2023年03月23日

米FOMC(23年3月)-政策金利を0.25%引上げ、23年の政策金利見通しは上方修正予想に反して据え置き

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:市場の予想通り、政策金利を0.25%引上げ

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が3月21-22日(現地時間)に開催された。FRBは政策金利を前会合に続いて市場の予想通り0.25%引上げた。量的緩和政策の変更はなかった。

声明文では景気判断部分の変更が小幅に留まった一方、経済見通し部分ではウクライナ戦争に関する記述が削除された一方、米国の金融システムに関する記述が追加された。また、フォワードガイダンス部分では前回までの政策金利に関して「目標レンジの継続的な引上げが適切であろう」との表現が削除され、「幾分の追加的な金融引締めが適切」との表現に変更され、利上げ打ち止めが近い可能性が示唆された。

今回の金融政策方針は前回会合に続いて全会一致での決定となった。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は前回(12月)から、23年と24年の成長率が小幅下方修正されるなどの見直しはあったものの、全般的に小幅な修正に留まった(後掲図表1)。

一方、政策金利見通し(中央値)は23年が上方修正されるとの市場予想に反して、今後の金融システム不安の実体経済やインフレへの影響が不透明なこともあって、前回から横這いとなった。また、24年は小幅上方修正されたものの、25年、長期見通しについて前回から変更はなかった。

2.金融政策の評価:FOMC参加者による政策金利見通しの確信度は低い

シリコンバレー銀行の破綻などを受けた金融システム不安に伴い、金融市場では一時政策金利を据え置くとの見方が強まった。しかし、その後は金融システム不安が小康していることもあり、市場では0.25%の利上げ織り込みが強まっていたため、今回の決定は予想通りとなった。

また、注目されたFOMC参加者の23年の政策金利見通しは横這いとなったものの、後述するようにドットチャートや見通し平均値は小幅な上方修正バイアスを示した。一方、信用収縮の影響が非常に不透明であることが強調されており、政策金利見通しの確信度は低いとみられる。

パウエル議長の記者会見でも、政策金利引上げの理由に対する説明の歯切れが悪く、前回会合以降の経済指標が予想を上回る一方、信用収縮の引締め効果が非常に不透明な中で難しい判断を迫られた様子がうかがわれた。

当研究所は、今回の結果を受けて現時点では5月会合で0.25%利上げし、年内は政策金利を5.0%~5.25%に維持すると予想するが、金融システム不安が流動的な中で見通しは非常に不透明である。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを4.5-4.75%に引き上げることを決定(今回削除)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを4.75-5.0%に引き上げることを決定(今回追加)
  • 加えて、以前発表した計画通り、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率を長期的に2%に戻すために十分に抑制的な金融政策スタンスを達成するためには目標レンジの継続的な引上げが適切であろう(今回削除)
  • 委員会は入手される情報を注視し、金融政策への影響を評価する(今回追加)
  • 委員会は、インフレ率を時間の経過とともに2%に戻すのに十分抑制的な金融政策スタンスを実現するために、幾分の追加的な金融引締めが適切になると想定している(今回追加)
  • 将来の目標レンジの引上げの程度を決定する際、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する予定である(変更なし)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は消費と生産の緩やかな伸びを示している(変更なし)
  • 雇用の伸びはここ数ヵ月で加速し、力強いペースで推移している、失業率は低いままだ(雇用に関して前回の「雇用の伸びはここ数ヵ月堅調」”Job gains have been robust in recent months”から「雇用の伸びはここ数ヵ月で加速し、力強いペースで推移」”Job gains have picked up in recent months and are running at a robust pace”に表現変更)
  • インフレは高止まりしている(前回の「インフレは幾分和らいだものの」”Inflation has eased somewhat but”の表現が削除)
 
(景気見通し)
  • ロシアの対ウクライナ戦争は、多大な人的および経済的困窮を引き起こし、世界的な不透明感の高まりを招いている(今回削除)
  • 米国の金融システムは健全で強靭だ(今回追加)
  • 最近の動向は、家計や企業の信用状況を引き締める結果となり、経済活動、雇用、インフレを圧迫する可能性が高い(今回追加)
  • これらの影響の程度は不透明である(今回追加)
  • 委員会はインフレリスクに引き続き高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 銀行システムは健全で強靭であり、強固な資本と流動性を有している。我々は銀行システムの状況を引き続き注意深く監視し、銀行システムの安全性と健全性を維持するために必要なあらゆる手段を用いる準備がある。
    • より広範な経済と金融政策に目を向けると、インフレ率は依然として高過ぎ、労働市場は非常にタイトな状況が続いている。インフレ率を2%の目標まで引下げることに、引続き強くコミットしている。
    • 本日の会合で、委員会はFF誘導目標金利を0.25%引上げ、目標レンジを4.75%~5.0%としたほか、保有有価証券の大幅な削減を継続する。
    • 前回のFOMC会合以降、経済指標は概ね予想を上回り、経済活動やインフレの勢いを示している。しかし、我々は過去2週間の銀行システムにおける出来事が、家計や企業の信用状況の引締めをもたらし、ひいては経済に影響を与える可能性があると考えている。
    • こうした影響の程度を判断するには時期尚早であり、したがって、金融政策がどのように対応すべきかを判断するには時期尚早である。その結果、現段階で我々はインフレを抑止するために継続的な利上げが適切であるとは予想しておらず、かわりに我々は幾分の追加的な金融引締めが適切であると予想している。
 
