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- 世帯年収別に見たコロナ禍3年の家計収支-給付金や消費減少で貯蓄増加、消費は回復傾向だが子育て世帯で鈍さも
2023年03月20日
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1――はじめに~コロナ禍3年余りだが低迷の続く個人消費、現下の家計消費にはプラス・マイナス両面
新型コロナウイルス感染症が流行し3年余りが経過したが、旅行やレジャー、外食などの外出関連の消費が回復しきれていないために個人消費の水準は未だコロナ禍前の水準に回復していない。GDP統計の家計最終消費支出に相当する総消費動向指数を見ると、2023年1月(103.9)ではコロナ禍の影響がさほど見られなかった2020年2月(104.9)の水準を未だ下回っている(図表1)。また、この1年余りの間、エネルギーや原材料価格が上昇し、コスト増による価格転嫁が進むことで、2021年半ばから物価高が進行している。2023年1月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比4.2%にのぼる(図表2)。
つまり、現下の家計において、支出面では、コロナ禍による行動変容で消費が減った状況と物価高の進行で負担が増している状況との両面が存在する。また、収入面でも、2020年は国民1人あたり一律10万円の「特別定額給付金」が給付された一方、コロナ禍で苦境に立つ業種に従事する労働者などでは収入が減少するなど、コロナ禍の家計収支にはプラス・マイナス両面が存在する。
つまり、現下の家計において、支出面では、コロナ禍による行動変容で消費が減った状況と物価高の進行で負担が増している状況との両面が存在する。また、収入面でも、2020年は国民1人あたり一律10万円の「特別定額給付金」が給付された一方、コロナ禍で苦境に立つ業種に従事する労働者などでは収入が減少するなど、コロナ禍の家計収支にはプラス・マイナス両面が存在する。
なお、物価高の進行で増している家計負担は、電気代や食費など必需性の高い支出項目を中心としたものであり、家計に占める必需的消費の占める割合の高い低所得世帯の方が大きな影響を受けやすい。また、コロナ禍による収入減少は、非正規雇用者など相対的に賃金水準の低い層を中心としており1、世帯収入の多寡で家計が受ける影響の大きさは異なっている。
このような中で本稿では、総務省「家計調査」を用いて、あらためてコロナ禍3年間における二人以上勤労者世帯の家計収支の状況について、収入階級別に捉える。
1 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化」、ニッセイ基礎研レポート(2021/4/20)
このような中で本稿では、総務省「家計調査」を用いて、あらためてコロナ禍3年間における二人以上勤労者世帯の家計収支の状況について、収入階級別に捉える。
1 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化」、ニッセイ基礎研レポート(2021/4/20)
2――家計収支の変化~給付金や消費減少で貯蓄増加、消費は回復傾向だが子育て世帯で鈍さも
1|実収入の変化~給付金や雇用環境改善、「女性活躍」で増加傾向だが温度差も、子育て世帯で厳しさも
年間収入五分位階級2別に二人以上勤労者世帯の実収入3を見ると、第II階級の2021年(実額及び実質増減率)や2022年(実質増減率)を除けば、いずれの階級でも、いずれの調査年でもコロナ禍前の2019年より増えている(図表3(a)~(d))。
ただし、実収入の増加要因には違いがある。2020年の増加要因は全ての階級で主に「特別定額給付金」を含む他の特別収入の増加によるものである。加えて、全ての階級で世帯主の配偶者の収入(主に妻の勤め先収入4)も増加しており、特にIV階級(2019年より+14,117円、実質増減率+15.0%)と第I階級(同+1,581円、同+6.2%)での増加が目立つ。一方、世帯主の収入(主に夫の勤め先収入5)は、第IV階級(同+1,363円、同+0.3%)以外ではいずれも減少しており、第II階級(同▲12,261円、同▲3.6%)と第III階級(同▲11,205円、同▲2.7%)での減少が比較的目立つ。
なお、第I階級は65歳以上の平均人員数が平均を超えて高齢者世帯が多い一方、第II~Ⅳ階級は18歳未満の平均人員数が平均を上回り、子育て世帯が多い傾向がある(図表3(f))。つまり、子育て世帯が比較的多い第II階級や第Ⅲ階級(世帯年収600万円前後)では、コロナ禍で夫の収入減少がやや目立つとともに、妻の収入も他層ほどには増えていないことになる。
2021年と2022年でも2020年と同様、全ての階級で配偶者の収入が増えており、第I~III階級を中心に2020年と比べて増加傾向は強まっている。一方、世帯主の収入は、2020年でも増えていた第I階級に加えて、第Ⅳ階級と第Ⅴ階級でも増えている。これらの状況から、コロナ禍の経過とともに雇用環境が改善している様子がうかがえる。ただし、2022年では2021年までと比べて収入金額の増加幅は拡大しても、物価を考慮した実質増減率の増加幅は縮小しており、物価高の進行が収入の伸びを鈍化させている様子も見てとれる。
