2023年04月21日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(2)~都心は過去10年で83%上昇、価格に先行性も。タワーマンションは69%上昇。東京23区全体並みの伸びに留まる。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

前回のレポート1では、東京23区における新築マンション市場の需給環境を確認した後、新築マンションの販売データを用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し、その価格動向について述べた。

「新築マンション価格指数」でみる東京23区の新築マンション価格は、次の3つのフェーズに分類できる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇期(不動産ファンドバブル期)」(以下、上昇フェーズI)、2つ目は、「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落期(東日本大震災を含む)」(以下、下落フェーズII)、3つ目は、「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇期」(以下、上昇フェーズIII)、である。直近2022年の価格指数(2005年=100)は「192.4」となり、アベノミクスがスタートした2013年以降、過去10年間で+69%上昇した(図表-1)。

本稿では、「新築マンション価格指数」のサブインデックスとなる「エリア別価格指数」と「タワーマンション価格指数」を算出し、その動向について解説する。
図表-1  「新築マンション価格指数」 (東京23区)(2005年=100、年次)
 
1 吉田資『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年4月11日

2. 「エリア別価格指数」の算出

2. 「エリア別価格指数」の算出

以下では、東京23区を、居住世帯等の特徴が異なる4つのエリア(都心2・南西部3・北部4・東部5)に分類し(参考資料1)、「エリア別価格指数」を算出した6。算出結果をみると、全てのエリアが、「東京23区」と同じく、「上昇フェーズI」→「下落フェーズII」→「上昇フェーズIII」のトレンドで推移している。2022年の価格指数(2005年=100)は、都心が「213.9」、南西部が「186.6」、東部が「179.0」、北部が「174.3」となり、都心のみ、東京23区(192.4)を上回る結果となった(図表-2)。
図表-2 「新築マンション価格指数」(東京23区、都心、南西部、北部、東部)(2005年=100、年次)
各フェーズ(I~III)における価格変動率をみると(図表-3)、「上昇フェーズI」では、都心(+36%)>南西部(+30%)>東部(+28%)>北部(+21%)の順に上昇率が大きい。次に、「下落フェーズII」では、エリア毎に大きな違いはみられなかった(▲11%~▲14%)。最後に、「上昇フェーズIII」では、都心(+83%)>南西部(+68%)>北部(+62%)>東部(+58%)の順に上昇率が大きい。

都心は他のエリアと比較して、価格上昇期に大きく上昇した結果、通期(2005年~2022年)での上昇率が最大となっている。
図表-3 「エリア別価格指数」の変動率
価格上昇局面において、都心の価格上昇率が大きい理由として、新築マンションの主な購入層である、「夫婦のみの世帯」と「未就学児のいる夫婦世帯」が、同エリアにおいて大幅に増加していることが挙げられる(図表-4、図表-5)。都心では、2005年から2020年にかけて「夫婦のみの世帯」が+28%増加、「未就学児のいる夫婦世帯」が+86%増加し、他の3つのエリアを大きく上回っている。

さらに、都心では、価格上昇局面に新規供給戸数が減少しており(参考資料2)、エリアの需給が引き締まったことで、新築マンション価格が大きく上昇したと考えられる。
図表-4 エリア別の「夫婦のみの世帯」(2005年=100)/図表-5 エリア別の「未就学児のいる夫婦世帯」(2005年=100)
また、各フェーズ(I~III)において、価格のピーク時期と価格のボトム時期を確認すると(図表-6)、「上昇フェーズI」では、都心が「2007年下期」にいち早くピークを付け、「下落フェーズII」では、都心が「2011年下期」にいち早くボトムを付けている。このように、都心は他のエリアに先駆けて価格の転換期を迎える、価格の先行性が認められる。現在の「フェーズIII」における転換期を見極めるためにも、今後の都心の価格動向を注視したい。
図表-6 「新築マンション価格指数」(東京23区、都心、南西部、北部、東部)(2005年上期=100、半期)
 
2 都心:「千代田区」・「中央区」・「港区」・「渋谷区」・「新宿区」・「文京区」
3 南西部:「品川区」・「目黒区」・「大田区」・「世田谷区」・「杉並区」・「中野区」
4 北部:「北区」・「板橋区」・「練馬区」・「豊島区」
5 東部:「江戸川区」・「江東区」・「台東区」・「墨田区」・「荒川区」・「足立区」・「葛飾区」
6 作成手法は、前回レポートの「3. 「新築マンション価格指数」の作成」を参照されたい。

3. 「タワーマンション価格指数」の算出

3. 「タワーマンション価格指数」の算出

東京23区では、「タワーマンション」を含む15階建て以上の高層分譲マンションに居住する世帯が大きく増加している(参考資料3)。以下、本章では「タワーマンション価格指数」を作成し、市場動向を把握する。

建築基準法において、高さ60mを超える建築物については、特殊な構造計算が必要とされ、国土交通大臣による認定が必要と定められている。高さ60m2を超えるのが概ね20階以上であることから、一般的に、20階建て以上のマンションは「超高層マンション」と呼称される7。そこで、階建て20階以上のマンションを「タワーマンション」と定義し、価格指数を作成した。

算出結果をみると、「タワーマンション価格指数」は東京23区と同じく、「上昇フェーズI」→「下落フェーズII」→「上昇フェーズIII」のトレンドで推移している。2022年の価格指数(2005年=100)は「220.6」となり、東京23区(192.4)を上回る結果となった。
図表-7 「タワーマンション価格指数」 (2005年=100、年次)
各フェーズ(I~III)における価格変動率をみると(図表-8)、「上昇フェーズI」では、「タワーマンション」が+40%上昇し、東京23区の上昇率(+30%)を上回った。次に、「下落フェーズII」では、「タワーマンション」は▲7%下落し、東京23区の下落率(▲13%)を下回った。最後に、「上昇フェーズIII」では、「タワーマンション」と東京23区の上昇率はともに+69%であった。
図表-8 「タワーマンション価格指数」の変動率
タワーマンションは、実需層による購入に加えて、その資産性に着目した国内外の投資資金が流入している。三菱地所レジデンスが東京湾岸部のタワーマンション購入者に行ったアンケートによれば、「購入目的」について、「自己居住用」が61.2%、「投資用」が29.5%であった。また、近年は円安進行に伴い、海外の個人富裕層による購入事例も増えているようだ8

東京23区では、タワーマンションの新規供給戸数は減少傾向にあり(参照資料4)、良好な需給環境を背景に、対2005年比で約2.2倍に価格が上昇したと考えられる。

一方で、アベノミクス以降は東京23区と同水準の価格上昇に留まっている。東京23区ではタワーマンションのストック量が拡大し希少性が薄れつつあることや、住戸の多さゆえ合意形成や管理組合運営の難しさ9、等が影響している可能性がある。
 
次回のレポートでは、新築マンション価格の決定構造が過去20年間でどのように変化してきたかを確認したのち、新築マンション市場の今後の方向性について整理したい。
 
7 村島正彦「超高層マンションの歴史と展望」後藤・安田記念東京都市研究所 都市問題 2018 年10月号。
8 日本経済新聞「国内不動産、海外個人も熱富裕層のマネー流入 都心10億円物件、一括購入」2022/12/2
9 日経産業新聞「大規模修繕やや遅れ気味、タワマン、合意形成難しく。」2021/7/2
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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