2023年04月21日

「みなし入院」による入院給付金支払の収束について-感染症法上の取扱い変更に伴い、入院給付金支払も終了-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナウイルス」)の感染拡大、それに伴う保健所や医療機関の逼迫により、病院ではなく、宿泊施設や自宅等で安静・療養を行ういわゆる「自宅療養」が発生することとなり、保険会社では、「自宅療養」の場合においても、病院等への入院とみなして入院給付金を支払う取扱い(いわゆる「みなし入院」)、を、2020年4月より開始している。その後、オミクロン型以降の状況変化や、政府による新型コロナウイルス感染症に係る発生届の対象範囲の見直し等を踏まえ、各社では支払対象等の見直しを行い、2022年9月26日以降、「重症化リスクの高い方」に限定する等の取扱いの変更を行っている1

そのような中、2023年1月27日付で厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より事務連絡が発出され、特段の事情が生じない限り、令和5年5月8日から新型コロナウイルス感染症については、5類感染症に位置付ける、との方針が示された。

保険会社各社でも「みなし入院」の取扱いについて、検討を重ねてきたものと考えられるが、今般、2023年4月12日以降、生保大手各社等では、「みなし入院」の取扱い収束について、プレス発表を行っている。ここでは、5月8日降の取扱いの変更点や考えられる留意点等について、説明したい。

なお、ここでの記載内容は、あくまで筆者の個人的見解に基づくものである。
 
1 2020年4月以降の「みなし入院」の取扱い、ならびに2022年9月26日以降の取扱い見直しについては、小著「新型コロナウイルスと保険金支払」『基礎研レポート』(2022年4月26日)、「「みなし入院」に対する入院給付金、支払対象見直しへ」『基礎研レポート』(2022年9月9日)にて紹介している。

2――現在(5月7日以前)の取扱い

2――現在(5月7日以前)の取扱い

2020年4月に取扱いを開始した「みなし入院」への入院給付金支払は、オミクロン型以降の感染の急拡大による保健所や医療機関の逼迫、重症化率の低下等を受けた、政府による「新型コロナウイルス感染症に係る発生届の対象範囲の見直し」(いわゆる「全数把握」の見直し)に伴い、2022年9月26日より、支払対象等について、見直されることとなり、現在に至っている。
 
<「みなし入院」による入院給付金等の支払対象>(2022年9月26日以降)
9月26日以降に新型コロナウイルス感染症と診断された方のうち、保健所への発生届の対象となる重症化リスクの高い以下の方

(1) 65歳以上の方
(2) 入院を要する方
(3) 重症化リスクがあり、新型コロナ治療薬の投与または新型コロナ罹患により酸素投与が必要な方
(4) 妊娠されている方
 
なお、診断年月日が9月25日までであれば、請求が9月26日以降であった場合でも、従前どおり重症化リスクの高い方以外に対しても入院給付金が支払われる2。保険会社各社が上記見直しを発表した直後は、「9月25日までに請求を行わなければ給付金の支払い対象にならないのか」との照会が多く発生した3
 
2 なお、約款上、保険金等の時効は3年と定められているのが一般的であるが、一部の会社では、請求に必要な書類の提出があれば3年を越えて請求があった場合も支払っている。
3 大手生保を始めとする多くの会社は、上記見直しについて、2022年9月9日に公表したが、2022年9月26日付保険毎日新聞「生保協会 定例会見 「デジタル社会の将来報告書」など説明 みなし入院見直しで顧客の理解得る考え示す」では、同9月16日に行われた稲垣生保協会長による会見の様子を取り上げており、「稲垣協会長は、既に新型コロナウイルス感染症に罹患した顧客から「9月25日までに請求を行わなければ給付金の支払い対象にならないのか」といった問い合わせが多く寄せられていると述べ、9月25日までに新型コロナウイルス感染症と診断された人は、9月26日以降も給付金を請求できることを強調した。」と報じられている。

