2020年12月11日

2020年末を前に、不動産売買市場の動向を考える-東京の築浅賃貸マンションに集まる資金、バブル懸念も

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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■要旨

2020年末を前に、不動産市場の動向を考えてみたい。現在、インバウンド需要を背景にしてきたホテルセクターのダメージは極めて大きい。政府が実施するGo Toトラベルキャンペーンの利用客は、宿泊料金の高い高級ホテルや旅館を優先して予約する傾向が見られ、絶対数の多い安価なビジネスホテルでは、稼働率と宿泊料金がコロナ禍以前への回復には程遠い状況が続いている。
 
不動産市場は不安な状態を抱え続けており、売買総額も売買件数も停滞が起きている。例年の傾向からいえば、年末の駆け込み取引は少ないと予想され、2020年通年の売買総額は前年比で▲2割前後に収束するのではないだろうか。
 
また、物流施設、住宅(賃貸マンション)など安定的とみられるセクターには投資需要が集中し、特に住宅セクターが占有率を伸ばしている。2020年10月までに取引された賃貸住宅の属性は、2019年に比べ、築浅、東京の物件が選好されており、ポートフォリオ売買も増加するなど属性に変化が生じている。

ここから、次のような傾向があると考えられる。

(1) 投資家の投資方針が保守的に変化している。
(2) 賃貸マンション投資へ大型の資本が流入してきている。
(3) 買い主が外資への転売を目的にポートフォリオを組成している
(4) 短期転売目的の投資家も東京の新築・築浅の物件に魅力を感じている
 
一方、金融緩和が続く状態では不動産の価格は上昇する方向に動きやすい 。各国政府は、当面は金融緩和を続けざるを得ない状況にあり、不動産にとってはプラス要因となる低金利も継続するとみられ、積極的な値下げは行われにくいだろう。現在、投資資金は「東京にある築浅の賃貸マンション」に集中している。不動産全体の収益性が低下する一方で、物件取得競争が過熱すれば、新たなバブルが生じかねない。
 
これから物件を保有する者や、これから不動産取引をしようとする者は、見映えは良いが実際は収益力がない物件を購入しないよう、より物件自体の競争力への目利きを求められることになるのではないだろうか。

■目次

1. はじめに
2. 収益性が低下するホテル・商業セクター
3. 売買総額は大幅減、一部のセクターに資金が集中
4. 取引された物件の属性に変化
5. 金融緩和は継続、バブル懸念も
6. まとめ
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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