2023年03月13日

米雇用統計(23年2月)-雇用者数は2ヵ月連続で市場予想を大幅に上回る伸び

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回ったほか、失業率は市場予想を上回る

3月10日、米国労働統計局(BLS)は2月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+31.1万人の増加1(前月改定値:+50.4万人)と+51.7万人から下方修正された前月を下回った一方、市場予想の+22.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.6%(前月:3.4%、市場予想:3.4%)と前月から+0.2%ポイント上昇し、市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率1は62.5%(前月:62.4%、市場予想:62.4%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:堅調な雇用増加が継続する一方、前月比でみた賃金の伸びは鈍化

2月の非農業部門雇用者数は前月に続いて市場予想を大幅に上回る伸びを示した。2月も比較的好天に恵まれたことから、1月に続いて雇用増加の要因として一部暖冬が影響しているとみられるが、雇用統計以外の経済指標も概ね堅調であることを考慮すると、FRBによる大幅な金融引締めにもかかわらず、米国経済は23年入り後に景気のモメンタムが強まった可能性が高い。

一方、失業率は前月からの横這い予想に反して小幅に上昇したものの、後述するように就業者数の増加を上回るペースで労働力人口が増加した影響であり、必ずしも労働市場の悪化を意味しない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を下回り、22年2月以来の伸びに留まるなど、賃金上昇圧力の低下を示した。前年同月比では+4.6%(前月:+4.4%、市場予想:+4.7%)と前月を上回った一方、市場予想は下回った(図表1)。この結果、前年同月比は22年3月の+5.9%をピークに低下しているものの、2月は低下が足踏みとなった。

このようにみると、2月の雇用統計は堅調な雇用増加ペースが継続し、労働市場の回復が続いていることを確認する一方、一部賃金上昇圧力の低下が確認されるなど、インフレの高止まりが懸念される中で良好な結果と言えよう。もっとも、前年同月比でみた賃金上昇率は依然としてFRBが物価目標2%と整合的と考えている3%台後半を大幅に上回っており、FRBの利上げ継続見通しに影響するものではない。

3.事業所調査の詳細:運輸・倉庫、情報で雇用が減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+24.5万人(前月:+33.5万人)と前月から雇用の伸びは鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比+5.0万人(前月:+3.4万人)と前月から伸びが加速したほか、娯楽・宿泊業が+10.5万人(前月:+11.4万人)、医療・社会扶助サービスが+6.3万人(前月:+7.6万人)、専門・ビジネスサービスが+4.5万人(前月:+5.3万人)と前月から小幅鈍化したものの、いずれも堅調な伸びを維持した。一方、運輸・倉庫が▲2.2万人(前月:+1.6万人)と減少に転じたほか、IT関連企業の人員削減を反映して情報が▲2.5万人(前月:▲2.0万人)と前月に続いて雇用が減少した。

財生産部門は前月比+2.0万人(前月:+5.1万人)と前月から伸びが鈍化した。建設業が+2.4万人(前月:+3.5万人)と前月から伸びが鈍化したほか、製造業が▲0.4万人(前月:+1.3万人)と減少に転じた。

政府部門は前月比+4.6万人(前月:+11.8万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が+0.7万人(前月:+0.7万人)と前月並みの伸びを維持した一方、州・地方政府が+3.9万人(前月:+11.1万人)と伸びが鈍化した。
前月(1月)と前々月(12月)の雇用増加数(改定値)は前月が+50.4万人(改定前:+51.7万人)と▲1.3万人下方修正されたほか、前々月が+23.9万人(改定前:+26.0万人)と▲2.1万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲3.4万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って3月8日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+24.2万人(前月改定値:+11.9万人、市場予想:+20.0万人)と+10.6万人から上方修正された前月を上回ったほか、市場予想も上回った。この結果、前月から雇用者数の伸びが鈍化した雇用統計と伸びが加速したADP社の統計で不整合な動きとなった。
 
2月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が33.09ドル(前月:33.01ドル)となり、前月から+8セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.6時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,141.61ドル(前月:1,142.18ドル)となり、前月から減少した(図表4)。前月からのは21年2月以来となる。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は3ヵ月連続で上昇

家計調査のうち、2月の労働力人口は前月対比で+41.9万人(前月:▲0.5万人3)と前月から大幅な増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が+17.7万人(前月:+8.4万人)と前月から伸びが加速したほか、失業者数が+24.2万人(前月:▲8.8万人)と大幅な増加に転じて全体を押し上げた。非労働力人口は▲26.9万人(前月:+17.0万人)と大幅な減少に転じた。これらの結果、労働参加率は62.5%と3ヵ月連続で上昇し、20年3月以来の水準に回復した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は2月が83.1%(前月:82.7%)とこちらも3ヵ月連続で上昇した。男女の内訳は、男性が88.9%(前月:88.5%)と前月から+0.4%ポイント上昇したほか、女性が77.2%(前月:76.9%)と+0.3%ポイント上昇した。

失業率は前月から小幅に上昇したものの、労働力人口の増加が就業者数を上回っており、職探しを再開して労働市場に再参入した人が増加したことが大きい。また、失業率は依然として50年来の低水準を維持しており、労働需給が逼迫している状況に変化はみられない。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
2月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は105.7万人(前月:111.1万人)と前月から▲5.4万人の減少となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは17.6%(前月:19.4%)と前月から▲1.8%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は19.3週(前月:20.4週)と前月から▲1.1週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(139.6万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(406.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5は、2月が6.8%(前月:6.6%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.2%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 2023年から人口推計を変更しているため、2022年と断層が生じている。ここで記載している1月の労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月13日「経済・金融フラッシュ」)

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