3――現在取扱いの見直し

3――現在取扱いの見直し

1感染症法上の取扱い見直し
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけについて、見直すべきとの議論は以前からもあった4が、令和5年1月27日付で厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より、事務連絡「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更等に関する対応方針について(情報連携)」が発出され、オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなどの特段の事情が生じない限り、令和5年5月8日から新型コロナウイルス感染症については、「5類感染症」に位置付ける、との方針が示された5
【図表1】感染症法上の主な対応例(2023年4月21日現在)
 
4 例えば、日本経済新聞社と日本経済研究センターが2022年2月に緊急提言を取りまとめた他、同年6月14日東京都医師会より感染症法上、「指定感染症5類感染症全数把握対象疾患相当」の新設案の提示、同7月14日付新型コロナウイルス感染症対策分科会「第7波に向けた緊急提言」等。
5 同事務連絡では、「今後、オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなど、科学的な前提が異なる状況になれば、ただちに対応を見直すこととしています。」とされている。
2「みなし入院」についての取扱い見直しの動き
上記の政府における動きに伴い、生保会社等でも検討を進めていたものと考えられるが、4月10日付で生命保険協会から、会員各社宛に、現在の「みなし入院」についての取扱いについて、見直すことについての、以下を骨子とする文書が発出されたもようである。
【令和5年4月10日付 生命保険協会からの会員会社宛文書の骨子】6

・今回の位置づけ変更に伴い、特段の事情の変更がなければ、新型コロナウイルスについては、感染症法に基づく「入院措置・勧告」等が適用されないこととなるため、会員各社においては、顧客の混乱が生じないように適切な周知期間も考慮して、必要と判断される対応があれば、検討いただきたい。

・厚労省事務連絡において、5月7日までの発生届出者については、My HER-SYSの療養証明書機能は9月末まで利用可能である旨、示されており、会員各社においては、引き続き、医療機関・保健所の負担軽減に充分に配慮し、My HER-SYSの療養証明を利用した早期のご請求をお客さま等に推奨いただくなど、丁寧な対応を行うようお願いする。

 
6 上記生命保険協会発出文書には、『「みなし入院」は、医療機関の逼迫等、当時の状況を踏まえ、顧客保護の観点から、約款上は入院の定義にあたらないものについて、「入院」と同様に取り扱う特別取扱を、時限的な措置として取り扱ってきた』との、「みなし入院」に対する生保協会の認識も記載されている。

4――5月8日以降の取扱い

4――5月8日以降の取扱い

生命保険協会からの上記文書を受け、各社は、5月8日以降、「みなし入院」の取扱いを収束する方向で検討、大手生保を中心に、取扱いをプレス発表している。
1「みなし入院」の取扱いの収束
大手各社では、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけについて、令和5年5月8日から、これまでの「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」に変更されることに伴い、季節性インフルエンザと同様に、「入院勧告・措置」等の対象外となることから、同日以降に新型コロナウイルスと診断された場合の「みなし入院」の取扱いについて、収束することとしている。
【図表2】入院給付金のお支払い対象
2保険会社や商品によって異なる災害死亡保険金等の取扱い
これまで各社とも、新型コロナウイルスを直接の原因として、死亡・高度障害状態に該当した場合は、災害死亡保険金等の支払対象としていたが、5月8日以降は、保険会社や保険商品によって、取扱いが分かれることとなる。

大手生保では、個人保険・財形保険では、5月8日以降は、新型コロナウイルスを直接の原因とした死亡・高度障害状態に該当した場合においても、災害死亡保険金等の支払対象外とする会社が多いが、約款規定により、引き続き、支払対象とする会社もある7

また、災害保障特約、傷害特約等の特約が付加された団体定期保険等については、当面は支払対象とされている8
 
7 大手4社中、明治安田生命は、新型コロナウイルスを直接の原因とした死亡・高度障害状態に該当した場合でも引き続き、災害死亡保険金等の支払対象とする、としている(明治安田生命「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う入院給付金・入院治療給付金等の取扱いについて」2023年4月12日)。
8 あくまでも筆者の推測だが、個人保険と異なり、団体定期保険は1年更新であり、更新時での取扱い変更が可能であることもあり、新型コロナウイルスや取り巻く状況、顧客宛の周知・説明のための期間等を見定めた上で、改定タイミングを検討しようとしているのではないかと考えられる。
3My-HER-SYSを利用した早期請求の協力依頼
保険会社各社では、入院給付金請求時の必要書類として「My HER-SYS」で取得した画面での療養証明(診断年月日が記載された画面)を認めているが、一部保険会社では、プレスリリース上、『ご請求にあたってのお願い』として、My-HER-SYSを利用した早期請求のご協力依頼を記載している。

