2023年04月11日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(1)~良好な需給環境と低金利を背景に、東京23区の新築マンション価格は過去10年間で+69%上昇

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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2-6. 新築マンション購入層の動向~「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる世帯」が需要を支える
リクルート住まいカンパニー「首都圏新築マンション契約者動向調査」によれば、首都圏における新築マンション購入者の世帯構成は、「夫婦のみの世帯」が最も多く、次いで「子供あり(第1子小学校入学前)世帯」となっている(図表-12)。
図表-12 新築マンション購入者の世帯構成(東京圏)
総務省「国勢調査」によれば、2020年の東京23区の「夫婦のみの世帯」は80.4万世帯で2005年対比+19%増加した(図表-13)。また、「夫婦と子供から成る世帯(6歳未満の子供あり)」も2020年に32.3万世帯となり2005年対比+27%増加した(図表―14)。したがって、これらの世帯の増加が、東京23区における新築マンションの需要を支えていると考えられる。
図表-13 東京23区 「夫婦のみの世帯」数/図表-14 東京23区「夫婦と子供から成る世帯」数(6歳未満の子供あり)
2-7. 住宅ローンの動向~低金利による購入資金の負担軽減が、マンション購入を後押し
長期固定金利住宅ローンである「フラット35」の金利は、2005年から2008年にかけて2%前半から3%台へ上昇した後、低下に転じ、2016年には1%を下回る水準まで低下した。その後も概ね1%台前半で推移していたが、2022年に入りやや上昇している(図表-15)。

住宅金融支援機構「住宅ローン利用予定者調査」によれば、「今(今後1年程度)は、住宅取得の買い時だと思うか」という質問に対して、「買い時だと思う」との回答が「買い時とは思わない」との回答を、2021年10月調査まで上回る状況が続いていた(図表-16)。また、「買い時だと思う理由」として、「住宅ローン金利が低水準だから」との回答が最多を占める(図表-17)。このように、長期にわたる低金利がマンション購入資金の負担を軽減し、マンション購入を後押してきたことが確認できる。
図表-15 住宅ローン(フラット35)の推移/図表-16 住宅取得の買い時意識
図表-17 買い時だと思う理由

3. 「新築マンション価格指数」の作成

3. 「新築マンション価格指数」の作成

続いて、東京23区の新築マンションの価格動向について確認する。不動産は「同じものが一つとして存在していない」と言われる。したがって、ある時期において、品質が高く好立地に所在する物件が多く供給された場合、市場全体の平均価格は上昇することになるが、それをもって、マンション価格が上昇したとは必ずしも言えないであろう。そこで、本章では、東京23区の新築マンションの販売データ(2005年~2022年)を用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し、その動向を把握する。
3-1. 作成手法
「新築マンション価格指数」の作成手法は、地価分析などの不動産市場分析で多く用いられるヘドニック・アプローチを採用した。この考え方に基づき、以下の推定式を構築し、新築マンション価格への各説明変数が及ぼす影響を推定した。この推定結果をもとに、基準時点(2005年、2005年上期)を100とした価格指数(年次、半期)を作成した。
 
(推定式)
推定式
(新築マンション価格指数)
新築マンション価格指数
3-2. 算出結果
図表-18に、「新築マンション価格指数」(年次)の算出結果を示した。2005年以降の価格動向をみると、次の3つのフェーズに分類することができる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇局面(不動産ファンドバブル期)」、2つ目は「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落局面(東日本大震災を含む)」、3つ目は「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇局面」である。直近2022年の価格指数(2005年=100)は「192.4」となり、アベノミクスがスタートして以降の過去10年間で+69%上昇した。

人手不足に伴う建築コストの上昇やマンション用地価格の高止まりを背景に、マンションデベロッパーが慎重な供給姿勢を維持するなか、東京23区の新築マンションの新規供給は長期的に減少傾向にある。一方、マンション居住の意向が高まり、主なマンション購入層である「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる世帯」の増加が続くなか、低金利環境がマンション購入を後押している。この結果、東京23区の新築マンション市場は良好な需給環境が継続しており、リーマンショック後の価格下落局面(2009年~2012年)を除いて、長期にわたり価格上昇が続いていると考えられる。
図表-18 東京23区 「新築マンション価格指数」 (2005年=100、年次)
次回のレポートでは、「新築マンション価格指数」についてエリア別の動向や「タワーマンション価格」の動向を解説する。

補論

(補論)「新築マンション価格指数」と「平均価格・㎡単価」(不動産経済研究所公表)の比較

「新築マンション価格指数」と不動産経済研究所が公表する「平均価格」を比較すると(図表-19)、「2008年から2012年の期間」、並びに「2016年~2022年の期間」において、両者のかい離が広がっている。
図表-19 「新築マンション価格指数」vs.「平均価格」
また、「新築マンション価格指数」と「m2単価」を比較すると(図表-20)、両者の長期トレンドは概ね一致しているものの、単年度の変動率をみると「m2単価」の方が大きい傾向のほか、両者のかい離がみてとれる。例えば、2022年は「m2単価」が前年比+0.5%と上昇に一服感がみられる一方、「新築マンション価格指数」は前年比+7.6%となり上昇基調が強まっていることを示している。
図表-20 「新築マンション価格指数」vs.「㎡単価」
【参考資料】 図表-21 東京23区 「新築マンション価格指数」 (2005年上期=100、半期)
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年04月11日「不動産投資レポート」)

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