コラム
2021年07月30日

賃貸マンション市場の動向-収益性安定で着工増、数年後の需給バランスには注意が必要か

金融研究部 准主任研究員   渡邊 布味子

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1.はじめに

コロナ禍の不動産市場では、賃貸マンション、物流施設、開発用地への投資が活発になってきている1。なかでも賃貸マンションに対する国内外の機関投資家等の投資姿勢は積極的である。注目度が高まっている賃貸マンションについて、売買、賃貸、建設の3面から賃貸マンション市場を確認し、今後を考えてみたい。

2.賃貸マンションの売買取引が増加している

Real Capital Analyticsによると、賃貸マンションの売買取引(1取引当たり1千万ドル以上)は、2019年度には約6,700億円(前年比+78%)であったが、2020年度はさらに増加し、約9,200億円(同+37%)となった(図表1)。2020年度の賃貸マンションの売買取引が不動産売買市場全体に占める割合も、21%(前年12%)となった。

一般的に、個々の賃貸マンションは、オフィス・商業施設等の商用不動産に比べて投資規模が小さく、従来は大規模な投資家にとっては投資対象になりにくい傾向があった。しかし、近年では数棟から数十棟の賃貸マンションのポートフォリオを組成して投資総額を大きくし、賃貸マンションをまとめ買いする取引が増加している。

国内資本については、コロナ禍以前から、オフィスやホテル等の投資適格物件の減少に応じて、賃貸マンションも前向きに投資対象としてきた。これに加えて、2020年の外国資本による賃貸マンションの取得が、5,891億円と2018年の約7.4倍となるなど、コロナ禍前後から外国資本による投資が積極的になっていることが、賃貸マンションの取引総額を大きく引き上げている(図表2)。

また、外国資本は、多額の不動産取得用予算を持っていることが多い。外国資本による賃貸マンションへの積極投資は今後もしばらく継続することが見込まれ、外国資本への転売をあてにした国内資本による建設や物件取得も増加すると見込まれる。
図表1 賃貸マンションの売買総額(年度別)/図表2 賃貸マンションの取得総額(資本別、年別)

3.賃料水準が安定、賃貸マンション用地へ投資しやすい状況が続く

賃貸マンションが投資家に人気の原因の一つは、世界的に安定したキャッシュフローが期待できるセクターを選好する投資家が増加していることにある。東京都心5区の賃貸マンションの賃料水準は、新宿区では2019年初以降、それ以外の区は2020年初以降はほぼ横ばいの傾向にあり、ピークは越えたが一定水準から下がっていない(図表3)。さらに、コロナ禍下でも日本国内の賃貸マンションでは従来より延滞がほとんど発生していないことから、コロナショックの下でも安定した収益を獲得できることが再確認され、国際的にも収益の安定性が印象づけられている。

また、東京都心5区の賃料を見ると、2018年から2020年初までは港区が一強で、港区の賃料水準は群を抜いて高かった。しかし、現在は渋谷区と港区の二強で安定しつつあり、この2区の賃料水準は月額の坪単価が1.9万円程度で推移している。今後、高い水準の賃料が得られるエリアが広がれば、設備やスペックがより良い賃貸マンション用の適地が多くなり、相対的に数の少ない高級賃貸マンションが建設される範囲も広がり、賃貸マンション市場全体の収益性を高める可能性がある。
図表3 東京都心5区の賃貸マンションの平均募集賃料(坪)

4.貸家の着工も増加をし始めている

以上のような賃貸マンションの売買取引の増加と収益性の安定を背景に、貸家の着工戸数も増加している。これまで貸家の着工戸数(月次)は、前年比でマイナスという状況が、2017年6月から2018年7月までの14カ月、および2018年9月から2021年2月までの30カ月と、4年近く続いていた。それが、2021年3月以降は3カ月連続で前年比プラスに転じている(図表4)。

建設計画は、計画時点で、収益性が高く、完成物件の需要が高い用途が選ばれることが多い。現状において賃貸マンションの賃料水準は高値に安定しており、今後も旺盛な投資需要が見込まれることから、賃貸マンションの着工戸数は、今後も増加すると見込まれる。

なお、12カ月移動累計で見てみると、2021年5月は約30.7万戸と、直近のピークであった2017年5月の7割程度であり、まだまだ増加の余地はありそうだ(図表5)。
図表4 貸家の着工戸数(月次)/図表5 貸家の着工戸数(12ヶ月移動累計)

5.数年後に賃貸派に良い時代がくるかもしれない

ただし、今後の需給バランスについては懸念もある。現在の賃貸マンションは、デベロッパーの目線で見れば、購入したいという投資家が市場に多く存在するため、開発しても投資資金を安全に回収できる可能性が高く、投資対象として選択しやすい。また、賃貸マンションは、オフィスやホテルなどの商業系用途と比べて投資規模が小さく、適地も多い。相対的に建設計画の策定も容易で、参入障壁も低く、個人投資家から大規模資本の投資家まで、デベロッパーとなりうる層が厚い。

もし、多数のデベロッパーが同時並行的に次々と賃貸マンションを建設することになった場合、データ等を見て需要に見合った適正な供給量を見極めたり、開発スタート後に供給過剰や需要減に合わせて建築を延期したり中止することは、資金繰りや再施工者の手配が難しく、実際は極めて困難であると言える。そうなった場合、数年後には、過去の事例と同様に実際の需要よりも賃貸マンションを作りすぎてしまう可能性がある。

一方で、賃借する入居者側から見ると、多くの賃貸マンションが建設されれば、設備の内容や立地といった物件の条件の他、賃料の面でもニーズに合った選択肢が増えることになる。

これから数年後には、賃貸派の人にとって良い時期が来るかもしれない。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

(2021年07月30日「研究員の眼」)

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