コラム
2023年03月23日

山田哲人「聞き入っちゃってしまって・・・」-WBC日本代表選手の応援歌の歌詞の傾向

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――「#ヌートバーの個人応援歌を」

2023年3月8日、ワールド・ベースボール・クラシック(World Baseball Classic。以下、WBC)が開幕した。WBCは、メジャーリーグベースボール(MLB)機構とMLB選手会により立ち上げられたワールド・ベースボール・クラシック・インク(WBCI)が主催する、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)公認の野球の世界一決定戦のことで、今回で5度目の開催となる。本大会では、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手やダルビッシュ有選手らが日本代表メンバーとして参加しており、大会開催前から盛り上がりを見せていた。開幕後も日本代表は、中国、韓国、チェコ、オーストラリア相手に快勝し、筆者は今まさに2023年3月22日の決勝戦のさなかに執筆をしている。筆者も連日好プレイで魅了する日本代表を応援している訳だが、中でもメジャーリーグ・カージナルスのラーズ・ヌートバー選手には大会開催前から注目していた。その理由は、大会前からヌートバー選手の日本における認知度が低く事前情報がなかったという点だけではなく、ヌートバー選手の応援歌がTwitterを中心に物議を醸していたからである。

日本のプロ野球に関してあまり詳しくない読者の方は知らなかったかもしれないが、第一線で活躍する選手たちはオリジナルの歌詞とメロディで構成された独自の応援歌を擁している。大谷選手や吉田正尚選手などのメジャー組の打席では、日本での所属球団在籍時に使用されていた応援歌が使われており、選手が打席に立つ際には応援団を中心に選手に向けて合唱されている。しかし、日本の球団での所属経験がないヌートバー選手に関しては、当初は日本野球機構(NPB)オフィシャルソング「Dream Park~野球場へゆこう~」を使うことが決まりかけていたが、ファンの間では、ヌートバーのオリジナル応援歌が生まれることを期待する声が高まり、Twitter上で「#ヌートバー応援歌の変更を望みます」「#ヌートバーの個人応援歌を」とのタグつきで、その決定に対して抗議や嘆願するファンが多くいたのである。その甲斐あってセ・リーグ、パ・リーグ12球団の応援団で構成される侍ジャパン応援団が、新たな侍ジャパン応援汎用(はんよう)曲を制作し、ヌートバー選手の打席で使用されることになった。そのような経緯を知っていたため、筆者は彼自身の活躍と同時に彼の応援歌にも注目していたのである。

前述した通り、多くの選手がその選手をイメージしたオリジナルの歌詞とメロディの応援歌を擁しており、その応援歌を聞くこともプロ野球観戦の醍醐味のひとつともいえるわけだが、各応援歌にはどのようなメッセージが込められているのだろうか。

2――「夢」

筆者はWBCに出場する18選手の各応援歌をユーザーローカルテキストマイニングツール( https://textmining.userlocal.jp/ )を用いて歌詞を分析し、単語出現頻度を調べてみた。名詞、動詞それぞれの出現頻度を見ると、名詞では「夢」が7回1、「遥か」が3回、動詞では「魅せる」が4回、「あふれる」「目指す」がそれぞれ3回で、高頻出ワードとなっている。その中でも夢というワードに絞って見ると以下のような歌詞で登場している。
 
  • 夢へと続く(山田哲人)
  • さあ夢を拓け(中野拓夢)
  • 遥か夢追い求めて(近藤健介)
  • 夢の向こう側へ(大谷翔平)
  • 夢あふれるフィールド(岡本和真)
  • 皆が夢見続けてきた(中村悠平)
 
同じ「夢」でも、応援歌ごとに当該選手にとっての夢なのか、ファンにとっての夢なのか異なることがわかる。ファンが抱く夢(優勝など)の達成のために選手に期待しているパターンと選手自体の夢の達成のために力を出せといった鼓舞しているパターンに分けられるとも言えるだろう。
表1 WBC出場メンバーの応援歌の高頻出単語
 
1 山田哲人の応援歌で2回出現するため、「夢」の登場回数は7回だが、使用されている応援歌の数は6曲。

3――セ・パ両リーグを見ると

18選手の応援歌でもこのように重なるキーワードがあるわけなので、セ・リーグとパ・リーグそれぞれの球団が擁する応援歌全てを調べてみれば、より人気のある、使われやすいキーワードが見えてくるかもしれない。

そこで、プロ野球の応援歌をまとめている「プロ野球応援歌まとめ(yakyu-ouen.net)」2を調べてみると、2023年3月1日現在でセ・リーグでは監督を除いて応援歌を擁している選手は111人であった3。彼らの応援歌から単語出現頻度を分析した結果、セ・リーグでは、名詞では「勝利」が28回、「夢」が24回、動詞では「抜ける」が15回、「振る」が13回、「魅せる」が12回で、高頻出ワードとなっている。また、パ・リーグでは応援歌を擁している選手は100人であった。そして、単語出現頻度を分析した結果、名詞では「勝利」が18回、「夢」が13回、動詞では「飛ぶ」が18回、「行く」が15回、「抜ける」が13回で、高頻出ワードとなっている。応援歌の数自体がセ・リーグの方が多いのも確かだが、それを考慮に入れても、セ・リーグの方が「勝利」も「夢」も10回以上多く使われている事がわかる。

また、セ・リーグでは「君」という名詞が10回使われているが、パ・リーグでは3回しか使われていない。また、パ・リーグでは「敵」という名詞が11回使われているが、セ・リーグでは2回しか使われていないなど、リーグごとに特徴がみられる。また、パ・リーグにおいては「スピード」という外来語が6回と高頻出単語になっているのも特徴的だ。両リーグとも「かっ飛ばせ」「飛び立て」といった鼓舞させる際に使われる「飛ぶ」、「駆け抜ける」「振り抜く」といった選手の特徴づけるプレイを体現する「抜く」、といったワードの出現回数が多い事が共通している4
表2 セ・パそれぞれの応援歌の高頻出単語
 
2 https://www.yakyu-ouen.net/
3 境地バージョンなど複数の応援歌を持つ選手は通常版の応援歌だけを分析に使用
4 本分析では無我夢中の夢は「夢」にカウントしないなど、分析後筆者自身結果を精査した点もあり、結果はあくまでも傾向を知ってもらうレベル感でまとめているため、分析の仕方やワードの切り方によっては結果が異なることを留意したい。

4――是非球場で聞いてもらいたい

決勝戦の試合終了後のインタビューで、山田哲人選手がファンによる大合唱に対して「(コールを)聞き入っちゃってしまって、初球から振れないというか、(聞くために)ちょっと待とうかなって思いました」と答えていたが、コールや応援歌による選手への鼓舞は、選手自身にもしっかり届いていて、勇気に繋がっているのだ。筆者自身メジャーリーグの試合を現地でも見たことあるし、日本のプロ野球の球場にもよく足を運ぶのだが、応援団主導によりファン一丸となって歌われる応援歌は日本特有の文化であり、その曲を生で聞くことも球場に足を運ぶ醍醐味と言えるだろう。今回のWBCの日本代表の活躍を通して、野球に興味をもった読者の皆さんには是非、日本のプロ野球を観戦にいって、生の臨場感を体験してもらい、応援歌を口ずさんでもらいたいと思った次第である。

最後に、侍JAPAN、優勝おめでとう!!
 
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年03月23日「研究員の眼」)

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