ところで、世帯主の収入の増加は一部の階級にとどまる一方、配偶者の収入は、全ての階級で、いずれの調査年でも増えている。この背景には、近年の「女性の活躍」推進政策によって女性の正規雇用者数が増えており、女性全体の賃金水準が上がっていることや、コロナ禍も相まって需要が増している医療や福祉領域の就業者には従来から女性が多いことなどがあげられる(詳しくは後述)。
可処分所得は実収入と連動しており、第II階級の2021年と2022年を除けば、いずれの階級でも、いずれの調査年においてもコロナ禍前より増えている(図表3(a)~(c)、(e))。なお、第II階級の2022年も実額では2019年より増えているが(+1,388円)、物価を考慮した実質増減率では減少している(▲2.3%)。
年間収入五分位階級2別に二人以上勤労者世帯の実収入3を見ると、第II階級の2021年(実額及び実質増減率)や2022年(実質増減率)を除けば、いずれの階級でも、いずれの調査年でもコロナ禍前の2019年より増えている(図表3(a)~(d))。
ただし、実収入の増加要因には違いがある。2020年の増加要因は全ての階級で主に「特別定額給付金」を含む他の特別収入の増加によるものである。加えて、全ての階級で世帯主の配偶者の収入(主に妻の勤め先収入4)も増加しており、特にIV階級(2019年より+14,117円、実質増減率+15.0%)と第I階級(同+1,581円、同+6.2%)での増加が目立つ。一方、世帯主の収入(主に夫の勤め先収入5)は、第IV階級(同+1,363円、同+0.3%)以外ではいずれも減少しており、第II階級(同▲12,261円、同▲3.6%)と第III階級(同▲11,205円、同▲2.7%)での減少が比較的目立つ。
なお、第I階級は65歳以上の平均人員数が平均を超えて高齢者世帯が多い一方、第II~Ⅳ階級は18歳未満の平均人員数が平均を上回り、子育て世帯が多い傾向がある(図表3(f))。つまり、子育て世帯が比較的多い第II階級や第Ⅲ階級(世帯年収600万円前後)では、コロナ禍で夫の収入減少がやや目立つとともに、妻の収入も他層ほどには増えていないことになる。
2021年と2022年でも2020年と同様、全ての階級で配偶者の収入が増えており、第I~III階級を中心に2020年と比べて増加傾向は強まっている。一方、世帯主の収入は、2020年でも増えていた第I階級に加えて、第Ⅳ階級と第Ⅴ階級でも増えている。これらの状況から、コロナ禍の経過とともに雇用環境が改善している様子がうかがえる。ただし、2022年では2021年までと比べて収入金額の増加幅は拡大しても、物価を考慮した実質増減率の増加幅は縮小しており、物価高の進行が収入の伸びを鈍化させている様子も見てとれる。
ところで、世帯主の収入の増加は一部の階級にとどまる一方、配偶者の収入は、全ての階級で、いずれの調査年でも増えている。この背景には、近年の「女性の活躍」推進政策によって女性の正規雇用者数が増えており、女性全体の賃金水準が上がっていることや、コロナ禍も相まって需要が増している医療や福祉領域の就業者には従来から女性が多いことなどがあげられる(詳しくは後述)。
可処分所得は実収入と連動しており、第II階級の2021年と2022年を除けば、いずれの階級でも、いずれの調査年においてもコロナ禍前より増えている(図表3(a)~(c)、(e))。なお、第II階級の2022年も実額では2019年より増えているが(+1,388円)、物価を考慮した実質増減率では減少している(▲2.3%)。
2 五分位階級とは調査対象を世帯収入の低い方から順番に並べて五等分したもので、第Ⅰ階級が最も収入の低い層である。
3 預貯金引出や財産売却、クレジット借入金などを除く世帯全体の収入。
4 「世帯主の配偶者の収入」に占める「うち女」の割合は収入階級によらず95%以上
5 「世帯主の収入」に占める「うち男」の割合は第I五分位階級では80%以上、第II五分位階級以上では90%以上
(2023年03月20日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/12 | 増え行く単身世帯と家計消費への影響-世帯構造変化に基づく2050年までの家計消費の推計 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/06/06 | 家計消費の動向(単身世帯の比較:~2025年3月)-節約余地が小さく、二人以上世帯と比べて弱い消費抑制傾向 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/06/06 | 家計消費の動向-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研マンスリー |
2025/05/28 | インバウンド消費の動向(2025年1-3月期)-四半期初の1千万人越え、2025年の消費額は10兆円が視野 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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