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2025年05月07日

米雇用統計(25年4月)-非農業部門雇用者数が市場予想を上回り、失業率は横這い維持と、労働市場は堅調。関税の影響は限定的

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は横這い予想に一致

5月2日、米国労働統計局(BLS)は4月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+17.7万人の増加1(前月改定値:+18.5万人)と+22.8万人から下方修正された前月を下回ったものの、市場予想の+13.8万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.2%、市場予想:4.2%)と前月から横這い、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.5%、市場予想:62.5%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:4月までの労働市場は堅調を維持、足元で関税の影響は限定的

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は4月が市場予想を大幅に上回った一方、後述するように過去2ヵ月分の修正幅が▲5.8万人の下方修正となった。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+15.5万人と過去12ヵ月の月間平均増加ペースの+15.7万人を僅かに下回るペースで堅調な雇用増加が続いていることを確認した。このため、4月に入って「相互関税」をはじめ相次いで関税が賦課されたものの、雇用への影響は限定的に留まっている可能性を示した。

さらに、家計調査でも後述するように労働力人口の増加を伴う形で失業率は横這いを維持しているため、こちらも労働需給の悪化を示していない。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を下回った。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+3.8%(前月:+3.8%、市場予想:+3.9%)と24年7月以来の水準に低下した前月から横這い、小幅な上昇を見込んだ市場予想を下回った(図表1)。このため、4月は賃金上昇圧力が緩和したことを示した。

このようにみると、4月の雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に上回る伸びとなったほか、失業率も維持されており関税政策の影響が労働市場に波及していない状況を示した。もっとも、関税の影響を懸念して企業景況感の雇用関連指数が悪化しているほか、大企業、中小企業の採用計画も下方修正されているため、5月以降の雇用統計で労働市場がどの程度悪化するのか注目される。

3.事業所調査の詳細:運輸・倉庫が増加、連邦政府職員は3ヵ月連続で減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+15.6万人(前月:+16.1万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、運輸・倉庫が前月比+2.9万人(前月:+0.3万人)と前月から伸びが加速した。トランプ関税前の駆け込み輸入や在庫積み上げの影響とみられる。また、専門・ビジネスサービスが+1.7万人(前月:+0.3万人)、金融サービスが+1.4万人(前月:+0.6万人)といずれも前月から伸びが加速した。一方、医療・社会扶助サービスが+5.8万人(前月:+7.7万人)と堅調維持も前月から伸びが鈍化したほか、娯楽・宿泊も+2.4万人(前月:+3.8万人)と伸びが鈍化した。さらに、小売業が▲0.2万人(前月:+2.1万人)と前月からマイナスに転じた。

財生産部門は前月比+1.1万人(前月:+0.9万人)と小幅ながら前月から伸びが加速した。製造業が▲0.1万人(前月:+0.3万人)と前月からマイナスに転じた一方、建設業が+1.1万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが加速し、財生産部門全体を押し上げた。

政府部門は前月比+1.0万人(前月:+1.5万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が▲0.9万人(前月:▲0.4万人)と3ヵ月連続のマイナスとなった一方、州・地方政府は+1.9万人(前月:+1.9万人)と前月並みの伸びを維持した。トランプ政権の連邦政府職員削減の動きが続いており、1月以降の減少数は▲2.6万人となった。BLSは有給休暇や退職金を継続的に受け取っている職員は雇用者数として認識されるとしており、今後も連邦政府職員の減少傾向は持続する可能性が高い。
前月(3月)と前々月(2月)の雇用増加数(改定値)は前月が+18.5万人(改定前:+22.8万人)と▲4.3万人下方修正されたほか、前々月が+10.2万人(改定前:+11.7万人)と▲1.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲5.8万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って4月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+6.2万人(前月改定値:+14.7万人、市場予想:+11.5万人)と+15.5万人から下方修正された前月から大幅に減少し、市場予想も下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用の伸びが鈍化した雇用統計と整合的な動きとなったものの、減少ペースは雇用統計が小幅に留まったのに対して、ADP統計は大幅な減少と乖離が大きくなった。

4月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が36.06ドル(前月:36.00ドル)となり、前月から+6セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.3時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,236.86ドル(前月:1,234.80ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は全体およびプライムエイジともに上昇

家計調査のうち、4月の労働力人口は前月対比で+51.8万人(前月:+23.2万人)と大幅なプラスとなった前月からさらに伸びが加速した。内訳を見ると、失業者数が+8.2万人(前月:+3.1万人)と前月から小幅に伸びが加速したほか、就業者数が+43.6万人(前月:+20.1万人)と前月から大幅に伸びが加速して労働力人口全体を押し上げた。非労働力人口は▲34.3万人(前月:▲5.6万人)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、前月からマイナス幅が大幅に拡大した。

これらの結果、労働参加率は62.6%と2ヵ月連続の上昇となった(図表5)。

一方プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は4月が83.6%(前月:83.3%)とこちらも前月から+0.3%ポイント上昇し、24年9月以来の水準となった。男女の内訳は、男性が89.5%(前月:89.1%)と前月から+0.4%ポイント上昇したほか、女性が77.7%(前月:77.6%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
失業率は4月が4.2%となり、24年5月以降は4.0%~4.2%の狭いレンジでの推移が続いている(前掲図表6)。
 
4月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は167.4万人(前月:149.5万人)と前月から+17.9万人の大幅な増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは23.5%(前月:21.3%)とこちらも前月から+2.2%ポイントと大幅に上昇した(図表7)。一方、平均失業期間は23.2週(前月:22.8週)と前月から+0.4週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(161.6万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(469.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、4月が7.8%(前月:7.9%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.6%ポイント(前月:+3.7%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年05月07日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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