コラム
2023年03月31日

バックオフィス業務での「社内CRM」の重要性-社内CRMとベンダーマネジメントを両輪に

社会研究部 上席研究員 百嶋 徹

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「CRM」というビジネス用語をご存知だろうか。顧客と接することが多い営業やマーケティングを担当するビジネスパーソンや、それらを研究領域とする学識経験者の方々は、よくご存知のことだろう。「CRMとは『Customer Relationship Management』の略で、日本語では『顧客関係管理』と言い、顧客情報や行動履歴、顧客との関係性を管理し、顧客との良好な関係を構築・促進することを指す」1。時にCRMのためのITツールを指すこともある。クラウド型CRMソフトウェアの世界最大手は、米セールスフォース・ドットコムだ。

このCRMという用語が使われる際に、大半のケースでCRMの「C」は、当該企業の本業における「外部顧客」を指している。つまり、フロントオフィス業務においてCRMという言葉が使われることが、圧倒的に多い。

一方、経理・財務、人事・労務、IT、法務、管財(不動産管理)、物流2、総務などのバックオフィス業務(本社管理業務)はどうか。因みに筆者は、バックオフィス業務を、社内に専門的・共通的な役務を提供するという意味で「シェアードサービス型」業務と呼ぶことが多い。バックオフィス業務の直接の顧客は、本業の外部顧客ではなく、社内の経営層、事業部門、従業員など「社内顧客」だ。フロントオフィス業務における外部顧客に対するCRMの重要性は、今や産業界で当然のことのように認知されてきているが、バックオフィス業務においても同様に、社内顧客のニーズを十分に把握し、社内の顧客満足度(CS:Customer satisfaction)の向上につなげるための社内顧客との関係構築、言わば「社内CRM」が重要となるのだ。平たく言えば、バックオフィス業務では、「社内顧客に貢献してなんぼ」ということである。

バックオフィス業務は企業経営に勿論不可欠だが、事業戦略と整合性がとられて初めて機能するため、バックオフィス業務には、社内顧客にシェアードサービスを提供する「社内ベンダー」、すなわち社内顧客の「ビジネスパートナー」である、との発想が欠かせない。

企業がバックオフィス業務にしっかりと取り組むための入り口(準備)として、まず専門部署の設置および専任担当者の配置により、意思決定の一元化を図ることが望まれる。同時にIT活用によるバックオフィス業務に関わる情報・データの一元管理も欠かせない。これらの準備により、まず「バックオフィス業務マネジメント」の一元化を図るということだ。

バックオフィス業務には、高度な横断的専門知識が必要になることが多いため、その専門部署は、戦略的パートナーたりうる外部の専門機関(経理サービスベンダー、ITサービスベンダー、不動産サービスベンダー、物流サービスベンダーなどの外部ベンダー)の力を借りつつ、それらをコーディネートして、より高度な「バックオフィス・ソリューション」を社内顧客に提供していくことが求められる。その意味では、専門部署は、外部のサービスベンダーとのインターフェースを担って、社内顧客のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐリエゾン(橋渡し)機能を果たすことが、極めて重要となる。このリエゾン機能では、社内CRMとともに、外部ベンダーを使いこなす「ベンダーマネジメント」も非常に重要だ。

バックオフィス業務の専門部署がリエゾン機能を十分に果たし、より良いバックオフィス・ソリューションをコーディネートするためには、社内顧客から、バックオフィスサービスに関わる問題意識やニーズを的確に吸い上げて十分に把握し、そのニーズに対応するために社内に不足している知見・サービスを明確に特定した上で、外部ベンダーにサービス内容を発注し、外部ベンダーからの提案を検討・評価することが不可欠である。

その意味で「社内CRM」と「ベンダーマネジメント」は、バックオフィス業務の専門部署が果たすべきリエゾン機能の「クルマの両輪」を成す。この両輪がうまくかみ合うためには、社内CRMでは社内顧客と専門部署、ベンダーマネジメントでは外部ベンダーと専門部署の間の各々信頼関係・人的ネットワーク、いわゆる「ソーシャル・キャピタル」3が十分に醸成されていることが必要である。そのためには、専門部署が、社内CRMでは「社内ニーズ把握力・コミュニケーション力」、外部ベンダーの知見も取り入れたバックオフィス・ソリューションの「提案力(コンサルティング力)・実行力」を十分に備えること、ベンダーマネジメントでは、戦略パートナーとして最適な外部ベンダーを見極める「目利き力」を十分に備えた上で、外部ベンダーとの「戦略的パートナーシップ」の構築・深化を図ることが重要となるだろう。バックオフィス業務における「社内CRM」と「ベンダーマネジメント」の具体的な位置付けについての概念図として、不動産管理業務(CRE(Corporate Real Estate:企業不動産)管理業務)を例にとって図表に示す。

企業経営においては、本業に関わる事業戦略に目が行きがちだ。事業戦略は言うまでもなく重要だが、本業をしっかりと支えるバックオフィス業務が、良い意味での「縁の下の力持ち」「(社内顧客の)御用聞き」として、事業戦略とのセットで極めて重要であることに着目すべきだ。欧米の先進的なグローバル企業は、バックオフィス業務の専門部署の設置などにより、抜かりなくバックオフィス業務に取り組んでいる。日本企業は、欧米のグローバル企業と同じ国際競争の土俵に立つためにも、バックオフィス業務でも後れを取るべきではない。社内CRMとベンダーマネジメントの重要性を十分に理解し、一刻も早くバックオフィス業務の充実・進化に取り組むことが求められる。
図表 CRE(企業不動産)戦略のリエゾン機能における社内CRMとベンダーマネジメントの位置付け
 
1 セールスフォース・ジャパンWebサイトより引用。
2 物流は本業のバリューチェーンに直接関わるため、フロントオフィス業務の側面も併せ持つ。
3 ソーシャル・キャピタルとは、コミュニティや組織の構成員間の信頼感や人的ネットワークを指し、コミュニティ・組
織を円滑に機能させる「見えざる資本」であると言われる。「社会関係資本」と訳されることが多い。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

(2023年03月31日「研究員の眼」)

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