理規定、教育指導や事故報告の責任体制などがある。また、国土交通大臣から上限運賃の認可を受け、ドライバーは2種免許を取得し、役員は法令試験に合格しなければならない。

許可を得ていない白ナンバーの車では原則、有償輸送はできないが、例外が2006年に導入された「自家用有償旅客運送制度」である。公共交通空白地や、公共交通を利用できない障害者等が対象の場合に限り、市町村やNPO等が同法上の登録をすることで、有償での輸送が認められた。ただし、登録には、事前に地域の交通事業者らで構成する地域公共交通会議等で協議しなければならない。また、ドライバーが受け取ることができる対価は実費の範囲内で、当該地域のバス・タクシー事業の2分の1が目安とされている。更にドライバーは第二種免許の取得、または第一種免許と大臣認定講習の受講が義務付けられている。安全対策としては、「運行の管理者」や「整備管理の責任者」を選任しなければならない。
図表1 道路運送法で認められている旅客輸送事業の区分
因みに、実際に地域の道路を見ると、デイサービスのワゴン車や温泉、幼稚園、病院、商業施設等の送迎バス等、白ナンバーで利用者等を乗せて走っている車が多数あるが、送迎のための追加料金を受け取らなければ、無償とみなされるため、道路運送法上の許可・登録は不要とされている。

ただし実際には、デイサービスの場合、送迎がなければ介護報酬が減算されるし、その他の送迎バスも、運行管理のコストは事業経費に含まれ、サービス料金や商品価格等に転嫁されていると考えられるため、実態は無償とは言えない。
 
このような旅客輸送制度の下で、各地域の交通ネットワークがどのような状況かというと、一部の都市部を除いて公共交通は衰退している。バス路線が廃止、縮小されたり、タクシー営業所が撤退した地域もある8。また近年、交通事業者の間では、ドライバー不足が深刻化している。さらにコロナ禍で公共交通の利用が減り、交通事業者の経営は悪化している。自治体からの赤字補填が上昇し、自治体財政もひっ迫している。自家用有償旅客運送は、道路運送版の「限定免許」とも言えるものであるが、導入しやすい仕組みになっていないため、2006年度に創設されて以来、実施団体はほとんど横ばいである9。現状では、公共交通を補完できていない。
 
公共交通の供給が減る一方で、高齢者に使いやすい移動サービスへの需要は高まり続けている。高齢化の進行、障害者の増加、要支援・要介護認定者の増加、認知症の人の増加、高齢者のみ世帯の増加で、送迎できる家族がいない高齢者が増えたことなどが要因である。

筆者が全国の道府県都・政令市の介護保険法関連の調査を独自に集計、ランキングした結果でも、高齢者が抱えている困りごとや生活ニーズでは、「送迎、公共交通の充実」がダントツのトップだった10。東京23区を対象としたランキングでも、「送迎、公共交通の充実」が5位にランクインした11。また、要介護の高齢者については、厚生労働省による集計の結果、「在宅生活を継続するために必要なサービス」は、いずれの規模の市区町村においても、トップが「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」、2位が「外出同行(通院、買い物等)」だった12
 
このように、高齢者や要介護者の移動手段確保は、切迫した状況にある。各地で高齢ドライバーの事故が相次いでいるのに、免許返納が進まないという現実に表れている通りである。もはや、移動サービスへの需要を、緑ナンバーの車だけで満たしていくことは現実的に難しい。今後、自家用車の活用拡大は避けられないだろう。2020年に改正された地域公共交通活性化再生法でも「地域資源の総動員」が謳われている。問われているのは、具体的にどうやって「総動員」するかである。
 
前述したように、実は、白ナンバーで他人を「無償」で送迎している事業者は、既に各地域に存在する。デイサービス施設や、温泉、幼稚園、病院、商業施設等の送迎バスなどである。これらの事業者は、既に車両と運転人員を所有・管理しているため、送迎対象や時間帯、エリアを少し拡大して、地域の高齢者等も有償で送迎できるようになれば、追加費用を抑えて、地域の交通ネットワークを補完できる可能性がある。新たにドライバーを雇用する必要がないため、交通事業者が直面しているドライバー不足の問題も、それほど大きな問題にはならない。また、デイサービス施設に住民の送迎を担ってもらえれば、ニーズが高まっている要介護高齢者の介助まで行うことができる。問題は、住民の送迎にかかる費用分担をどうするかである。
 
現状で、白ナンバーを地域住民の送迎に活用している先行事例を見ると、病院や自動車教習所の送迎バスに善意で住民を無償送迎してもらっている事例や、市が委託費を支払って、老人福祉施設の送迎バスに住民を無償送迎してもらっている事例などがある13。しかし、いずれの費用負担の仕組みも、持続可能とは言えない。白ナンバーの事業者の善意に頼って、住民を無償送迎させてもらう方式では、事業者側に運行費や人件費等の負担を強いるため、協力が得られる事業所は限定される。実際に、住民の送迎を開始したものの、撤退したというケースも見られる。また、自治体が事業者に委託費を支払って住民を無償送迎してもらう方式では、補助金が増えて税金の負担が増えるのに、受益者負担が無い、というバランスの問題も発生する。そしていずれも、安全確保の問題が残る。

地域で移動サービスが必要な人に「輸送資源の総動員」を実現し、持続可能な形で送迎を継続するためには、利用したい住民と、送迎する事業者・団体、そして全体をとりまとめる自治体側に、いずれもメリットがある、ウィンウィンになる仕組みを考えなければならない。白ナンバーであっても、動員するためには、対価が必要である。ただし、安全確保をどうするかが最大のネックになる。
 