入院給付金請求時必要書類として「My HER-SYS」は広く使われているが、上記の通り、厚労省事務連絡にて、「My HER-SYS」での療養証明書機能の利用は、一旦、9月末まで、と示されていることから、留意が必要であろう。
<ご請求にあたってのお願い>(日本生命の例(一部抜粋))

・厚生労働省より9、My-HER-SYSの療養証明書機能について、2023年5月7日まで10に保健所への発生届出・入力がなされている場合には同年9月末まで利用可能と発表されています。同年10月以降の利用については未定となっている11ことから、医療機関・保健所の負担軽減に充分に配慮していく観点より、My-HER-SYSの療養証明を利用した早期請求にご協力いただきますようお願い申しあげます。

 
9 2023年3月17日付厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制の移行及び公費支援の具体的内容について」。
10 なお、同事務連絡では、「5月8日以降については、感染症法に基づく入院措置・勧告、外出自粛要請はできないため、 同日以降の患者について、感染症法に基づく療養期間を証明する書類を発行することはできない。」とされている。
11 なお、同事務連絡では、「10月以降のHER-SYS上のデータの取扱い等については追ってお示しする。」とされている。

5――おわりに

5――おわりに

以上、主に5月8日以降の「みなし入院」に対する入院給付金等の取扱いの概要について述べてきた。新型コロナウイルスの感染拡大により、医療機関・保健所の逼迫に伴い発生した宿泊施設や自宅での療養に対して、約款上の入院の定義には該当しないように見えるものの、当時の社会的要請に応えるべく、特別対応として入院給付金の支払対象と取り扱ってきたものと考えられるが、感染症法上の取扱いがこれまでの「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」に位置づけが変わることにより、「入院措置・勧告」等も適用されなくなってしまうことから、「みなし入院」への入院給付金支払の収束については、自然な流れと考えられる。

このように、今般の収束対応が感染症法上の取扱い変更に伴い発生するものとはいえ、顧客にとってはこれまでと比べると見かけ上は不利な取扱変更にも見えるため、トラブル回避のためにも、顧客や見込み客に対する丁寧な説明・周知が必要となろう。5月8日の一か月近く前のプレス発表となったのも、顧客への周知に時間をかけたい、との保険会社の思いがあったものと考えられる12

一方、災害死亡保険金等については、各社間で取扱いが異なるのみならず、同じ会社の商品でも個人保険・団体定期保険といった商品間で取扱いが異なるケースがあり、複雑である。自らが加入している商品・会社の約款やHPを参照して、正しく把握しておく必要があろう。

また、現在では広く普及している「My HER-SYS」の療養証明書機能の利用が、一旦は9月末まで、とされていることも、留意が必要意である。10月以降の取扱いは追って示されることとされているが、入院給付金の支払対象者が請求できなくなるといった事態の発生は避けなければならず、今後の動向が注目される。

さらには、これまでの傾向と異なり、強毒性の型が発生した場合や、新型コロナウイルスとは別の疾病が発生、感染拡大した場合は、政府、保険業界は、これまでの経験をどう活かしていくのか。

「みなし入院」による入院給付金支払は、5月8日をもって取扱いを収束することとなるが、上記の通り、収束後の課題や留意点も多く、今後の動向には引き続き注視していきたい。
 
12 「「みなし入院」給付、廃止で決着 金融庁・生保、水面下の攻防 コロナ療養、公表時期巡り調整難航」日本経済新聞2023年4月14日等でも、生保業界は早期の決定、周知開始に向けて取組んできたことが報道されている。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年04月21日「基礎研レポート」)

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