  • 主な質疑応答
    • (今回の会合で政策金利据え置きについてどの程度真剣に議論されたか)会議までの数日間、その点について検討した。その結果は今会合で示した通りである。利上げは非常に強いコンセンサスに支えられていた。前会合以降に発表されたインフレと労働市場に関する指標は予想以上に強くなった。信用収縮は金利引締めと同じ方向に働くが、現時点でその評価を正確に行うことはできない。そこで我々は0.25%の利上げを進め、ガイダンスを変更することにした。
    • (声明文で変更された部分の「継続的な利上げ」と「幾分の追加的な金融引締め」の違い)「幾分の追加的な金融引締め」は政策金利について言及している。今回発表した声明文で追加された”may”や”some”という単語に注目して欲しい。我々は明らかに何が起こるか分からないという不確実性を声明文に反映した。信用収縮による経済やインフレへの影響の程度によって今後の金融政策は大きく異なるだろう。
    • (シリコンバレー銀行に何が起こったのか)基本的なレベルではシリコンバレー銀行の経営陣は大失敗をした。銀行が非常に急速に成長する中で、流動性リスクと金利リスクにさらされ、そのリスクをヘッジしなかった。我々は監督と規制の見直しをしており、2度とこのようなことが起こらないように、政策を実行する。シリコンバレー銀行の件は銀行システム全体を覆うような弱点では全くない。
    • (今日の決定を受けて金融市場はFRBが5月に利上げした後、年内すべての会合で利下げを織り込んでいることについて)今日、FOMC参加者見通し(SEP)を発表した。基本的に参加者は比較的緩やかな成長、労働市場における需要と供給のリバランスが徐々に進み、インフレ率は徐々に低下すると予想している。もし、そうなった場合、参加者は今年の利下げを考えていない。経済の行方は不透明であり、政策はSEPで示したものより、実際に起こることを反映することになるだろうが、利下げは基本的な予想ではない。
    • (この2週間の出来事を踏まえて米国経済がソフトランディングできる可能性について)この2週間の出来事が大きな影響を与えたかどうか判断するのは時期尚早だ。問題はこの状態がどの程度継続するかだ。この状態が長く続けば続くほど、信用基準の低下や信用供与の厳格化が進むため、暫くは影響を見守るしかない。しかし、まだソフトランディングの道筋はあると思っており、我々はそれをみつけようとしている。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の18名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(12月)見通しとの比較では、実質GDP成長率が23年と24年で小幅に下方修正された一方、25年は小幅上方修正された。失業率は23年が小幅下方修正された一方、25年が小幅上昇された。PCE価格指数は23年が小幅上方修正された。いずれにせよ、24年の成長率以外は修正幅が小幅に留まったほか、長期見通しに関する修正はなかった。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(3月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、23年が5.1%(前回:5.1%)と前回から横這い予想となった(図表2)。もっとも、23年のドットチャートをみると、FOMC参加者18人のうち、23年の政策金利が5.625%以上と予想した人数は前回の2人から4人に上ったほか、政策金利見通しの平均値が前回の5.22%から5.28%に上昇するなど、前回から上方修正バイアスが高まっていたことが分かる。

前述の通り、パウエル議長は23年内に利下げに転じる可能性を否定してるため、FOMC参加者は次回(5月)以降の会合で0.25%の追加利上げを実施した後、年内は政策金利を据え置く方針を示したことになる。もっとも、声明文で示されたように、米国の金融システム不安に伴う実体経済やインフレへの影響については不透明感が非常に強いために、今回提示されたドットチャートの確信度は通常より大幅に低いとみられる。

一方、24年が4.3%(前回:4.1%)とこちらは+0.2%ポイント上方修正された。また、25年が3.2%(前回:3.2%)、長期見通しが2.5%(前回:2.5%)と25年、長期見通しについての修正はなかった。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月23日「経済・金融フラッシュ」)

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