そこで、白ナンバーによる送迎の安全確保を補う可能性があるのが、安全運転支援システムだというのが筆者の考えである。前述したように、道交法改正で、サポカー限定免許の対象となっている車種は、事故リスクを低減させる効果を持つからである。デイサービス施設や、温泉、幼稚園、病院、商業施設等の送迎バスは、現在でも実質、利用者の有償送迎を行っているのだから、車両に安全装備を搭載すれば、今よりむしろ安全性が向上するとも言える。

勿論、輸送に必要な安全確保措置は、ドライバーの運転技術だけではない。当該事業者における責任者の配置や指示系統の確保、運行管理者や整備施管理者の配置、点呼、安全管理規定、教育指導や事故報告の責任体制など、様々なものがある。これらの対策をどうするかは検討が必要であるが、例えば現在でも、道路交通法上、定員11人未満の車両5台以上を所有する事業者などは、安全運転管理者を選任し、運行計画の作成や交通安全教育、点呼や日常点検などを行うなど、一定の安全確保策を講じている。今年4月からは、ドライバーのアルコールチェックも義務付けられ、管理は強化されている。また「事故報告体制」の関係では、7月から、アクセルやブレーキ操作の記録装置(EDR)の搭載が新型車両に義務付けられ、より正確な事故報告が行われることになる。まずは、これら既存の安全対策を土台として、サポカー等による有償送迎の仕組みを検討していくことができるのではないだろうか。
 
目線を産業界に移すと、SDGsや地域貢献を掲げる企業は多い。特に、デイサービスの運営主体として多い社会福祉法人は、「地域における公益的な取組」が社会福祉法上、責務とされている。そのような企業・団体が、所有管理する車両や人員を活かして、地域で移動に困っている高齢者等を、買い物や通院に有償で送迎することができれば、大きな追加負担なく、地域貢献する道ができる。送迎を通じて、地域住民との接点が増え、本業にもプラス効果をもたらす可能性がある。高齢者にとっては、外出手段が確保でき、健康状態の維持改善や介護予防につながり、自治体にとっては介護給付費抑制や地域の持続可能性向上につながるだろう。

また、サポカーに必要なレーザーや高性能カメラ等は、自動運転技術にも使われることから、結果的に、自動運転の社会実装の早期実現につながる可能性もある。
 
改正道交法が施行されたが、高齢者に運転技能検査を課し、免許更新のハードルを上げるだけで、免許返納後の移動の受け皿を用意できなければ、高齢者を追い詰めるだけである。今は運転ができている人も、「将来、この町に住み続けられるか」と大きな不安を抱えるだろう。

国が進める「地域包括ケア」は、老後も住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを続けられる社会を目指している。そうであれば、日常生活に必需性のある「移動」についても、環境を整備しなければならない。高齢者等が利用しやすい移動サービスを増やし、安心して地域で暮らし続けられるように、旅客輸送制度も、技術の進歩、車の高度化を評価し、活用した仕組みに見直していくべきではないだろうか。
 
1 限定免許創設に至った直接的な背景には、高齢ドライバーによる重大事故に対する社会的な関心が高まり、政府の関係閣僚会議で2度に亘って当時の安倍首相から検討を指示されたことなど、政府としての方針があった。
2 警察庁HP「サポートカー限定免許について(令和4年5月13日以降)」
3 衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、車線逸脱警報、先進ライトを搭載。
4 ASV推進検討会「第6期ASV推進計画」パンフレット。
5 警察庁「高齢者の特性等に応じたきめ細かな対策の強化に向けた運転免許制度の在り方等に関する調査研究」分科会第2回会議(2018年3月7日)配布資料、一般社団法人日本自動車工業会HP。
6 技術の進展に合わせた近年の改正としては、今年4月から、従来は対面が原則だったドライバーの点呼について、営業所の優良性に関わらず、ITを活用した遠隔点呼ができるようになった点がある。
7 関東運輸局長公示(2001年)「一般乗合旅客自動車運送事業の許可及び事業計画変更認可申請等の審査基準について(2001年12月27日)
8 坊美生子(2021)「高齢者の移動支援に何が必要か(上)~生活者目線のニーズ把握と、交通・福祉の連携を~」(基礎研レポート)
9 坊美生子(2022)「デイサービス車両は高齢者の移動を支える「第三の交通網」を形成できるか(中)~群馬県発「福祉ムーバー」の取組から~」(ジェロントロジー対談)。
10 坊美生子(2022)「高齢者の生活ニーズのランキング首位は移動サービス(道府県都・政令市編)~市町村の「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」「在宅介護実態調査」集計結果より~」(基礎研レポート)
11 坊美生子(2022)「高齢者の生活ニーズのランキング首位は見守り、要介護者の首位は移動サービス(東京23区編)~各区の『介護予防・日常生活圏域ニーズ調査』『在宅介護実態調査』集計結果より~」(同)
12 坊美生子(2022)「高齢者の生活ニーズのランキング首位は移動サービス(道府県都・政令市編)~市町村の『介護予防・日常生活圏域ニーズ調査』『在宅介護実態調査』集計結果より~」(同)
13 国土交通省関東運輸局交通政策部(2020)「福祉輸送・スクールバス等の実態及び多様な輸送モードの連携の確保に向けた施策に関する調査業務報告書」
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
ジェロントロジー、交通政策・移動サービス、労働

(2022年08月05日「研究員の眼」)

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